第26話 今後
街に戻る前日の野営地で、リルを聖獣の姿で連れていくか、人の姿で連れていくかを話し合っていた。
聖獣『幻氷聖狐』のまま連れ帰り、従魔として冒険者ギルドに登録するか、人の姿で連れ帰り、奴隷として登録するか……どちらにしても目立つよな。
聖獣のままだと、普通の人々には霜牙の丘陵に稀に出現する『幻氷弧』って説明しても通じるとは思うが、上級冒険者や、希少な獣――いわゆる幻獣を好んで蒐集する貴族にはそれを見抜く者もいる。
人の姿で連れ帰った場合、上級魔法職やエルウェ教の高位神官などの中には、幻影魔法を看破できる者もいる。しかも、見た目がものすごく色気のある美人だから、かなり注目を浴び、看破されるリスクもその分高まる。
どちらにしてもリスクはある。ならば正直に『幻氷聖狐』として、従魔登録したほうが……
「いえ、やはり人の姿がいい。『幻氷聖狐』を従魔にしているなんて知れ渡れば、すぐに権力者が動くわ」
「うぐっ……」
確かに……リルの母親であるセリスは聖ヴァルシア国王に捕らわれていたというし。
「それに、幻影魔法を看破できないよう、私が常に【鑑定阻害】の魔法をリルにかけておくわ。今の私の魔法力を上回る魔法使いや魔術師なんて、はっきり言っていないと思うの。女神様と直接お話をしてから、魔法力がとんでもないことになってしまって……自分でも怖いわ。世界を……征服できそう…………」
――こわっ! 本当にできてしまいそうなところが……こわっ! まぁでも……
「……フェリエが本当にそれを望む時が来たら、俺とリヴィアが命を懸けて道を切り開くよ。な、リヴィア?」
『ふふ、無論だ。我が君!』
「リ、リルも! リルも世界征服する!」
「ああ、もちろんリルも一緒だ!」
「やったぁー! みんないっしょ~!」
フェリエは、呆気にとられた表情で口が半開きになっている。めずらしい。まぁそれでも、まったく美しさは損なわないけど。
「……もう、何言ってるのぉ、みんなしておちょくらないでよ。ふふ、私はみんなで一緒に、幸せに暮らしたいだけよ」
ひとしきり皆で笑い合い、幸せな気分に浸る。こんなに心から幸せを感じられるのは、いつ以来だろう。
「それに、リルが早く人間の身体を手に入れるためにも、常日頃から人として生きていかなきゃ。そして、その過程をつぶさに研究していけば、私の【魂の幻影】をさらに高めることになり、リルの人間化を早めることになる。相乗効果が生まれるの」
「……本当にそんなことができるのかな?」
「実際にリヴィアがいるじゃない? リヴィアの身体については、ルミスが誰よりも詳しいでしょ?」
「――ふへぇっ!」 思わず変な声が漏れてしまった……
『そうだな。我が君には、私は決して何も隠さず、もうそれこそ、身体の隅々まで……つぶさに……』
うっ……脳裏に余計な想像がよぎって、否定はできない……
「リルをなるべく早く人間化できるようにする。そして、必ず……【魂の幻影】を進化させて、リヴィアを私の目の前に……」
フェリエは本当にリヴィアが好きなんだな。
「わかった。じゃあ、リルは人の姿で連れて帰るとして、問題がもう一つ。リルを冒険者ギルドに登録させるためには、おれの奴隷として登録するしかない。どこで隷属契約を結ぶかだけど……」
リヴィアと同じで、リルも冒険者としては登録できない。『誓約の魔紙』という嘘を書くと文字が光る一種の魔道具で、冒険者登録は行われるからだ。いわゆる真偽判定が行われる。
だが、冒険者の奴隷であれば、奴隷紋を見せるだけで登録は済む。
問題はどこでリルと隷属契約を結ぶかだが……通常、隷属契約は奴隷館で契約魔法士によって行われる。政府公認奴隷商で契約するのが普通だが、聖獣との隷属契約ってバレずにできるものだろうか? もしくは、かなりのお金を積んで、闇商あたりに頼むか……あまり関わりたくはないが。
「ん? それは今ここで私がするよ?」
「――へ? フェリエは契約魔法まで使えるの!?」
「うん。『契約魔法』って名前がついているけど、いわゆる『精神干渉魔法』の一種だからね。そして、『精神干渉魔法』はもとをたどれば『神聖魔法』の派生だから」
「えっ!? そうなの!?」
「うん。ただ、あまり知られてないことだけどね。神殿はひた隠しにしてるし」
ま、まぁ、あまりイメージは良くないよな。隷属契約を結ぶ魔法がもとをただせば神聖魔法だったなんて。
「あ、でも隷属契約には『誓約の魔紙』が必要なんじゃ……?」
「あれは契約魔法士の補助に必要なだけで、本来は要らないものよ。最初にリヴィアと結んだ隷属契約は、少し特殊だから使ったけど。通常の隷属契約なら、私はそんな補助は一切必要としないよ」
ぬおっ……さすがは聖女様。
「さ、チャチャッとやっちゃいましょう――〈彼の魂名は汝が主なり——刻め、縛れ、隷契成就…………〉」
俺とフェリエがリルに魔素を流し、あっさりと俺とリルの間に隷属契約が成立した。ちなみに、幻氷聖狐の時は首元に奴隷紋が浮かび、人間の姿の時も首元――鎖骨の内側、服の隙間から微かに覗く位置に浮かぶようになった。
「なんか、こっちの方が色っぽいかなーって」
完全にフェリエの趣味だった……
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