第22話 女の子
今日も今日とて、魔獣を狩る。『霜牙の丘陵』で霜狼を中心に魔獣狩りを続ける。基本は俺が一人で魔獣狩りをして、危ない時にリヴィアに助けに入ってもらう。
お金稼ぎと同時に、俺の鍛錬と魂位上げも目的としているため、討伐数を最優先した狩りと比べれば、効率は落ちる。それでもなお、ソロでの狩りとは雲泥の差があり、空間魔法なしでは素材の搬送すら困難なほどの成果を上げていた。
ちょうど、昼休憩でも取ろうかと思っていたら、前方の地面が不自然に盛り上がりながらこちらへ近づいてくる。土と霜が押し上げられ、地面の中の“何か”が這って近づいてきている様子がわかる。ああ、こいつ……
「――収納」
前方の地面を削り取る。すると現れたのは……雪と土を纏った全長1メートルくらいの節足蟲だった。『霜牙の丘陵』に巣食う大型節足蟲『霜喰い蟲』だ。
白く硬化した外殻には氷の棘が無数に突き出しており、青白く光る大きな複眼と鋸のような顎が、一瞬の躊躇ののち、俺に襲い掛かってきた。
「相変わらずキモイな、トゲデカダンゴムシ!」
一瞬にしてロングスピアに両手に持ち、大きな複眼に突き刺す。続けてメイスを魔法空間から取り出して、硬い外殻に覆われた頭に一撃を入れる。それで頭がつぶれるわけではないが、一時動きが止まる。その瞬間、目に突き刺さったままのスピアにメイスを打ち込んだ。
「ギピャー!」と、気持ち悪い叫び声をあげた後、霜喰い蟲は沈黙した。
「ルミス、まだ来るぞ!」
二匹の霜喰い蟲が、同じようにリヴィアに向かっていた。
「リヴィア、そいつの外殻は固い! 剣では……!」
二匹はリヴィアの近くまで来ると、地面から飛び上がり襲い掛かった。
――スパン! スパンッ!
霜喰い蟲は二匹ともきれいに中心部で切断された。
「やはり切れ味がいいな。この我が君から貸与された剣は」
「いや、俺が使ってもそうはならないよ……」
リヴィアが使っている剣は、一応ヴァイス男爵家の家宝とされていた剣だ。だが、以前俺が使っていたときは、この硬い外殻の霜喰い蟲を切断するには至らなかった。
コイツを倒すセオリーは、先ほど俺がやったようにメイスやハンマーを力任せに何度も叩きつけるのが一番手っ取り早い。コイツは動きが遅いので、それはさほど難しいことではないが、そうするとコイツの中で一番高く売れる『氷外殻』が傷つき、魔晶石くらいしか売れるところがなくなる。
だから、俺は目から脳髄を突き刺して倒すことを基本としている。まぁ、それでも一発は頭にメイスを叩き込むけどね、動きを止めるために。
それがどうでしょう、リヴィアが切断した霜喰い蟲は外殻と外殻の隙間に沿って、きれいに切断しているため、一枚も『氷外殻』が傷ついていない。すごい、全部売れるじゃん!
「これは解体をギルドに任せた方が実入りがよさそうだな~」
死骸ごと魔法空間に収納する。丸々一匹卸せば5~6万バースくらいにはなるぞ。低級冒険者の狩場で、これはデカいな。
と思いながらも、つい先日、『氷霜王鹿』の100万バース越えを経験してしまうと、物足りなく感じてしまう……って、いかん、いかん! フェリエたちと出会って気が大きくなってしまう。今の自分の力量を勘違いしないようにしなければ!
「――キュピー!!」
右手の方向から不思議な叫び声が聞こえる。
「なんだろう……ちょっと、覗いてみようか」
「ああ、慎重にな。我が君」
なるべく気配を殺しながら、叫び声の方に急ぐ。岩陰に身を隠しながら、そっと覗き見ると……10歳くらいの女の子が霜喰い蟲四匹に囲まれていた。
「――なっ! 助ける!」
言うと同時に俺は岩陰から飛び出る。
『待って、ルミス! あれは……ああ、もう、リヴィア!』
「承知!」
フェリエが何か言っていたが、今は時間がない。駆け寄りながら、弓を手に取り速射する。3発中、2発が当たるが、「カンッ」と乾いた音だけが響く。ダメージなど与えられるはずないが、注意をこちらに向けることは出来た。
「うおらぁー!」
ショートスピアを取り出し、二匹の目に突き立てる。残りはとりあえず手当たり次第にメイスで頭部を打ちつけるが、一匹に思いっきり体当たりをくらった。
「ぐはっ」 氷の棘がわき腹に刺さって出血しているが、怪我なぞ気にしなくていいという贅沢が今はある。身体が動くうちは攻撃を続ける!
『もう!――聖癒!』
俺の身体を柔らかな光が包み、痛みが見る見るうちに引いていく。それどころかある程度体力も回復し、身体の動きにキレが戻る。
俺に体当たりをくらわせた霜喰い蟲はリヴィアが両断していた。立て続けにスピアが刺さっていないもう一匹も倒している。俺もスピアが目に刺さっている残り二匹を先程の要領で屠った。
「ふぅ……ありがとう、フェリエ。ケガ治してくれて」
『はぁ、もちろん、何が何でも治しますけど……戦い方がどっかの“狂剣”さんと似てきて、お姉ちゃん、心配になってきた……」
「うぐっ……」
“狂剣の聖騎士”の異名を持つリヴィアが気まずい表情を浮かべている。リヴィアは生前、聖騎士のたしなみとして多少の神聖魔法が使えたそうで、怪我を負っても自分に回復魔法を瞬時にかけながら、戦い続けていたそうだ。そしたらいつの間にか、“狂剣”などと呼ばれるようになっていたとのこと。
だが本人曰く、内在魔素量も少なく、神聖魔法も拙かったため、満足いくまで剣を振るえなかった。それが内在魔素量がほぼ無尽蔵で、世界最高峰の神聖魔法を操るフェリエと一緒になったことで、
「これで死ぬまで、いや、死んでも生き返って剣が振るえる!」
と、喜ぶ始末。確かに『剣に狂う』聖騎士様だ……
いや、俺はそこまでじゃないよぉ……
「はは……ちょっと緊急だったから」
そして俺は、雪の上にへたり込んで座っている女の子に近づいて行った。
「大丈夫? 怪我はない? 俺はバルサドの街の冒険者ルミス。君は一人なの?」
かわいい女の子だ。少しおびえた表情を見せているので、安心させるように軽く微笑む。
「――キュピッ!」
「キュピ?」
女の子は急に俺の手を取り走り始めた。
「え、え? ちょっと!?」
『あ、もうルミス! その子は! ……はぁ』
「行きましょう、フェリエ様」
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