第20話 初めての夜は
フェリエ様は俺の上に跨り、白聖衣に手をかける。と同時に、キッと扉を睨んだ。
……………………音はならない。ふぅ~
同じく、ほっと息をついたフェリエ様は、少し恥じらいながら白聖衣を脱いだ。
「――尊い」
尊い。尊すぎる。下着も脱ぎ、一糸まとわぬ姿となられた聖女様……いや、もはや女神だ……
いつの間にか、俺の衣服も脱がされ、柔らかな感触と甘い香りに包まれる……緊張からか、少し身体が硬くなったフェリエ様を、体勢を入れ替え下に組み敷く。
「最初ですから……俺が……」
「うん……よ、よろしくお願いします」
か、かわいすぎる……最初の勢いはどこかに吹っ飛び、今は顔を赤らめ、ただただ恥ずかしそうに眼を閉じている。
優しく唇を重ね、身体の硬さが取れてきたところで、首筋へ……
「はぁ……ん、あん」
フェリエ様の甘い声が、耳朶を打った……
◇
そして俺は、フェリエ様とは別の美少女を組み敷いていた。戦いではあまり見せない緊張の面持ちで顔をこわばらせている。
「わ、私も、その、初めてなので、その、よ、よろしくお願いします……」
こちらもまた、顔を赤らめ目を閉じているリヴィア。優しく唇を重ね、少しでも緊張をほぐそうとするが、軽い嗚咽と一筋の涙がこぼれる。
「ご、ごめん、リヴィア。嫌だった?」
「ち、ちがう! 断じてそうではない……うっうっ……だって、この姿でも愛してくれるなんて思わなかったから……我が君は、ルミスは……気持ち悪くないのか? だってこの私の姿は……」
「きれい……たまらなく愛おしい……それ以外の感想は出てこないよ?」
「――ルミス! ありがとう、永遠の……我が君」
鍛え抜かれ美しく引き締まった身体でありながら、女性としての優しく柔らかい感触が俺を包む。
フェリエ様とはまた違った隔絶した美しさに、俺は、自分のすべてを……解き放った……
◇
俺はベッドに仰向けになり、天井に描かれた女神様の天地創造の絵画を見つめていた……わけではなく、人が描く女神様など比較にならぬほどの美しい女神様を見つめていた。
「……ルミス……ルミス……ああっ!」
ビクッ、軽く痙攣して、俺にもたれかかってくるフェリエ様を、やさしく抱きしめる。「ルミス、ルミス」と俺の名前を連呼するフェリエ様が、とてつもなく愛おしい……
◇
艶やかに引き締まった背中を眺めながら、俺が激しく動くたびに「あっ、あっ、あん」と声を上げる美しき聖騎士。顔が見たい、と言ったら一生懸命こちらに顔を向けようとする。乱れた髪が汗ばむ顔に張り付き、とても艶めかしい……
◇
可憐な聖女が俺に跨り、美しき聖騎士を組み敷く。たまにその逆も。幾度となく、幾度となく、俺はすべてを解き放つ……
……………………いや、おかしい。さすがにおかしい……いくら相手が超絶美少女たちとはいえ……そこまでの『聖なる力』を俺は備えていない。人並程度だと思うけど……いや、何と言うか、異常なまでの回復力……
俺の『聖剣』が、衰えることを知らない。もう何度も『聖光爆裂斬』を全力で放っているというのに……
「あんっ、あんっ……すごいよぉ、ルミス~」
「あ、あの、フェリエ様……そろそろ寝ないと、明日が……」
「ん、うふ。そんなこと言いながら、私のおなかをあなたの聖剣が突き刺しているのですけれど? ついさっき、あなたのすべてを私にそそいだばかりなのに……ふふ」
「い、いや。何というか、異常なまでの回復力……え? あれ? もしかして……?」
【聖域】……そして【聖風草】。ともに怪我や疲労、体調不良を回復させる効果を持つという。しかもそれを歴代に比することもできないほどの神聖力を持った聖女様が施されているとなれば……
「あの……フェリエ様の【聖域】や【聖風草】って、その、こっちの方の回復までしてしまうのですか……? ん、あっ……」
「ん……ひらない(知らない)……」
淡く輝く聖風草の中から、フェリエ様のくぐもった声が聞こえる。
「ぷはっ」と顔を上げたフェリエ様は、口から垂れたよだれを粗野に手で拭う。だがそれすら美しさを伴うって……どういうこと!
「そうだね~。この神聖魔法は人の願いによって回復力に差が出てくるから。例えば、病気と怪我を負っている人がいたら、もちろん両方を回復するのだけれど、より治ってほしいって思うほうに回復の力がそそがれるかな。だ・か・ら……今は、ルミスがより願っている力をより回復させていると思うよ。ルミス~……やらしい~、ふふ」
「ふへぇ! そ、そうなんですか!? いや、だって……し、仕方ないじゃないですか……もうずっとこのまま三人でって、思っちゃうから……」
「いやんっ! もう、かわいい! さっきはとっても頼りがいがあって、男の子ぉ! って思わせておきながら、今度はかわいさに全力で振れるなんて! ギャップで殺す気かぁ~!」
フェリエ様が全力で飛びついてきた。首から肩から甘噛みされまくる。
『い、愛おしすぎるぞ……我が君は……』
「ねぇ、ルミス。一つお願いがあるの」
「ん、あっ、ん。 はい……何ですか?」
「それ! もう敬語やめてよぉ。それと“様”をつけるのも! リヴィアと同じにして!」
「で、でも……聖女様に?」
「もう私は、世間一般で言う『聖女』ではありません。私はあなただけの聖女でありたいの……」
少し拗ねたようなフェリエ様の様子は、歳相応の少女に見えた。
……そうだな。人に与えられた“役割”とは、どこかで決別したい、よな。俺もよくわかるよ、フェリエ……
「ああ、フェリエ……俺だけの聖女さま」
「――ルミス! ずっと、ずっと、あなただけの聖女でいるね!」
少し声を湿らせたフェリエが、何度も何度も俺の首筋に顔をうずめてくる。どうやらこれがフェリエのお気に入りらしい。言葉では表せないほどの愛情がこみあげてくる。
と、同時に『聖なる力』も完全回復していくのであった……そして、初めての夜は更けていく……寝ずに朝まで……いや、幸せか!
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