第19話 今度こそ
冒険者ギルド・バルサド支部副支部長の『アルノー・デランジュ』。
帝国北部ノルヴァン州北東部に領地を持つデランジュ子爵家の三男。典型的な貴族のバカ息子で、かつては領地内で行政官として働いていたが、無能すぎて失職し、このバルサド支部の副支部長という名誉職を与えられたという。
それでも本人は実家からの仕送りもあり、金は潤沢。金目当ての冒険者を囲い込み、好き勝手に振る舞っている。冒険者ギルドは一切権限を与えていないが、それでも本人は様々なことに口を挟んできて、最近は目に余る、とはグレン氏談。
「そやつら一派が野外で襲いかかってきた場合は、殺して問題ないか?」
リヴィアが急に恐ろしいことを言い始めた!
「ない」
即答のグレン氏。こわいっ!
「だが、可能ならリーダー格を生け捕りにしてほしい。こちらで尋問したい。手足は削いでもらっても構わん」
こわいって!
「そうか。歩けなくなると連れ帰るのに不便だから、切り落とすのは両腕だけにしよう」
ひぃ〜〜!
『もっとよ! もっとルミスを怖がらせて、リヴィア! ああ、その表情……ぐへ』
……フェリエ様もある意味こわいよ〜〜
「で、でもあの人……デラーク辺境伯の親戚だって、すごく威張ってましたよ。子供の頃はすごく叔父上の辺境伯にかわいがってもらったって、訊いてもないのにペラペラと……」
帝国北部ノルヴァン州の雄、グランジェ・デラーク辺境伯。北方諸国連合に睨みを効かし、帝国北部軍の総帥の地位を占める。その辺境伯にかわいがってもらったと言っていたが……
一度、ギルドの酒場でご飯を食べていたら、急にサブマスが隣に座り、一時間くらい自慢話を聞かされた。脂ぎった顔を近づけられて気持ち悪かった……おまけに香水の匂いがどぎつくて、吐きそうになった。
あの時B級冒険者パーティー『雪原の剣』のみんなが連れ出してくれなかったら……俺は……吐いてた!
「ブラフだ。親戚と言っても、遠縁の子爵家の三男なぞ、他人に過ぎん。それにデラーク辺境伯は貴族である以前に、生粋の武人だ。あの豚が秀でた武人というのであれば、辺境伯の視界に入るであろうが、あの醜いだけの豚は認識すらされていないであろうよ」
す、すごい言われようだ……だが、まぁ、あの人ならそうかも……
「……我が君。その話しかけられた際に……まさか、触れられたりしてないだろうな……?」
「え? ああ、どうだったかな……腰に手を回されてはいたような……」
「――斬首だな!」
「待って〜!」
スッと席を立つリヴィアに慌ててすがりつく。
「はは、さすがにこの建物内ではやめてくれ。それ以外だったら大抵はもみ消そう」
グレンさん……目が笑ってないから!
「だが、ますます狙われるぞ。君がリヴィアを連れていたらな」
「リヴィアに手を出されたら――俺もさすがに……」
俺が静かに言うと、グレンさんが微かに、ニヤリと笑った気がした。
◇
「清き光よ、穢れを遠ざけ、安らぎを此処に。我が祈りに応え、聖なる護りを広げよ――【聖域展開】」
周囲にフェリエ様の聖域が広がる。途端に、寒かった部屋の中が小春日和の心地よい空間へと変わる。
今、俺たちは『極寒の一息亭』の部屋へと戻ってきた。部屋を取る際、リヴィアが宿屋の主人ゴルガンを射殺さんばかりの目で見ていたため、ゴルガンさんがめちゃくちゃびびってた。まぁ、これであのパターンはもうないだろう……
「部屋の中で聖域を展開するんですか? とても気持ちいいのでうれしいですけど」
「ええ、もう二度と、誰にも、絶対に、邪魔はさせない……」
一言一言、噛みしめるようにフェリエ様は宣言された……
今はフェリエ様のお姿で、俺のすぐ隣りに座っている。二人でベッドに腰掛け……まぁ、そういうことだ。正直、俺もこれ以上あの展開はいらない。
だって、目の前には、今まで見たこともなく、これからもきっと見ることのない――そんな美しい少女が、清楚に腰掛けているのだ。
優しく微笑みかけてくれるだけで……もう気が遠くなる。やばい、これ……思わず嘆息する。
「ひどい。女の子を前にため息なんて」
「ち、違いますよ! フェリエ様が美しすぎて!」
うふふ、とさらに優しい笑みをくれる。クラクラするから、やめて……
「清き光よ、穢れを祓い、身と心を整えよ――【聖浄化】」
俺とフェリエ様の身体を優しい光が包む。続けて、
「光に祝福されし風よ、草原の息吹を運べ。この場に澄んだ空気と安らぎをもたらせ――【聖風草】」
ベッドの上には、淡い緑光を帯びた柔らかな草が静かに広がり、俺達を包みこんでくれそうだ。
「そ、そこまでしてくれるんですか……」
「私、初めてだよ、ルミス。女の子は、初めてはちょっと怖いものなの。だから少しでも癒やされるように……」
「あ、すみません。そうですよね、初めては……あ」
いや、待てよ。フェリエ様は、聖女様だよな……
「あ、あの……聖女様には、その、処女性が必要なのでは……?」
「え? いらないよ、そんなの」
そ、そんなのって!?
「先代の聖女様は、あの“漆黒の大神殿長”の愛人だったし。歴代の聖女様もだいたい、そんな感じだったらしいよ。中には神殿長と神官長の両方と関係持ってた人もいるらしいし」
「えぇ〜〜! そうなの!?」
く、腐ってんな! 神殿内は!
「よく考えてみてよ。歴代の聖女様はたいてい顔良かったでしょ? 聖女様が全員たまたま美人だったんじゃなくて、神聖魔法の使い手から、当時の神殿長たちが自分の好みの美少女を選んでいるっていうのが、真実だよ〜」
「え、えぇ〜……」
俺が一人ショックを受けていると、フェリエ様が慌てて付け加えた。
「あ、私は違うよ! 私は本物の聖女だから、神殿に選ばれたんじゃなくて、女神さまに選ばれて、その信託が神殿内に降りたの」
当時、女神様に朝の祈りを捧げていた神官全員に、女神の信託が降りた。神殿内は騒然となったのだという。
「“漆黒の大神殿長”は、最初私を見て、“ぐへぐへ”ニヤけていたけど、本物の聖女である私には手を出せずじまいだったの。だ・か・ら!」
フェリエ様は勢いよく俺をベッド、というか【聖風草】の上に押し倒す。上も下も気持ちいい……
「私の初めては……ルミスのもの」
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