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ごはん革命  作者: Sen
23/36

集まる手

 翌朝。


 オステリア・ジーノの戸口を叩いたのは、セレナだった。


 その隣には、丸い籠を腕に下げた中年の女が立っている。


「おはよー、碧」


「……嫌な予感がします」


「当たり」


 中年の女が、セレナの頭を軽く小突いた。


「この子が、市場で妙な話を広げてね」


「妙な話じゃないよ。美味しい話」


「そういうところだよ」


 女は碧を見る。


「あたしはマルタ。市場の端で大鍋屋をやってる」


「大鍋屋?」


「働いてる連中に、煮込みとかスープとか、腹に溜まるものを出す店さ」


 セレナが横から言う。


「マルタおばさんはね、市場で働いてる人なら、だいたい一回はこの人の煮込み食べてるよ」


「余計な説明しなくていい」


「でも本当じゃん」


 マルタはため息をついた。


「この子が市場の端から端まで走り回ってた頃から知ってるよ」


「そんな昔の話しなくていいし」


「今も似たようなもんだろ」


「ねえひどい」


 店の奥で、ジーノが小さく呻いた。


「面倒なのが二人になったな」


「聞こえてるよ、ジーノ」


「聞こえるように言ったんだ」


 ジーノは鍋を混ぜながら、面倒そうに答えた。


     ◇


「で、草を刈る手がいるんだって?」


 マルタが言った。


 碧は少し困る。


「まだ、そんな大げさな話じゃ……」


「飯と銅貨が出るなら、人は来るよ。ただし、誰でもいいってわけじゃない」


 マルタは店の中をちらりと見た。


「昼の店先に人を溜めたら営業の邪魔だね。来させるのは昼営業が終わってから。店の前に集める。それでいいかい?」


 ジーノは頷いた。


「店の中には入れるな」


「分かってるよ。外で並ばせる」


「条件は?」


「セレナから聞いた」


「不安だな」


「だから確認に来たんだよ」


 マルタは指を折った。


「飯は出す。銅貨も少し。刃物を持つのは大人か、扱える若いのだけ。子供は拾うだけ。水辺には近づけない。日が落ちる前に終わる。街道に荷を広げない」


 ジーノは少しだけ目を細めた。


「分かってるじゃねぇか」


「大鍋屋を何年やってると思ってるんだい」


 マルタは鼻で笑った。


「人を動かすなら、先に飯と段取りだよ」


 碧は思わず感心してしまう。


「すごいですね……」


「すごくない。揉める前に潰してるだけさ」


「ジーノさんみたいなこと言う」


「似てねぇよ」

「似てない」


 ジーノとマルタが同時に言った。


 セレナは楽しそうに笑っている。


「じゃ、昼終わったら連れてくるね。あたしも行くから」


「セレナさんも?」


「噂を流した本人が行かないと、みんな不安でしょ?」


 マルタが腕を組む。


「あんたが広めたんだから、ちゃんと働きな」


「働くってばー」


「あんたは口を動かした分だけ、手も動かしな」


「はーい」


「返事だけは昔からいいんだよ」


     ◇


 昼営業が終わる頃。


 オステリアの前には、いつもとは違う人だかりができていた。


 市場の荷運び見習い。


 仕事の空いた若者。


 獣人の労働者。


 そして、ルカが連れてきた市場の子供たち。


「……どこから連れてきたんだ」


「なんかいた」


「なんかいたのか……」


 店の戸口では、マルタが腕を組んで立っていた。


 碧が店から出ると、マルタは集まった人たちを顎で示した。


「こんなところだね。刃物を持たせてよさそうなのと、運ぶだけにした方がいいのは分けてある」


「もうそこまで?」


「見ればだいたい分かるよ」


「すごいな……」


「感心してる暇があったら、説明しな」


 碧は慌てて頷いた。


 その横で、セレナが集まった人たちに手を振っている。


「はいはい、ちゃんと聞いてねー。ジーノが話すから。聞かない人は白い粒なしねー」


 ざわついていた声が、少し静かになった。


 ジーノは店の前に立ち、集まった者たちを見回した。


「飯は出す。銅貨も少しだ。ただし、遊びじゃねぇ」


 空気が少し締まる。


「刃物を持つやつは、碧の言うことを聞け。子供は刃物禁止。水辺に近づくな。街道に荷を広げるな。日が落ちる前に終える」


 ジーノは少し間を置いた。


「それが守れねぇやつには、飯も銅貨も出さねぇ」


 誰も文句を言わなかった。


 セレナが小さく拍手する。


「はい、そういうこと。ちゃんと働けば食べられるよ。昨日あたしが食べたやつ、本当においしかったから」


「本当に腹に溜まるのか?」


 誰かが聞いた。


「溜まる溜まる。酒のあとにもいい」


「酒のあと基準なんですか……」


 碧が呟くと、セレナは笑った。


     ◇


 集まった人たちの中には、名前を聞いておいた方がよさそうな者が何人かいた。


 市場で荷運びをしているという若い男。


 名前はダリオ。


 手足が長く、よく動きそうだったが、小鎌を見た瞬間に少し目を輝かせたので、碧は不安になった。


「刃物、振り回さないでくださいね」


「分かってるって」


「その返事が一番怖いんです」


 獣人たちの中には、猫人の若い女がいた。


 名前はミーナ。


 細い指をしていて、リゼが紐を渡すと、すぐに結び目を確かめた。


「これ、強く縛りすぎるとだめなんですよね?」


「はい。乾きにくくなるので、少し余裕を持たせてください」


「分かりました。じゃあ、こっちの子たちにもそう言っておきます」


 ミーナはリゼの説明を一度聞いただけで、他の獣人たちへ同じことを伝え始めた。


 リゼは少し驚いたように、それを見ていた。


 そして、ルカの周りには子供たちがいた。


 五人。


 いや、後ろからさらに三人出てきた。


 全部で八人。


「さっきよりも増えてない?」


「いた」


「いた、じゃなくてさ……」


 子供たちの中で、一番前にいた小柄な少女が、碧をじっと見上げた。


「本当に白いやつ食べられるの?」


「手伝ってくれたら、少しだけ」


「少しってどれくらい?」


「それ交渉するの?」


「大事でしょ」


 ルカが横から言った。


「ノーラは数えるのうまい」


「へぇ」


 碧が見ると、ノーラと呼ばれた少女は少し得意げに胸を張った。


「袋の数とか、束の数なら数えられるよ」


「助かるかも」


「じゃあ多めに食べていい?」


「働き次第かな」


「大人みたいなこと言う」


「……大人なので」


 ノーラはじっと碧を見てから、ふんと鼻を鳴らした。


「じゃあ数える」


 ルカは子供たちを見回して、短く言った。


「刃物はだめ。水もだめ。拾う。選ぶ。食べる」


「最後はまだ」


 碧が言うと、ルカは不満そうに尾を揺らした。


     ◇


 低地には、今日も琥珀色の穂が揺れていた。


 水はほとんど引いている。


 けれど、足元はまだ柔らかい。


 碧は人間の若者たちを集めた。


 ダリオもそこにいる。


「小鎌はこう持ってください。穂を握る手を刃の前に出さない。絶対に。根元をまとめて、軽く引きながら切る感じです」


「こう?」


 ダリオがすぐに刃を入れようとする。


「待って、手が近いです」


「え、これくらい?」


「危ない。もう少し離して」


「細かいな」


「指が飛ぶよりいいです」


 ダリオは少し笑ったが、言われた通りに持ち直した。


 碧自身、まだ熟練者ではない。


 それでも、昨日まで失敗した分だけ、危ない場所は分かるようになっていた。


     ◇


 少し離れたところでは、リゼが獣人たちに束ね方を教えていた。


「穂の向きを揃えてください。あとで粒を外す時に楽になります。強く縛りすぎると乾きにくいので、ここは少し余裕を持たせて」


「これでいいか?」


 犬人の男が束を差し出す。


「はい。綺麗です」


 リゼに褒められた犬人の男が、少し照れたように笑った。


 ミーナはその横で、別の獣人たちに同じことを伝えている。


「向き、逆。リゼさんが言ってたでしょ。穂をこっちに揃えるの」


「こうか?」


「そう。それだとあとが楽なんだって」


 リゼはその様子を見て、少しだけ耳を揺らした。


 自分が教えたことが、誰かの口からまた別の誰かへ伝わっている。


 それが、少し不思議だった。


     ◇


 さらに向こうでは、ルカが子供たちを従えていた。


「これは軽い。だめ」


「なんで分かるの?」


「持つ」


 ルカは子供の手に穂を乗せる。


「軽い」


「あ、ほんとだ」


「こっちは?」


「重い」


「食べるやつ」


 子供たちは真剣に頷いていた。


 ノーラは小袋を抱えながら、ぶつぶつ数を数えている。


「こっちが四つ。あっちが七つ。ルカ、その袋は数えた?」


「知らない」


「知らないじゃないでしょ。あとで分からなくなる」


「ノーラが数える」


「数えるけど、増えたら言って」


 ルカは少し面倒そうにしたが、逆らわなかった。


 碧はその光景を見て、思わず立ち止まった。


 ルカが、子供たちに教えている。


 言葉は短い。


 説明も雑だ。


 けれど、子供たちはちゃんとついていっている。


 しかも、ノーラには少しだけ押されていた。


     ◇


 作業は、思ったより進んだ。


 誰かが刈る。


 誰かが束ねる。


 誰かが落ちた籾を拾う。


 誰かが街道側へ運ぶ。


 セレナも、稲束を抱えて何度も往復していた。


「これ、こっちでいい?」


「街道側へお願いします」


「了解ー」


「セレナ、雑に置くんじゃないよ。あとで崩れる」


 マルタの声が飛ぶ。


「はーい」


「返事だけ軽いね」


「ちゃんとやってるってば」


 マルタは腕を組み、全体の流れを見ていた。


 誰が刈りすぎているか。


 どこに束が溜まっているか。


 子供たちが水辺に近づいていないか。


 まるで市場の大鍋を回す時と同じように、人の動きを見ている。


 低地の中に、少しずつ流れができていった。


     ◇


 その時、街道から車輪の音が聞こえた。


 ブルーノだった。


 今日は荷のないけん車を引いている。


 その横には、若い犬人が一人いた。


 ブルーノより少し小柄で、まだ動きに落ち着きがない。


「碧さん」


「あ、ブルーノさん」


「今日は、ずいぶん増えましたね」


「セレナさんのせいです」


「噂は聞きました」


「もうですか」


「街道にも届いております。白い粒のまかない、と」


 碧は思わずため息をついた。


「本当に早いな……」


 ブルーノの横の若い犬人が、稲束を見て首を傾げた。


「これを全部載せるんですか?」


「載せられる分だけです」


 ブルーノが答える。


「彼はカーロです。けん車の見習いです」


「カーロです」


 カーロは丁寧に頭を下げた。


 それから、すぐに荷台を見た。


「束は横向きに積むと落ちます。縦に寄せて、紐で押さえた方がいいです」


「詳しいですね」


「荷崩れすると怒られるので」


 カーロは真面目な顔で言った。


 ブルーノが少しだけ笑う。


「まだ一人前ではありませんが、荷台を見る目はあります」


「助かります」


 碧が言うと、カーロは少し嬉しそうに耳を動かした。


     ◇


 ブルーノのけん車へ、稲束が積まれていく。


 カーロは何度も束の向きを直した。


「これは端に置くと落ちます」


「こっちは?」


「軽いので上です。重い束は下に」


 ダリオが稲束を持ってきて、カーロに言われるまま置き直す。


「荷運びって、ただ積むだけじゃないんだな」


「崩れたら積んだ意味がありません」


「真面目だな」


「荷は真面目に扱うものです」


 ダリオは少し笑った。


 カーロは笑わなかった。


 でも、少しだけ得意げだった。


     ◇


 しばらくして。


 低い声が響いた。


「街道脇に人が集まっていると聞いた」


 作業の手が、少し止まる。


 碧が振り向くと、灰色の毛並みをした狼人の男が立っていた。


 革鎧の上に、フェルメリア警備隊の短い外套。


 腰には剣。


 だが、手は柄にかかっていない。


 周囲の獣人たちが、小さくざわついた。


「狼兵だ」


「面倒になるか?」


「でも人間兵じゃない」


 その最後の声が、碧の耳に残った。


 狼人の男は、低地の様子を静かに見回す。


 小鎌を持つ人間。


 束ねる獣人。


 籾を拾う子供たち。


 そして、けん車。


「責任者は誰だ」


 碧は慌てて小鎌を下ろした。


「あ、俺です。碧と言います」


「何をしている」


「えっと、この草を集めています。食べ物にするために」


「食べ物?」


 狼人の眉が少し動いた。


 だが、それ以上は深く聞かなかった。


 彼の視線が、リゼへ移る。


「獣人側を見ているのは、あなたか」


 リゼは少し耳を伏せた。


 けれど、すぐに姿勢を正す。


「はい。束ねる作業と、子供たちが刃物に近づかないように見ています」


「子供には刃物を持たせていないな」


「はい。落ちた粒を拾う仕事だけです」


「その奥には川があるだろう」


「近づけさせません。ルカさんが見ています」


 ルカは遠くで子供の手首を掴み、川の方へ行こうとした子供を連れ戻していた。


「そっちはだめ」


「ちょっとだけ」


「だめ」


 狼人の男は、それを見て短く頷いた。


「気をつけているようだな」


 リゼは少しだけ目を丸くした。


「はい」


「名は」


「リゼです」


「ロルフ。フェルメリア警備隊だ」


 ロルフは街道側へ目を向けた。


「街道に束を積みすぎるな。車輪が避けられなくなる。日が落ちる前に終えること。子供を水辺に近づけないこと。それを守るなら続けていい」


 リゼは深く頷いた。


「分かりました。私が見ます」


 ロルフは一瞬、リゼを見た。


「任せる」


 その短い一言に、リゼの耳が少しだけ揺れた。


     ◇


 ロルフはしばらくその場に残った。


 監視というほどではない。


 だが、完全に去るわけでもない。


 碧が近づくと、ロルフは低い声で言った。


「人を集めるなら、先に警備隊へ知らせておけ」


「すみません」


「揉め事が起きてから呼ばれるよりは、その方がいい」


「次から気をつけます」


 ロルフは頷いた。


 その視線が、リゼの方へ戻る。


 リゼは獣人たちに束の置き方を指示していた。


「……あの兎人は、よく見ている」


「リゼですか?」


「ああ」


「リゼは丁寧なので」


「丁寧な者が一人いるだけで、現場は荒れにくい」


 碧は少し意外だった。


 ロルフの言い方は硬い。


 でも、リゼをちゃんと見ている。


「警備兵って、獣人の人もいるんですね」


 碧が言うと、ロルフは碧を見た。


「ああ」


 それだけだった。


 だが、その一言には何か重さがあった。


     ◇


 夕方が近づく頃。


 低地の一部は、はっきりと刈り取られていた。


 稲束は、ブルーノのけん車へ積まれていく。


 カーロが荷台を確認し、ブルーノが紐を締める。


 人間の若者たちは疲れた顔をしていた。


 ダリオは腰に手を当てて、息を吐く。


「草刈りって、思ったよりきついな」


「だから飯が出るんです」


 碧が言うと、ダリオは笑った。


「白いやつ、多めに頼む」


「それは働き次第です」


「厳しいな」


 獣人たちも、腕や腰を伸ばしている。


 ミーナはリゼの横で、最後の束をまとめていた。


「リゼさん、こっちの束は数えました?」


「まだです」


「じゃあ、ノーラさんに聞きます」


 ノーラは子供たちの真ん中で、小袋を抱えていた。


「こっちが十二。あっちは九。カーロが載せたのが二十一」


 カーロが振り向く。


「よく見てますね」


「数えたから」


「すごいな」


「すごいなら、白いやつ多めだね」


「それは碧さんに言ってください」


 子供たちは得意げだった。


     ◇


 日が落ちる前に、作業は終わった。


 ロルフの指示通り、街道には束を残さない。


 水辺に子供も残さない。


 ブルーノのけん車は、稲束を積んでフェルメリアへ向かった。


 帰り際、ロルフがリゼに声をかけた。


「リゼ」


「はい」


「次に同じことをするなら、作業する場所を先に決めておけ。子供の立ち入り場所も分けた方がいい」


「分かりました」


「それから、束の数を記録しろ。市場を通さない荷は、量が分からないと疑われやすい」


 リゼは少し驚いた顔をした。


「記録、ですか」


「守るためだ」


 ロルフは短く言った。


「記録がなければ、好きに疑われる」


 リゼはしばらく黙った。


 それから、静かに頷いた。


「ありがとうございます」


 ロルフは何も答えず、街道の方へ歩いていった。


     ◇


 その夜。


 オステリアの裏手には、これまでで一番多い稲束が並んでいた。


 ジーノはそれを見て、少しだけ眉を上げた。


「……増えたな」


「増えました」


 碧は疲れきった声で答えた。


 リゼも座り込んでいる。


 ルカは子供たちから集めた籾袋を抱えて、満足そうだった。


 手伝いに来た人たちには、ジーノのスープが配られた。


 セレナは稲束を運び終えたあと、なぜか一番疲れた顔で椅子に座っていた。


「働いた……」


 マルタが即座に言う。


「口の方が多かったのに、よく言うねえ」


「ひどい」


 米入りのまかないは、少しずつ。


 それでも、みんな不思議そうに器を覗き込み、口に入れると黙った。


「……変な味じゃないな」


「腹に残る」


「もう少し欲しい」


 その声を聞いて、セレナが得意げに笑う。


「ほらね」


 ジーノは鬱陶しそうに言った。


「お前は黙って飲んでろ」


「やだ」


 少し離れたところで、ノーラが木片に何かを刻んでいた。


 リゼが覗き込む。


「何を書いているんですか?」


「束の数。何個あったか書いとけって、警備隊の狼人が言ってたでしょ?」


 リゼは目を少し見開いた。


 それから、柔らかく笑った。


「さっきの話聞いてたんですね」

「ありがとうございます」


「白いやつ、多めね」


「それは碧さんに聞いてください」


 ノーラは不満そうに頬を膨らませた。


     ◇


 碧は、並んだ稲束を見た。


 自分が白いごはんを食べたかっただけだった。


 でも今日は、人間が刈り、獣人が束ね、子供たちが拾い、ブルーノとカーロが運び、ロルフが見守った。


 マルタは人々をまとめ、ミーナはリゼを助け、ノーラは数を記録していた。


 セレナは噂を広げ、自分でも束を運んだ。


 もう、ただの草刈りではなかった。


 まだ米には遠い。


 でも、確かに手は集まった。


 碧は小さく息を吐いた。


「明日、これをどこに干そう……」


 ジーノが即座に言った。


「そこからかよ」


「そこからです」


 ルカが隣で言う。


「でも食べる」


「はいはい」


 疲れているはずなのに、碧は笑ってしまった。


 オステリアの灯りの下で、琥珀色の稲束が静かに揺れていた。

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