ダンジョンの支配者、メイズ
クセ強ダンジョンマスターでした。
「なんと! 地上はそのような事になっているのですか!」
地上の現状をメイズに話すと、彼女はかなり驚いた様子で信じられないという感じであった。
「私がこの地にダンジョンを創った時、この『ノアの森』は他より深い森というくらいの感じでして、ある程度の実力がある者であれば到達できるレベルだったと記憶しております。実際、このダンジョンにいらっしゃったお客様もそこそこおりますので」
え、もしかして冒険者を「お客」って呼んでる?
クセのある言い回しは気になるけど、メイズは話を続ける。
「確か、森を抜けた辺りには人族や亜人種などが暮らしている集落や村などもあったと思います。あっ、少々お待ちくださいね、今地図をお作りしますので」
おぉ、この森を抜けたら人がいるのか。亜人種ってのも見てみたいよね。一瞬そう思ったんだけど、メイズが水晶の板でおもむろに何かをやり始めたのが気になるんだけど……まさかだよな。
「こちらになります」
「!?」
メイズは、その水晶の板を俺に見せてきた。そこにはダンジョン周辺の地図が描かれていたから驚きである。いや、それもうタブレットじゃん。とんでもないロストテクノロジー出てきてますけど。
この時点で気になる所が多い。順を追って確認していこう。
「まず、魔境って名前があったの?」
「えぇ。人族達は『アクアフォレスト』と呼んでおりましたよ。このダンジョンの名前である『アップグルニアン』も、人族達が勝手に呼び始めた名前でございますし」
なるほど。っということは、転生当初は魔境って新大陸なのかなぁと思っていたけど、昔からある場所だったわけね。
「この森が魔境化した理由は、なんらかの原因で邪素が充満して、それに侵されたメイズが邪化した結果、魔境になってしまったという事か」
「恐らくは。いやもう何やってんだよ迷宮王バカヤローコノヤローってね。『じゃかましいわ』ってね。ひっひっひっ」
「「「「「「……」」」」」」
「あっ、はい、すみません。ひひひ」
それ邪化の後遺症とかじゃないよね?
まぁそれはそれとして。
ヤバい空気をものともせず、メイズは説明を続けてくれた。
「それと、『アクアフォレスト』を取り囲むようにして、人族や亜人種の集落や村があったと思います。確か街もあると人族達は言っておりましたね」
「でも、魔境化してるからまだあるのかは分からないよね」
「えぇ。亜人種は分かりませんが、人族達がこの魔境周辺で生活していくのは難しいと思います」
この世界の生き証人としてメイズの話はかなり貴重だ。テトより全然役に立つ。
少し話しただけでも、メイズの能力値って異常なのでは? っと思ったので、ちょっとここらでメイズの能力値をもう一度解析鑑定してみる。
<ダンジョンの支配者>
名前:メイズ
年齢:不明
称号:ダンジョンの支配者、ダンジョンフィクサー
備考:不死、迷宮創造、闊達自在
「この、ダンジョンフィクサーって何?」
「私はこの世界の全ダンジョンに干渉できますので、そういった称号が付いたのかも知れませんね」
俺の質問に受け答えるメイズ。衝撃の事実をさらっと言う彼女は続けて答えた。
「それと、いい感じの土地があったらダンジョンを創造する事も可能ですよ」
え? それってダンジョン関係だったらほぼ創造神じゃん。
「あっ、そうでしたそうでした。私が邪化ってたという事は、他のダンジョンも同様に影響を受けているはずですので、もしかしたら他ダンジョンも邪化ってるかも知れません」
邪化ってるってなんだ。
「それってかなりヤバい状況じゃん。世界中のあちこちで魔物暴走が発生する可能性があるって事でしょ?」
「そうですね……今しがた他ダンジョンの調整しましたので、ある程度は大丈夫だと思います。ただ、いくつかのダンジョンでは魔物暴走が発生しちゃうかもですが……ひっひっひっ」
「「え?」」
なんかタブレット風の板を触ったかと思ったら、この一瞬でそんな事ができたのか。冗談抜きで創造神並みじゃん。俺はともかく、隣にいるテトはだいぶ引いている。こんな凄い事をペコペコしながらやらないで欲しい。逆に怖い。
「その能力凄すぎない? 他になんかできるの?」
驚きながらも俺はメイズに質問を続け、彼女は淡々と答えていく。
「他のダンジョン内にあるものでしたら、何でもお取り寄せできます。この板の中にリストもございますよ。ひひひ。あっ、さすがにダンジョン内のお客様を転移させるなんて事はできませんね。私自身が他ダンジョンへ転移する事はできるのですが。ひっひっひっ」
迷宮神が現れました。
メイズの話をまとめると、ダンジョン内にいる人の転移だけは鉄の掟なので不可らしいのだが、魔物、鉱物、宝石、魔法具などは自由に転移・配置させる事ができるようだ。それらをタブレットでこなせると言っていた。これはもはや「ダンジョンを作ろう」である。それにしてもお取り寄せって……通販か。
「それなら魔物暴走で乱増した魔物を散り散りにすれば魔物暴走止められるんじゃないか?」
ふと気になったので質問してみた。
「それがですね……ダンジョンが暴走しちゃうと、私でも干渉できなくなっちゃうんですよねぇ……ひひひ」
いや、ピーキー過ぎる。意外なデメリットがあるんだな。原子力発電の理論に似てる。発電だけならいいけど、災害や攻撃等何かあったら制御不能になる……みたいな感じだ。
「そうだ。上層階はいかがでしたか? 今後の為にお客様のお声を是非ともお伺いしたく」
「面白かったぞ。遺跡とかも雰囲気出てたし楽しめたよ」
「それは光栄でございます。やはり、ダンジョンに挑む者達も、どうせ死ぬのなら綺麗な場所の方が良いのではないかと愚考いたしまして、冒険者達に快適な最期をご提供するためにも、ここは綺麗なダンジョンにしようと創造いたしました。ですので、お褒めのお言葉、とても励みになります」
所々にサイコパス感が滲み出てるけど、ダンジョンマスターならこれって普通だよね。なんかメイズが気さく過ぎて色々とバグが生じてるよ。
「遺跡フィールドは、結構崩壊してる場所あったぞ」
「あぁ、それは私が狂乱状態でしたので、ダンジョンを維持できなくなってしまったからでしょう」
そーゆー影響が出てくるのか。メイズとダンジョンって割と密接に繋がってるのね。
「ちなみに、第四階層にこんな魔物がいたぞ」
俺はそういって亜空間収納から特級魔物の魔牛を取り出し、メイズの前に「ドカン」と置いた。
「えぇーーーッ! なんですかこれ! こんなのあまりにも凶悪すぎますよ! こんなのが出てきたらお客さん帰っちゃいますよぉ~」
お前はショップ店員か。
メイズは驚きのあまり頭を抱え、軽いパニックになっている。いや、こんな事よりお前の能力値の方がヤバいぞ。
「あぁ……ビックリしました。あれ、でもこの魔物を発生させられるようになってますね」
「ほぅ。それはどれくらいの数を発生させる事ができるのですか?」
メイズがタブレットで発生魔物リストなるものを確認し、魔牛を発生させられる事が分かった途端、マルメロとフィグの目の色が変わった。食い付きが尋常じゃない。
これは長くなりそうなので、マルメロさん、フィグさん、今はちょっと待ってください。前のめりにメイズへと詰め寄る二人を宥めていると、メイズが気になる事を話し始めた。
「ダンジョンの状態を確認していて思ったのですが、私が邪化していたという理由もあるでしょうが、それにしてもこのあり得ないほどの魔物の突然変異ぶりやノアの森の魔境化を見ると、いくら邪素ノ乱流であったとしても、さすがにこの荒れ方には違和感を覚えます」
やっぱそうだよね。もう犯人はあいつしかいないだろ。
メイズのダンジョンである奈落の迷宮の解析鑑定結果に「備考(+)」という項目があったのだが、よく見るとその詳細に「邪神ノ介入」と書かれていた。
はい! ヴァイスのせいでしたぁッ!大声。
かなり長々と詳細が書かれていたので要約すると、ヴァイスは意図的にダンジョンを創り出そうとしたものの、能力値が低くて上手くいかず、それならばと迷宮王であるメイズのダンジョンを勝手に弄り、自分の物にしようとしたが、それも失敗。散々弄るだけ弄って、いつもの様に投げ出し放置した結果、邪素ノ乱流が発生して邪素が蔓延し、その影響でメイズが邪化したという事だ。
ほんと、マジでウザいなヴァイス。俺等はこいつの尻拭いをしてるのかと思うとキレそう。メイズが言うには、アップグルニアンだけじゃなくて、他のダンジョンも同じ様に弄っているとのことだった。ヴァイスを見つけたら俺とゴレム達で袋叩きにしたいと思う。
……ただね。
それと同時に、俺はある事に気が付いてしまう。
「テトってさ、ジェムボーデンの事を知らなすぎじゃないか?」
「ッ!」
「……」
「そ、そんな事はないぞ……」
テトはビクッとして、俺から目線を逸らした。おい、こっち見ろ。
「このダンジョンもテトが神だった頃にはあったらしいのに、テトは知らなかったじゃん。それに、そもそもダンジョンっていうものへの理解度もかなり低かったよな」
「……」
冷や汗をダラダラと流しながらテトは必死に言い訳を始めた。
「あの頃はな、世界の管理をするのに慣れてなかったのだ。ジェムボーデンは初めて任された世界であるし、変に意気込み過ぎていたのだ……まぁ、今思うとだけどな……」
そう言いながら、テトがどんどん小さく萎んでいっている気がするぞ。
新入社員が気合入り過ぎて空回りしてしまう。そんな感じだったのね。それと、元来の優しすぎる性格も相まってヴァイスに神の座を奪われたんだろう。
まだまだこんな問題が沢山あるのかと思うと気が滅入るよテト。お前が神に戻ったら面倒事全部押し付けるからな。
「あのぉ~、お話に割り込むようで大変恐縮なのですが……その白い浮遊物ってもしかして……」
俺とテトの会話を聞いていたメイズが、恐る恐る質問してきた。
「この白い浮遊物はジェムボーデンの元神で、テトロスだ」
「テ・ティ・オ・ス・だッ!!」
テトがいちいち顔をビタ付けして訂正してくる。
「はぁ。私はジェムボーデンの元天空神テティオスである。今はテトで通っておる」
「え、元神? 天空神様がなぜこの様な場所にいらっしゃるので?」
「色々あったのである」
「この下級霊は他の男神に神の座を奪われ、今現在アイノ様に多大な迷惑をかけている厄介者です」
「失敬なぁッ!!」
メイズが驚いている所に、マルメロがド直球の言葉を投げつけ、テトの顔ビタ付けツッコミが炸裂している。
「彼女達は俺が創った守護者達だよ。あと獣人みたいなのがロスカ。んで、俺はジェムボーデンの地上神だ」
「ッ!!!!!!」
メイズがガッタガタに震えて、今にも気絶しそうになっている。
よし! 良いリアクションだ!
「たたた確かに、その身に纏う神力の羽衣は、ままままま、まさしく神! ……大変失礼をいたしました」
「いや全然大丈夫だから。さっきと同じ感じでいいぞ」
メイズは、そーっと頭を上げて、ヤバい先輩に絡まれた後輩の如く、挙動不審になってしまった。普通に接してもらいたいものだ。
「アイノ様。あの事を聞いた方がいいんじゃないべか?」
「そうでやすよ旦那。帰ったらあの計画を進めていかないといけやせんぜ」
「あっ、そうだね」
ファム蔵とサブがヒソヒソと俺に耳打ちをしてきた。そのある事を伝える前に聞いておかないといけない事がある。
「メイズの能力を見込んで頼みたい事があるんだけど、俺達の拠点にきてくれないか?」
俺がそう言うと、メイズはどこか悲し気に首を横に振った。
「申し訳ございませんアイノ様。私はダンジョンの外に出る事は叶わないのです。それがダンジョンフィクサーである私の運命なのです。もしコアを置いてダンジョンを離れると、それこそ存在そのものが消滅するように理ができているのですから」
ここから離れられないとなると、俺達の計画が停滞してしまうので、もう奥の手を使うしかない。
俺はダンジョンコアの前へいき、手をかざして念じる。
「よし。メイズ、これでダンジョンの外に出られると思うぞ」
「は? え? 外に出られる? 出られるようになったのですか? いや、世界の理があるはずなのですが……」
状況を呑み込めていないメイズはパニックになっている。それもそのはず。だって俺が今やったのは神力で世界の理を書き換えたんだから。まぁ要するにダンジョンコアをハッキングしたのさ。
パニックになりながらも、メイズは水晶タブレットで自身の状態を確認した。
「あっ、本当に外に出られるようになっておりますね……神を疑って申し訳ございませんッ!」
疑ってたんかい。気持ちはわかる。だってハッキング時間は数秒くらいだったからね。
これで俺達の計画を進める事ができる!
俺・サブ・ファム蔵は、いそいそと「とある」準備を始めた。
「あれ? メイズってなんで魔境周辺の地図がわかるんだろう……?」
メイズに聞きたい事はまだまだある。
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