諸行無常のダンジョンコア
俺の華麗なるダンジョンコアハッキングが炸裂し、ダンジョンの外に出られるようになったメイズが、何度も頭を下げて感謝を伝えている。うむ、くるしゅうないぞ。面を上げぇい。
それにしても世界の理とかあるんだな。なんでそれをテトが知らないのかが謎である。こいつ実は元神じゃなかったんじゃない? っという疑いが、俺達の中で薄っすら漂い始めたが、テトは必死に否定している。まぁそんな事はどうでもいい。
俺は、メイズの発言の中で最も気になったことを質問した。
「なぁ、さっき地図見せてくれたけど、メイズってダンジョンの外に出られないんじゃなかったか? 魔境のこと詳しすぎるだろ」
いくらダンジョンフィクサーであるとはいえ、メイズはあまりにもこの魔境について「詳しすぎる」のだ。
俺の質問に反応したテトは、メイズを疑いの目で見ている。いや、お前の元神って肩書デマだったんじゃないか説の疑い晴れてないから。
テトの疑いの目など気にせず、メイズは淡々と答え始めた。
「あぁ、それはですね、お客様の中には、ダンジョン内でお仲間に裏切られたり見捨てられたりする方が結構いらっしゃったんですよ。そういった者をダンジョンの糧にするのは、私のポリシーに反しておりまして、世の中の情報と引き換えに、生かしてダンジョンの外に返してやっていたのです。やはり、調子に乗っている輩を糧にする方が気分もいいですし芸術的ですからね。ひっひっひっ」
ちゃんと怖い。物腰の低さと気さくさに惑わされるけど、ちゃんと怖い。ってか、笑い声も怖い。あと糧ってなんだ?怖い。
「あとは、このダンジョンから地上に出ていく魔物と視覚共有が可能ですので、魔境周辺にある村や集落などを観察していたのです。なので、アクアフォレスト周辺の事ならそこそこ詳しいですよ。まぁ、狂乱状態だった時の記憶はないのですが。ひっひっひっ」
能力もちゃんと怖い。例えばダンジョンを創造して、そこを拠点に魔物を解き放てば周辺の監視が可能だし、未来的なSF風監視室とかも作れてしまう。冷静になると、こんなヤバい奴が狂乱状態だったって危険過ぎる。いや、狂乱状態だったのは怪我の功名かも知れない。
「改めて凄い能力だな」
「いやはや。わたしくなどアイノ様やその眷属様には遠く及びませんよ。ひっひっひっ」
喜んでいるのか?
「ヴァイスがメイズのことを見落としていたのが不幸中の幸いだな。あいつが無能で助かったよ。あれ……でも、メイズが邪化る前にテトってジェムボーデンの神だったわけだし、知っていてもいいんじゃな……」
全部を言う前に俺はテトへ視線を向けたが、テトは隅っこで小さくなっている。俺は紳士的だから、みなまで言わないよテト。
「下級霊。このような高位の存在を見落とすなんて、邪神とあまり変わりませんね」
天下無双の辛辣メイドことマルメロが、火の玉ストレートをテトに直撃させた。そして、直撃を受けたテトは、ロスカに抱えられながら静かに泣いている。マルメロさん、鬼やな。
◇ ◇ ◇
メイズと話をしていく中で次に気になったのは「ダンジョンコア」についてである。
そもそもダンジョンコアってなんなの?って話なのだが、ひらたく言えばダンジョンが機能するために必要な動力源のようなものとのこと。
アップグルニアンのコアは「マスターコア」というもので、全世界にあるダンジョンコアは、アップグルニアンのコアを複製したようなものだとメイズは言っていた。
あぁ、だからメイズが邪化ると他のダンジョンも影響を受けてしまうのか。
ちなみに、コアが壊れたからといってダンジョンマスターが消滅することはなく、時間は掛かるがダンジョンコアは自然と再生していくとのこと。
「あとですね、高難易度のダンジョンコアほど私やマスターコアの影響を受けてしまうので、恐らくは世界各地で発生している、もしくは今後発生するであろう魔物暴走は、全て『大規模魔物暴走』か『超大規模魔物暴走』となりますね。ひっひっひっ。本当に申し訳ございません。ひっひっひっ」
メイズはペコペコしながら恐ろしい懸念を口にする。はい、面倒事が増えましたぁッ!
現在もいくつかのダンジョンで小規模の魔物暴走が発生しているらしい。頑張れ地上の子達よ。君らが限界突破したら助けに行くから。
「低位のダンジョンは先ほど調整いたしましたので、ある程度は大丈夫かと思うのですが、それでもいくつかのダンジョンでは魔物暴走が発生するかと思います。全然ダメダメですね、私。このまま引きこもりたいですよ。あっ、わたくし数千年引きこもってました。ひっひっひっ」
卑屈になると、それはそれで怖い。
「しかし、魔物暴走の兆しや、魔物暴走が発生すれば板に通知が来ますので、その際はアイノ様にお伝えいたします」
「わかった。よろしく」
「とりあえず、ココとココは一年以内に魔物暴走が発生するかと思います」
メイズはそう言うと、さっそくタブレットに映る地図を指差して、俺に教えてくれた。やっぱり他の大陸だよねー。面倒なタスクがどんどん増えていく。マルメロの火の玉ストレートが直撃したテトに若干同情していたが、これは言われて当然だぞテト。
話は一段落ついて、俺等は少し休憩を始めた。すると、メイズが何やらお伺いを立ててきた。
「あっ、そうでした、そうでした。少々このダンジョンの修正をしたいのですが、よろしいでしょうか? 結構荒れていると仰っておられたので、今のうちにやっておきたいなと思いまして」
メイズはそう言うと、おもむろにタブレットを眺め始め、何やらタップしたりスクロールさせたりやっている。何やってるんだろうと、俺はそのタブレットを覗き込んだのだが、これが衝撃的だった。
アップグルニアンの立体フロアマップが映し出され、修正したいフロアをタップしたら、そのフロアの拡大図のようなものが表示された。するとメイズは、タップしたりスクロールしたりスワイプしたりして、ダンジョンを修正していったのだ。ゲームの街づくりシミュレーションゲームみたいにサクサクと。
「あっ、このフロア、魔物の発生率狂ってますね。あっ、ここも建造物が結構崩壊してます。私の最高傑作がここまで痛むなんて……ヴァイス許すまじですッ!」
メイズは、プンプンと怒りながらタブレットを使ってサクサクとフロアを修復していく。修正はものの数十分で完了した。聞けば新規階層も三十分くらいで創れてしまうらしい。益々ヤバい能力だよ。
階層を増やすのはそこまで難しい事ではないらしく、だいたい三十階層くらいまでなら簡単に増やせるそうだ。ただ、メイズは多くても二十階層くらいまでしか階層を創らないらしい。その理由を聞くと、半端なフロアやフィールドを創造するという事が、自身のポリシーに反するからとのことだった。意識の高いクリエイターかお前は。
さらに、生態系フィールドの温度調節なんかも可能で、「春夏秋冬」をテーマとしたダンジョンを創造した事があるらしい。その地域に合ったダンジョンを提供するのもダンジョンフィクサーの仕事なのだと熱弁していた。マーケッターみたいだな……刀の人じゃないですよね?
不思議だったのは、生態系フィールドだけは何が生えてくるのかほとんど分からないという点で、完璧にコントロールするのは無理らしい。でもそれって、自然を創り出してるじゃんって話なんだよね。ダンジョン内における権限があまりにも大きい。だが、これは使える能力だ!
「ところでメイズ、魔物の発生はどのくらい管理できるのですか?」
マルメロが、さっき聞きそびれた質問を我先にとメイズへと投げかけた。
「あぁ、先ほど仰っていた新種の魔物のことでございますよね? 少々お待ちくださいね、確認してみますので」
メイズはタブレットを操作し、新種の魔物であるファングモーについてあれこれ確認している。
「ん~、そうですねぇ~、かなり高位の魔物のようですので、完全にコントロールするのは難しいですが、月に五体くらいでしたら可能ですよ」
「いいです! 全然いいですよ! それだけ発生すれば充分です」
「そうですね! 私達メイドが月に一度はお料理できますから。もうジャンケンで悔しい思いをせずに済みます!」
まだまだマルメロのテンションが高い。ジャンケンの弱いフィグも喜んでいる。彼女はいつもジャンケンで負けてしまうので、高級魔物を料理する順番がなかなか回ってこないらしい。
「あれっ、発生可能な魔物が増えてますね」
「「そのリストを見せて見なさいッ!」」
そう呟いたメイズに、マルメロとフィグが圧を掛け、実際に魔物を発生させようとしている。だけど、発生させるのは後にしてくれとお願いしておいた。それは拠点に戻ってからゆっくりやってください。
改めて、こんなとんでも能力を持った奴を見落としていたなんて、テト、どうかしてるぞお前。そんなことを思っていると、テトがこの場を上手く締めようと口を開く。
「いやぁ、私も不甲斐なかったが、何よりヴァイスが無能で助かったのであるな! あ奴にココを利用されていたら今頃ジェムボーデンは崩壊しておったかも知れぬからな!」
「己の無能さを棚に上げ、アイノ様に多大なるご迷惑をお掛けしているだけの存在というのは、やはり言う事が違いますね。意識が高くて驚きました」
調子に乗ったテトに、またしてもマルメロの火の玉ストレートが直撃し、再度ロスカに抱き抱えられながら彼は静かに泣いた。
魔境調査はダンジョンアタックという形で有終の美を飾ったのだが、初回にしては得たものがあり過ぎる調査となった。
最後の仕上げに、俺はまだ少しだけやる事があるのでコソコソと作業を始めたのだが、そんな俺の前にメイズが出てきて話し始めた。
「アイノ様、わたしく、自由にしていただいた身でございますので、是非ともアイノ様の覇業をお近くで御支えしたく存じます。何卒、わたしくを臣下の末席にお加えくださいませ」
「あぁ、いいよ」
俺は「とある」作業をしながら片手間で答えた。帰る前にこれだけはどうしてもやりたいんだよ。
メイズは頭を垂れたまま言葉を続ける。
「ありがたき幸せ。これより、ダンジョンフィクサー・メイズは、粉骨砕身、身命を賭してアイノ様にお仕えいたします」
メイズは俺の前でかしずき、口上を述べた。
「よろしくな」
メイズが臣下に加わったことで、拠点は益々発展すること間違いない。夢の「ゆったり、まったり、のんびりライフ」に一歩近付いたと思う。
気を取り直したテトが、ふよふよと俺の近くに浮遊してきて声を掛けてきた。
「また変わった者が仲間になったものだな。して、お主はさっきから何をやっておるのだ」
「ふっ。テト、これはね、この世界における第一次衝撃的大革命なんだよ」
最後にこれをやったら帰ります。そう思いながら、いそいそと皆に発表するための準備を始めた。
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