渋々の魔境調査
我々が進んだその後ろには道ができるのだ。まさしくそんな感じで俺達が魔境を歩くと、その後ろには自動的に道ができていく。自動で伐採し自動で収納してくれるとんでもない能力だよほんとに。
今日、俺たちは魔境の調査にきている。調査隊の構成は、俺、テト、マルメロ、フィグ、鳶三郎、ファム蔵の六名。あとの皆は家事や周辺散策、田畑の管理などを行っている。
なぜ、こんな面倒な事をしているのかというと、昨夜、テトからしつこく言われたからだ。
「アイノ、お主まさかとは思うが、今の状況に満足して、『魔境調査とかの面倒事はゆっくりやっていこう』とか思ってはおるまいな?」
「……え、まさかぁ~……そんなわけないじゃん」
テトの指摘に内心焦り、ひゅー、ひゅーっと、カッスカスの口笛を吹いて誤魔化してみた。
「嘘下手か、お主ッ」
あっさりとバレてしまった。さすが元神だ。
「まぁ……今はちょっと生活基盤が整った余韻に浸りたいんだよ。水場整備したり田畑作りとか色々あったから今は休憩だよ(やったのはほぼゴレム達なんだけど)」
「お主がジェムボーデンの発展や救済を早く成してしまおうと言ったのではないかぁッ!!」
俺の言葉を受けたテトが、凄い勢いで顔をビタ付けし、かなりの剣幕で更なる魔境調査を訴えてきた。
「今この時も苦しんでいる民達がおるの……ッ!んぐぐぐぐっ!」
テトが何か言いかけていたが、マルメロが何も言わずテトを鷲掴みにし、俺の顔から剥がしたかと思うと、そのまま思いっきり外に投げ捨てた。
凄い勢いで飛んでいくテト。そのまま上空から魔境調査してくれないかな。そんな事を思っていたら、数秒後にテトが転移で戻ってきた。
「毎度毎度、その遠投を止めぬかぁッ!!」
今度はマルメロの顔にビタ付けして怒っている。怒ってはいるのだが、オバケのフォルムをした接触冷感のビーズクッションみたいな生き物が、からかわれてプンプン怒っているようにしか見えないので、むしろ可愛さしかない。なんなら、他のメイドゴレム達はマルメロを羨ましそうに見ているくらいだ。実際に、メイドゴレム達に抱きかかえられているテトを頻繁に見かけるようになったしな……。
その割には当たりがキツいという謎。
「じゃぁ、明日一日使って魔境調査してみようか。この家の後ろ側はまだ未開拓だし、そっち方面の調査をしよう」
「よ、よし、そうしようではないか」
一人で騒いではぁはぁと息切れをしているテトが承諾した。
まぁでも、魔境の調査はしないといけないのは事実。この魔境は二千年前には存在しなかった謎の場所だし、もしかしたら新大陸とかの可能性もあるわけだしね。仕方ない、魔境調査やってみるか。
◇ ◇ ◇
「アイノ様、どの当たりに行きましょうか?」
「適当にこのまま真っすぐ進めばいいんじゃない? テトもそれで満足するよ、きっと」
「……はぁ、まったく、締まりのない神であるな」
俺とマルメロの会話を聞いたテトが、ため息を吐いて呆れている。こうやって魔境調査してるんだから、いいじゃないかテトよ。元はと言えばお前が原因なんだから。
それはそれとして、今日のメイドゴレム達は普段とちょっと違った。いつもはゴスロリドレスのようなメイド服のような不思議な装いに盛り髪、という具合にキメているメイドゴレム達なのだが、今日はたっつけ袴を履いて動きやすい服装をしており、髪型もいつもと違う。
本日のマルメロヘアは、後ろ髪はスッキリひとつにまとめて、前髪をリーゼント風に。ふんわりナチュラルなソフトリーゼントである。フィグも同じくソフトリーゼントがキマッている。
実は、メイドゴレム達は毎回髪型が違う。基本的には朝起きたら勝手に髪型が変わっているらしいのだが、当然、自分でセットする事も可能とのことだ。不思議すぎる。
そんなメイドゴレムの謎生態の話をしながら魔境を進む。今日は広域調査をする予定なので、かなり深いところまで調査するつもりだ。っと言っても、基本的にはスタスタと歩いているだけなんだよね。
スタスタ進むだけ開拓をしながら調査をしていくその道中、高級魔物との遭遇率が高くなってきた。小一時間歩いただけで、結構な数のレッツモーとロッソポルコを狩る事ができた。その都度メイドゴレムが喜々として狩っていた。特にフィグの張り切り方が尋常ではなかった。
俺としては、ゴレム達の魔物討伐方法を初めて見たテトが、感情をなくしような顔でただフワフワと浮遊しているだけになっていたのが面白かった。そりゃそうだよね、自分で「国を壊滅できるほどの魔物である!」とか言っていた魔物を、ただ普通にボカッっとぶっ叩いて討伐するんだから。テトよ、うちの子達は天才なのである。
「アイの旦那! この樹の魔物はいい建材になりやすよ。ちっと伐採しちまいまさぁ」
鳶三郎ことサブはそう言うと、恐らくトレントと呼ばれる動く樹の魔物を、メイドゴレム達と同じように次々とぶっ叩いて討伐し、せっせと亜空間収納に入れていった。グラスプで解析鑑定してみると、やはりトレントという魔物で間違いないようだ。ただ、新種の上位トレントであると補足があった。
「あっ、この植物型の魔物はお料理に使えそうです。ファム蔵、これも採集して持って帰ってください」
「んだな、しかもこれなら弄れば普通に栽培できると思うべぇ」
魔物を討伐していたかと思いきや、フィグが討伐をしつつファム蔵に植物型の魔物採集をお願いしている。どう見てもその植物型の魔物って凶悪そうだけど……ファム蔵は普通に鎮圧し、普通に採集している。テトが呆然とする気持ちがよく分かる。
ここは世紀末か。ってくらいカオスである。まぁ、食料調達と建材調達と開拓がセットになっているから一石三鳥だよ、うん。
ちなみに、特に利用価値のない魔物の場合は、遭遇しても皆スルーしている。それでも襲い掛かってくるのだが、俺たちに勝手に突っ込んできては勝手に死に、魔石だけ自動的に収納される。こちらの耐久力が高すぎて、向こうが勝手にやられてくるので楽なのだ。ありがとう、神力。
そうして、ゴレム達のヒャッハー開拓を後ろから眺めながら進んでいると、これまで出現していた魔物達が消え、魔境が一気に静かになった。
すると、遠くで何かが呻るような声、バキバキと樹々が折れる音がした。その音は段々と近付いてくる。
――ズザァッ!!
その轟音と共に現れたのはッ……現れたのは……なんだこれ、デカッ! 魔物? ってか生き物か?
見た感じ四足獣っぽいけど、なんかよくわからない。いくつかの生物を強引に組み合わせましたって感じが一番近い。しかも、かなり大きい。多分アジアゾウくらいあるよ。あと、燃えてる? 火属性魔物かな? コントールができずにただ炎が纏わりついているような感じだ。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
「何か言ってますね」
「ですね。良く分かりませんが、アイノ様に楯突こうとしている感があります。アイノ様、こちら討伐しますか?」
マルメロとフィグの俺に仇なす者は速攻死なすコンビが怖い。でも、一応は許可を求めてくれるのは助かる。
「いや、ちょっと待って。少し様子をみようか」
「◎△$♪×¥コ&%#ク!……クレ」
「……」
「ゴボ……ジデ……グデ……」
「『殺してくれ』と言っているように聞こえますが」
マルメロが言うように、殺してくれと言っているように聞こえる。絶望にも似たオーラを纏っているし、恐らく自らを討伐してくれと言っているようだ。
グラスプで解析鑑定をしてみると、この生き物はとんでもない状態であることが分かった。それと同時に、恐らくこいつは……テトが神の座を失墜したことによる被害者だ。
【不完全勘合生物】
状態:絶痛絶苦、神の悪戯
称号:邪神の失敗作、半神獣
備考:不老不死
「うわ、なんだこの状態。絶痛絶苦で不老不死って地獄じゃん。しかも邪神の失敗作って……」
さすがの俺も、目の前にいる生物はテトが神の座を失墜したことが原因で誕生し、二千年近くもの間、死を望むほどの痛みと苦しみを抱えていたという事実を、指摘する事はできなかった。
「下級霊、これはあなたの責任でもありますよ」
「……であるな」
マルメロが普通にテトに言った。そうだよな。世界の片隅で生きていくだけなら言わなくてもいいけど、俺達はそういう存在じゃないもんな。ありがとうマルメロ。
そう思いながらマルメロとテトのやり取りを見ている俺に、謎生物がガンガン襲い掛かってきてるんだけどね。もしかしたら自分で自分をコントロールできないのかも知れないな。
襲い掛かってきては俺の結界に阻まれ牙が抜け、それと同時に再生していく。炎を放てば四方に離散し自分も燃えるのだが、やはりその都度再生していく。再生していくのだが衰弱している。恐らく限界を超えると失神するパターンのやつだ。実際に力尽きてその場に倒れ込んでいる。これを延々と繰り返してきたのかぁ……辛いですねこれは。
「アイノ、すまぬ。こ奴を救ってやってはくれぬか? こ奴がこうなったのは私の……」
「わかった。大丈夫だよテト。多分治せそうだからやってみるよ」
俺は、言い淀んだテトの心中を察した。まぁ治せそうだしやってみるか。
ゴレムクルス達を創生したような感じでいけそうなんだよね。ゴレムの時は、自分の血を体内から少し取り出して、ゴーレムと融合させたのだけど、今回はそのまま謎生物の体内に俺の血を入れればいけそうだ。
すっと数滴の血を取り出して、謎生物にプスッと注入し融合させ、治した後の姿を想像し念じた。神の創造とでも名付けよう。
すると、謎生物はたちまち光に包まれたのち煙と共に姿を現した。
――ぽわんっ。
あの気持ちの悪い容姿からは想像もできないほど、かなり神々しい姿に変貌を遂げている。
龍のような顔、髭に尻尾、馬のような体躯にたてがみ、額からは鋭そうな短角が生えており、身体の至るところに炎の様なものを纏っている。赤味が強いオレンジ色のたてがみと、黄色の体毛がマッチしている。部分的にある龍鱗もかなりカッコいい。全身を鱗で覆わなかったのは、ちょっと気持ち悪いからだ。
まごうことなく麒麟である。
日本で最も有名な神獣と言っても過言ではない麒麟をイメージして創造したのだが、見事に麒麟になった。完璧だよ、俺。
「なっ、こ、これは……?」
麒麟はまだ状況が呑み込めないでいるようだ。
「意識はどうだ? 名前はあるのか?」
「え、ど、どうして? 私は、なんだ、何が起こった?!」
絶痛絶苦という今後見る事はないであろう状態から、普通に戻ったんだから動揺するよな。
しばらくすると謎生物は落ち着きを取り戻した。
「あなたを絶望の淵からお助けになられた我らが神であるアイノ様に最大限の感謝をしなさい」
マルメロが麒麟の前に立ち、かなり強めに圧を掛けている。
「アイノ様、誠にありがとうございます。この御恩は一生忘れません」
麒麟は俺に向き直り、深々と頭を垂れた。恐らく状況が理解できていないので、言われるがままに行動した感があるけれど。
「名前はあるのか?」
俺は麒麟に名前を尋ねてみた。
「いえ、私に名前はございません。そもそも、自分が何者であるのかすら良く分からないのです……」
めちゃくちゃ辛いこと言うじゃん。確かに邪神に適当に創造されて、しかも失敗作だもんな。
「じゃぁ、名前はロスカにしようか。新しい季節の始まり……まぁ始まりの一歩って感じの意味だ」
「ロスカ……とてもよい響きです」
ロスカはそう言うと、改めて頭を深々と下げ続けた。
その瞬間、再びロスカが強い光に包まれ、あの巨躯がどんどん縮んでいき、ぽわんと煙の中から人型になったロスカが現れた。
「ふむ、これは存在進化であるな」
テトが「おぉ」といった感じでロスカを眺めている。
進化したロスカは、百八十センチほどの身長になり、獣人と獣族の中間みたいな姿になった。全体的にまぁまぁ獣族感がある。なにより目を引くのは髪型。なぜか今日のメイドゴレム達と同じくリーゼントだ。しかも、サイドが赤く、リーゼント部分がオレンジ色をしている。白い肌とのコントラストも相まってかなりキマッている。だけどファンキー過ぎるだろ。
っていうか女性だったのね。
「斯様な能力も授けてくださり、感謝してもしきれません」
「それって麒麟形態と獣人形態で切り替えられるの?」
「はい、どうやらそのようです。人型にもなれるみたいですね」
異世界って、名付けると進化するパターンもあるのね。
「アイノ、感謝する……」
異世界って不思議だなと思っていると、テトが謝辞を述べてきた。
「まぁ、ウラノスの爺さんにあれこれ融通してもらったしな。これくらいはやっていかないと」
人里に降りたら面倒が増えそうだし、当分はこの恩を笠に着て魔境調査終了後はダラダラしよう。
そんな事を思いつつ、魔境調査はまだまだ続く。
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