6話
『不味いわね……あのまま睨まれていたら逃げきれそうにないわ』
まだ瓦礫の向こうのスナイパーはこちらを狙ったままだ。
そこから動きそうな気配はない。
『報告のために銃から片手を外してくれたらそれだけでもだいぶ楽になるのに……時間を稼がれてるわね……』
「なんとかできそうですか?」
『厳しい、と言ったところね。彼、おそらくスナイパーライフルを使い慣れてる人だしそれを古代遺物を使うことでさらに精度を上げてるから』
しかも運の悪いことに先程よけた古代遺物を持った人間だったらしい。
厳しい条件だけが積み重なっていくようにしか思えない。
『……あまり提案したくない話だけど多少の犠牲が出る可能性を許容するなら策がないことはないわ』
「一応聞かせて貰っていいですか?」
『そうね……作戦はこうよ……』
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『いいわね?あくまでもこれは上手く行ったときの話よ。さっきのように失敗する可能性も充分あるわ』
「分かってます」
構えるのは先程殺した兵士から奪ったアサルトライフルだ。
それを隣にいるvoid2と同じように構える。
『私が合図したらすぐに逃げるのよ』
「……」
瓦礫を挟んだ向こう側約300mほど先に今回狙うべき相手がいる。
白枠で囲われたそれは未だこちらをねらい続けている。
『予定時間まであと20秒よ』
void2がカウントを進め始めた。
そして。
『3.2.1……撃て』
合図が出されるとともにフルオートで銃を乱射する。
銃口が火を吹き反動で体が上を向きそうになる。
それを無理やり押さえつけて撃ち続けた。
『下がって!』
そう言われるとともに撃つのをやめ背中を向けて走り抜ける。
『命中は0ね……まぁ仕方ないわ』
だが撃ちかえされることはなかった。
『作戦成功よコギト君』
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「チッ、胸糞悪い仕事だな」
動けない市民を二桁後半撃ったところで毒づく。
どうせ今回は一緒に働く仲間もいない。
企業連に対しての陰口をいくら言っても咎められることはなかった。
だがそれでも気分は全く晴れない。
「上のクソジジイどもめ」
今回の反企業連の都市爆撃は今の企業連会長が決めたことらしい。
何でも自分が引退する前に何か大きなことをしでかしておきたいとかなんとか。
上司からこれを聞いたときはふざけているのかと思ったし隊を分解してそれぞれ別の街に行かされることを聞いたときはクソジジイを撃ち抜いてやろうかと思った。
実際にやってみても動けない非戦闘員をダース単位で撃ち抜くのはとても気分の良い仕事とは言えない。
「ついでにコイツのデータも集めろって言ってきたが……」
頭を覆うようにつけている古代兵器とやらも正直オーバースペック過ぎるとしか言いようがなかった。
「数km範囲で虫が動くのも検知してたらうざったいやらなんやらだ」
設定をいじって索敵範囲を下げ反応サイズを上げるまではどれが必要な情報が分からないほどに何にでも反応する索敵機器などどれだけ高性能で丈夫でもお荷物としか言えない。
その設定も複雑怪奇でありそれが余計にストレスを高める要因となっていた。
「はぁ……」
俺は死体が散乱する街を眺めてため息を吐いた。
その時連絡が入る予感がしたので一応ストレスを感じさせないように取り繕う。
一瞬後にジッと無線が入る音がする。
『こちら司令部』
「こちらナハトムジーク5」
『少佐。何か問題はあるか』
「作戦に支障はなし」
『そうか、それは良かった。3時間ほどあとに第二団が到着するだろう。君には嫌な仕事かもしれないがそれまでは耐えてくれ』
「了解」
『それでは健闘をいのる』
そうして無線が切れる。
「司令部も戦勝ムードか」
どうやら他の都市の制圧も上手く行ったのだろう。
制圧が失敗したのなら他の都市に派遣もあったかもしれないがこの調子ならこの嫌な仕事からもそろそろおさらば出来そうだと若干気分が上がる。
「ふぅ……」
その時チリッとしたノイズを感じた。
索敵機器を確認するが人の影はない。
「気のせいか?」
しかし違和感は拭えなかった。
「一応高台から索敵しとくか……」
そうして瓦礫が積もって高くなっている場所に登る。
敵の姿は見えない。
しかしその後すぐにその違和感は正しかったと実証される。
ジッと無線が入る音がすると同時に叫び声が聞こえる。
『反企業側の生き残りがいましッ……』
サイレンサをつけた銃の音が響くと同時に男の声は聞こえなくなった。
生き残りがいた?
たしかあの兵士の持ち場はここから近かったはず……
そうしてその兵士がいた辺りの方向を見ると15~6歳ほどの少年が都市の外に向かって走っているのが見えた。
しかし索敵機器の反応はそこには何もないことが表示されている。
「やっぱガラクタか」
邪魔なヘッドセットを外して頭に狙いをつけた。
「最後に信じられるのは肉眼だな」
だが。
「!?」
避けられた。
こちらを見ていなかったはずなのに。
俺と同じように勘が鋭い人間なのかそれともそれなりの死線を潜り”そういった“感覚が強い人間なのか。
どちらにせよ厄介だ。
少年が隠れた瓦礫に狙いをつける。
「正直もっと強い銃を持ってきておくべきだったか……」
せめて遺体だけでも綺麗に残して弔ってやろうと持ってきていたこの銃では瓦礫を貫通できない。
どうせ今の死体の扱いを見るにゴミと一緒に燃やすのだろうし死体が残らないほど強力な銃を持ってきていても変わらなかっただろう。
「だがこのまま待っていて有利なのは俺か」
敵は一人だ。
どうやって古代遺物の索敵を抜けていたのかは分からないがこのまま時間がたてば有利になるのは仲間がいる自分である。
別に殺さなくても他の隊の人間の合流を待てばいい。
その時だ。
アサルトライフルを乱射する音が聞こえた。
近くをヒュンヒュンと玉がかする音がする。
だが”当たりそうな音の“玉はない。
避けるまでもなさそうだ。
マズルフラッシュが光っていかにも撃ち返してくださいといっているよう。
不気味なところはあったがこの状況で銃の乱射など銃を扱ったことがないズブの素人がやることだ。
「これで終わりかな」
瓦礫の隙間から見える頭に狙いを定めた。




