37話
ラスルを失ったことに各々思うことはあったが、コギトたちは降ってくる瓦礫などを避けながら子供たちと共に街の外へと抜け出した。
街からそれなりに離れた崖の上。
そこでようやくコギトたちはその相手の全貌を知ることとなる。
「なんてデカさだ……」
直径にして百メートル、長さにして数キロはあるだろうか。
巨大な姿をしたミミズのような怪物。
それが街の幾らかを飲み込み、押し潰していた。
コギトたちが1人をのぞいてその初撃を避けれたのはほとんど幸運と言ってもよかった。
『あれはいったいなんなんでしょうね?』
『わ、私も初めて見る生物としか』
『伝説上の生き物としてモンゴリアンデスワームとか言うやつがいたが……そいつに近いか?』
voidたちが何かを話していることはわかったが、地面に座り込んだコギトはそれに反応する気力がなかった。
今までも仲間を失うことはあった。
しかしここまで近くで、尚且つ自らの命を救われたその時に、その人が死んだ。と言うのはコギトの経験ではなかった。
(僕のせいか?)
自分がもっと早く避難するように指示していたら、もっと早く走っていれば。と今更になって後悔がコギトを襲っていた。
握りしめた手に自らの爪が食い込み、血を流す。
「コギト君……君のせいじゃないんだよ。だからそんな表情をしないでくれ」
「先輩……」
「……」
そんな思い詰めた表情をしたコギトにハラとサジュが声をかける。
2人も友人や家族同然のラスルを失ったことは変わりなく、さらにコギトよりも付き合いが長い。
どちらも額に刻まれた皺や、蒼白な顔になっていることから内心では穏やかでないのだろうことがコギトにもわかった。
だが、それを今は噛み殺して立っている。
そんな2人の強さをコギトは眩しく思った。
『コギト……』
『コギトくん……』
『コ、コギトさん』
voidたちも流石に違う話をしてコギトの気を紛らわせることができないと悟り、その顔を厳しいものに変えていた。
「コギトにいちゃん……」
子供たちもラスルを失ったことで泣いているものもいたが、それでもコギトを気遣っていた。
(僕は……どうすれば)
それでもやはり、コギトの心は動かなかった。
今はなんとかして動くべきだと理解はしている。
だが体を立ち上がらせる気力が完全に尽き果ててしまった。
「すいません……今は……もう」
だから、閉じこもって、座り込むしかできなかった。
だが、それを許さないものもいた。
「貴様ッ!」
「っあ!」
ハリベルがコギトの胸倉を掴み上げる。
あまりの力にコギトの体が浮き上がり、その拍子で思わず声が出てしまう。
その力の大きさは、ハリベルの大きな怒りを表すようであった。
「貴様はッ!なんのために!生きているのだ!あいつがお前を助けた意味は!」
「くっ……」
「お前がそれを証明しないというのなら!今、ここで死ね!どうなんだ!?」
だが、そうまでしてもコギトの気持ちは変えられなかった。
ただ、黙って下を向いたまま、話すことを拒否していた。
「……お前はもう、どこかに消えてしまえ」
「ぐっ……」
「ちょっとハリベル、流石に乱暴すぎだ」
そんなコギトに興味を失ったのか、ハリベルはそのままコギトを投げ捨てた。
そうしてコギトの心配をするハラを無視してvoidたちの言う、モンゴリアンデスワームとやらを見据える。
「ハラ、お前は俺と共に来い、あいつを倒すぞ。サジュは子供たちを送れ。場所はもうすでにPDA端末に送った。その後はモナカさんたちの方へ行きさらに増援を送ってもらえ」
「ハリベル……」
「俺は死んでも奴を仕留めてみせる。もたもたしてると被害が増えるぞ、ハラ」
「……わかったよ」
そうして、ハリベルとハラはその場を後にした。
「先輩……僕らも行きましょうか」
「……」
「……そうですよね。とりあえずPDAに情報だけは送っておきます」
そうしてサジュもコギトをその場において先に行ってしまった。
「……」
コギトにはもうなにが正解なのかわからなかった
自分がここに立っている意味も、戦ってきた意味も。
こんなにも自分が脆い。というのは驚きだった。
「皆さん……俺は……」
つい、助けを求めるようにそう漏れた。
そんなコギトの目の前にvoid1が立った。
「あの……」
『コギト、お前にある男の話を……したいと思うんだ』
その目はコギトをしっかりと見据えていた。
ただ、それと同時に震えていた。
『無力で……無責任な男の話だ』




