38話
『そいつは、自分でなんでもできると思っていた。そいつは、自分の犠牲があれば、みんなが進めると思っていた』
void1がいつも見せる明るい様子とは打って変わって、その声は重かった。
void2やvoid3もそんなvoid1に向かって驚いたような顔を見せる。
正直、コギトも驚きであった。最も気楽に見えるvoid1がそんな顔をするとは思っていなかった。
『その男は常に前だけを見続けた。常に前に立ち、全ての敵を切り伏せたと思っていた』
「あの……void1さん、話が」
『そんな時、自らのせいで世界に避けられない滅びが迫っていることを知ったその男はどうしたと思う?』
コギトはvoid1の話の意図が全く読めなかった。
これが真実か、はたまた作り話なのかさえ。
しかし、コギトはvoidたちの様子から、彼らの過去に少しぐらい関係がある話なのは分かった。
「そう……ですね。やはり戦ったんでしょうか?でもダメだった的な――」
それでコギトは彼らの持っていきたいゴールを予想して少し皮肉げにそう言おうとした。
だが、それもvoid1に遮られた。
『違う。なにもしなかった』
「は?」
つい、間抜けな声が出てしまった。
『ただ、そいつは逃げた。自らの責任や今まで傷付けてきた敵、仲間、全てに背を向けて、ただ諦めた。それが定めだと。だから、そいつの周りには死体の山ができた。そいつが戦っていた時よりもずっと多くのな。そして、今お前がここから逃げれば、それと全く同じ状況が繰り返されるだろう。俺の演算は知ってるだろ?』
「ちょ……ちょっと!」
『そうだな。お前は確か……戦争で狂わされるような人たちを救いたい。って言ってたな?その気持ちは嘘だったのか?そんなのでこれからも進んでいけるのか』
「……わかりません。俺だって、立ち向かいたいとは思ってるんです。でももうどうすればいいのかわからないんですよ」
コギトがそう言うとvoid1は悲しそうな顔をする。
まるでそう言って諦める姿を、その姿をなんども、なんども、繰り返し見てきたかのようだった。
少なくともコギトはその姿を幻視した。
『……俺が言いたいのはお前の周りにはまだ戦う理由が残ってるってことだ。そして、それに自分自身で気付いている』
「でも、その人は諦めたんですよね」
『そいつはまだ戦う理由があったのに気が付かなかったからな。言うならば……意思が、そいつには足りなかった。自分を押し通すための。コギト、向こうをみろ』
そうしてコギトはvoid1に言われるがまま、指さされた方向を見る。
それとほとんど同時に銃撃音や爆弾が破裂する音が響き、デスワームが暴れ出した。
「皆さん……」
『あいつらがまだ戦っている。そいつらを助けたい。そうは思わないのか!それがまだお前が立っている理由にはならないのか!?』
void1がそう熱弁する。
でもコギトはまだ顔を上に上げられない。
void1の顔を見ることができない。
「……俺は、彼らに報いることができるのでしょうか?」
『報いることができる。なんて言えないだろう。でも大事なのはそこじゃない。報いたい。そう思い、行動することだと思う』
「また、俺のせいで誰かが死ぬことになったら……」
『その時は、失ったそいつの分まで周りを守っていくしかない。そうして一つずつ報いていくしかないんだ』
そこで、ようやくコギトは顔を上げる。
そうしてしっかりとvoid1と向き合った。
「俺は……まだ、1人でしっかり立てません。道も、どこにあるのかわからない。でも、もう誰かを失うのは嫌なんです」
『コギトくん……』
『あぁ……そのために俺たちがいる。俺たちがお前の為にここにいる。今できる全力でお前を支えるよ。だから』
「はい、皆さん。力を貸してください」
そうして、かつての青年から、1人の少年へとバトンが渡された。
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仕掛けていた爆弾が次々と爆発していき、粉塵を撒き散らす。
それと同時に空気を切り裂く弾の音がいくつも響いていたが、ハラはその結果をみて眉を顰めた。
(デカい上に硬い……効いてる様子が見られないな)
爆弾はデスワームの表皮を幾らか焦がし、ハリベルによる対物ライフルの弾はその体に対して確実に穴を空けていた。
だが、それはデスワームの大きさに比べればほとんど無傷、と言ってもいい状況であった。
致命傷となり得るような傷は全く生み出せない。と言っても過言ではなかった。
それよりも――
「あぶなっ!」
その衝撃で不快そうに動くデスワームが暴れ、地震のような揺れで歩くのも一苦労であり、また建物や岩にぶつかることで砕けた破片がハラやハリベルを襲う方がずっと問題であった。
(どうにかしないと……うおっ!)
そうしてなんとか飛んでくる瓦礫を避けてデスワームの進行方向に爆弾を仕掛けていたハラだったが、強い振動が起きたことでその足場が崩れる。
それはハラを巻き込み、その体を落下させていた。
「ハラ!くっ!」
ハリベルの焦る顔がハラにはしっかりと見えていたが、それでもそれに意味などなかった。
だが、そのハラの視界を影が遮る。
「……なんで」
ハラにとって驚きであった。
ハラは彼はもう心が折れて、この戦いには参加しないと思っていたからだ。
個人的にはそれでもいいとハラは思っていた。
こんな無謀な戦いに、彼まで巻き込む必要などないと思っていたから。
だから、声が出た。
目の前の男は、少し気まずそうな声でハラに返す。
「すいません。覚悟に……時間がかかりました」
「……」
そうして覚悟を決めたと言う男は先ほどの悩む少年と本当に同じなのかとハラは思った。
心が折れた時に、こんなに早く戦場に戻って来れる人間がどれほどいるのか。
「それじゃあ、引き上げます」
そうして糸のようなもので体が固定された少年は逆再生されるかのように動く。
それに伴ってハラも引き上げられていった。
ハラが落ち着いて見てみるとその体にはたくさんの機械が取りついている。
(なんだ?虫……か?)
そうして安定した足場に戻ってきた時には、すでに少年は突撃銃を構えていた。
ここでハラは察する。
あぁ、これは冴えている時の彼なのだと。
だから
「頼りにしてるよ。コギトくん」
「任せてください」
握りしめられた銃が、彼らの敵に向けられた。




