33話
コギトがすることといえば単純である。
ゾンビ達の意識をこちらに向けること。
締めはvoid達がやってくれる。
だからこそコギトは岩から顔を出してゾンビ達を牽制しないといけない。
「っ!」
耳元を銃弾が掠る音がする。
『やっぱりどこを狙うか分かりにくい銃弾は危険よコギト君』
『分かってます』
それに少し怯みながらもコギトは撃ち返す。
そういった弾丸は頭に当たらずとも胴体などに風穴を開けて少なからずダメージを与えていた。
『人間なら絶対に痛みなどで苦しむはずですが……』
『あそこまで症状が悪化するともうとっくの昔に人間を辞めていて動く人形のようになっているはずです』
『末恐ろしいですね』
相手は銃を使うと言ってもタイミングまでは考えつかないようで合わせて使うことやコギトが隠れているときには撃たないということをしなかった。
コギトは相手のリロードする時間に合わせて銃弾を放つ。
時たま銃弾が近くを掠めるのは仕方がないことだろう。
今のところは計画通り進んでいる。
そう思ったときにイレギュラーが起こった。
「ヴァッ!」
どうやら弾が切れたらしい銃を一体のゾンビが投げ捨てた。
(くるっ!)
そこからゾンビは先程までヨロヨロと歩いていたのを忘れたかように4足となりコギトへ走ってくる。
それと同じようにゾンビが数体同時に銃を投げ捨てコギトへ向かう。
(速い!)
コギトはあまりのスピードに驚く。
走り寄る姿はお世辞にもキレイとは言えなかったがその走り方でどうすればそのような速度が出るかコギトには分からなかった。
しかし近づかれるのはマズイと分かっていたので幾らか応戦するが速すぎて狙いが定まりきらず結果は芳しくない。
『ちょっと我慢しろよコギト』
void1がコギトにそういうのと同時に世界が遅くなる。
(void3さんの力か!)
既に距離は100mもなかったがそれもこの遅くなった世界の中では関係がない。
動きは直線的なので予想もし易い上にそれなりに狙いも付けられる。
しかし相手もそうやすやすとはやられてくれないようでコギトに向かって石を投げてくる個体も出てきた。
(危なっ!)
大きな音を立ててコギトの顔の横を石が通り過ぎる。
それを避けてから頭に一撃を撃ち込んだ。
(一匹見失った!?)
だが飛んできた石に気を取られているうちに一体のゾンビを見失う。
索敵にも引っ掛かっておらず全く何処に行ったのか検討がつかない状態だった。
『上だ!』
『またですか!』
コギトが上を向くと岩に登ったのだろうゾンビがこちらを向いていた。
……石を振りかぶって。
『マズっ!』
『歯ァ食いしばれコギト!』
ここまで近距離だと認識できても避けれるかどうかは分からない。
だがそこでさらに2度目の変化が起こった。
(ブレてる?)
コギトの視界にはいくつかの映像が映っていた。
それも砂の一粒一粒に至るまで数秒後にどうなったのかを描写するほどに。
おそらくこれこそがvoid1の言っていた未来視とやらなのだろう。
そしてコギトの視界にはゾンビが石をどう投げるのかはっきりと映っていた。
「うおっと!」
顔の横をギリギリで石が通り過ぎる。
鋭い石だったのでおそらくコギトの顔は切れただろう。
しかしそれを気にしている暇はない。
コギトに向かって襲い来るゾンビの動きに対応してコギトが銃を差し出す。
それに吸い込まれるかのようにしてゾンビが動いた。
大きな音を立ててゾンビの頭が爆ぜる。
それから飛んだ体液を軽く払うと時間がもとに戻った。
『ありがとうございます』
『あぁ……それよりも副作用はどうだ?』
『そうですよコギトさん、短い時間に連続してますし今のは同時使用です。何か問題があるのでは?』
『いえ……今は何もヅッ!』
コギトがvoid達に答えようとしたときに先程の使用よりも強い痛みに襲われる。
先程の痛みが頭を割られるような痛みと評するのならこれは頭の中をかき混ぜられているというのが近いだろう。
頭を抑えて蹲るコギト。
「ヴッ……ヴォエェェェエヅッ」
嘔吐感を感じると同時にそれほど原型を留めていない食べ物と胃液が逆流してくる。
ひとしきり吐いたあとにコギトは口元を拭った。
『さ……流石にキツイですね……』
『コギト君、鼻血出てるわ』
void2にそう言われ服で鼻を拭うとどうやらかなりの血が出ているみたいでコギトの袖を真っ赤に染めた。
頭痛、吐き気、鼻血はかなり大きなデメリットだろう。
void1が言っていたvoid2以外の能力は使いづらいと言うことを思い出しながらコギトは口を開く。
『……もう二度と同時には使いたくないぐらいですね。効果は絶大なのですが……』
『まぁまぁあとはゆっくりと休めコギト。向こうもほぼ終わったみたいだし、こちらも最後の締めだ』
ちらりとコギトが野獣達の方を見るとかなり近づかれてはいたもののその殆どが地に伏しているか殆ど動けない状態であった。
『勝ちましたね……イレギュラーは有りましたがまぁ結果オーライと言ったところでしょうか』
『そうだな……void2、甲虫型の最終操作を』
『分かったわ』
そう言うと同時に大きな音が鳴りコギトの方にまで土煙が届く。
暫く経ってからコギトが顔を出すとかなり近くまでたどり着いていたゾンビ達が落石に巻き込まれて動かなくなっているのが見える。
たっぷりとまだ生き残っている個体がいないかどうかを確認してからコギトは体から力を抜いた。
『はぁ……お疲れ様でした皆さん』
『お前が一番お疲れだよ……良く頑張ったなコギト』
『そうね』
『それでも皆さんが居なければもっと大変でしたよ』
コギトは恐らく渓谷の上の方にいるはずのバクドローンに視線を向ける。
コギトはvoid達に頼んでそこに岩やらを運んでもらっていたのだ。
流石に石を大量に積んでいったら気狂いとは言えゾンビも不審に思い近づかないだろうとコギトが自分の方に意識を向けさせていたのだ。
走ってきた者に襲われるということはあったものの計画はうまく行き10体以上のゾンビが落石で息絶えていた。




