31話
特別に足の早い個体は優先的に狙われていたため既に野獣達は足が遅い個体が殆どを占めていた。
しかしそれでも重量のある対物ライフルを持つハラ達よりは圧倒的に速い。
そして今現在まで生き残っている個体は総じて硬いものが多くコギトの突撃銃では大きなダメージを与えられているようには見えなかった。
しかし豆鉄砲も数があればそれなりにうざったいのか嫌がる様子を見せる。
時たまいいところに当たった弾が致命傷になることもあるようで野獣達の群れは少しづつ数を減らしていた。
「対物組が所定の位置につくまであと10秒や!それまで耐えるで!」
後ろからモナカの声が聞こえる。
彼女はその小さな体を一生懸命に使ってコギト達と同じように遅滞戦闘を行っていた。
『やっぱり距離が近づくと当たるようにはなりますけど……焦りますね』
『大丈夫よコギト君、今のところモナカちゃんの予定通りだから』
『焦っていると大抵良いことは起こらないからな、心を落ち着かせろ』
既に200m少ししか距離がない野獣達に焦りを感じるコギト。
おそらく30秒ほどでここまでたどり着くだろう。
「モナカさん!対物組予定位置に着きました!」
後ろから対物組の避難が完了したことを告げる声が聞こえる。
それを耳にしたモナカはすぐさまコギト達に聞こえるように退却命令を出す。
「全員すぐに退避ー!」
それを聞いたコギト達はすぐさま後ろに下がっていく。
「衝撃注意ー!」
そうしてモナカが声を上げると同時にコギトを衝撃が襲った。
その場で少しよろけるコギト。
後ろを眺めると爆炎が上がっていた。
『爆薬しかけすぎでは!?』
『仕留められないことの方を危惧したんだろうな』
モナカ達は倒しきれずに距離を詰められたときのために地面に地雷を仕掛けていた。
今の爆発はそれが起動したことによって起こったものだった。
コギトはその威力に少し驚きながらも走るのを止めない。
『でもそれで止まらない奴らも大概ですね……』
『それが変異種だ、奴らは生物として欠陥だが……こと戦闘においては強力なことも多い』
爆炎が上がっている中を気にせずに進行してくる野獣たちの姿がvoid達の支援によってコギトにははっきりと見えていた。
続いてもう一つ仕掛けていた第二陣も爆発を起こしたが進行速度が緩まるだけでそれで死亡した個体は少なかった。
「まだ生きとるっぽいな……対物を持っている子は怪しいとこに撃ち込み!」
モナカがそう言うと同時に幾らか銃弾を撃つ音がする。
暫くすると爆煙が晴れてきて野獣達の姿が見える。
「思ったよりも削れとらんけど……順調ってとこか」
50体ほどに数を減らした野獣達を見てモナカがそう呟くのがコギトにも聞こえた。
「さぁみんな!最後の気張りどころや!決めてくで!」
そうしてコギト達は野獣に向けて銃を向ける。
爆弾は決定打とはならなかったもののやはり幾らか脆くなっている部分はあるようで時たまコギトの突撃銃でも野獣達の硬い装甲を撃ち抜いているのがスコープ越しに見えた。
歩くのが比較的遅いのも相まって銃撃を耐えながらだとあまり前に出れていないようだった。
だが順調に討伐が進みコギトも少し落ち着いてきた頃にそれが起こった。
数発の弾丸がコギトの近くを掠める。
(なんだッ!?)
後ろを振り向こうとしたコギトだったがそれよりも先にモナカが倒れ込んでいるのを見つける。
それに気を取られている間にvoid1が大声を上げた。
『コギト!上だ!』
コギトはvoid1の声が聞こえると同時に顔を上げる。
すると何かが渓谷をコギトに向かって飛び降りたようで影が近づいてきているのが見えた。
「うおおぉぉぉっ!」
「ぐぎゃぁあぁぁぁあぁっ」
その影が銃を振り降ろして来るのとコギトがAS67で防御するのはほぼ同時だった。
「くっ!」
相手の力と位置エネルギーに押されてコギトは後ろに向けて倒れる。
コギトは地面に打ち付けられた痛みに耐えながらそれについて観察する。
そしてそれの正体に対して驚き声を上げた。
「人間!?」
『違う!ゾンビだ!』
すぐさまvoid1が否定する。
『なんですかそれ!?』
『説明してる暇はないわ!早く抜け出して!じゃないと!』
『今やってますよ!』
そこでコギトの耳にまた銃弾が近くの地面を削る音が聞こえた。
『何が起こっているんです!?』
『他のゾンビの群れがお前らを狙っているんだよ!しかもまた完全に探知を無効にしてやがった!』
(わざとやってるのか!?)
コギトは先程の触手型の変異種と同じようにまたもや探知から抜けてきたゾンビという彼らに対して実はジャミングなんて嘘でわざとvoid達が通しているのではないかと一瞬思うほどだった。
それほどまでにコギトにとって奇襲が多かったのだ。
しかしその思考も長くは続かない。
コギトを抑えているゾンビの力がコギトの想像以上に力強かったからだ。
徐々に押し込まれていくコギト。
首元まで銃が押し込まれ始めたその時ゾンビと目があった。
ゾンビだかなんだかは良く分からない。
そもそもコギトの知っているゾンビが銃を持って襲ってくるなど聞いたこともなかった。
しかしその目は正気でないことだけは確かなようでコギトに焦点が合っておらず、血走っていた。
とにかく目に付いたものを破壊しているだけという印象を受けた。
(マズいッ……!マズい!)
AS67がコギトの首に触れたとき既にコギトの腕は限界だった。
目の前の男は痩せこけていたがコギトよりも圧倒的に力強かった。
だがコギトの腕が完全に限界を迎える前にゾンビは頭を撃ち抜かれてコギトに向けて脳漿をまき散らす。
コギトはそれの気持ち悪さに少し青い顔をしながらも倒れ込んできたゾンビをすぐさま退かして立ち上がった。
「大丈夫ッスか?先輩!」
「サジュ!」
コギトが銃弾の飛んできた方向を見るとサジュが焦った顔をしながらコギトに声をかけた。
どうやら彼がコギトを助けたらしくサジュの突撃銃からは硝煙が出ていた。
「とにかくすぐ隠れてください!」
その声が聞こえると同時に渓谷に転がっていた岩の裏に隠れる。
サジュも同じところに入り込んだ。
「はぁ……はあっ……何が起こったんです?」
コギトがサジュに向かってそう質問する。
しかしサジュも何が起こったのか分からないようですぐさま返答が帰ってこなかった。
「……俺も分からないッスけど、何者かが銃をこっちに向かって撃って来ました。それでモナカさんの足が……とにかく安全地帯に運んだッスけど……」
「……それはマズイね」
「マズいどころじゃないッスよ!」
サジュは未だ尚こちらに進行してくる変異種に指を向ける。
「まだ奴らを倒しきれてない上に気狂い共がこっちを狙ってきてるっ!モナカさんも動けないしどうすれば良いんだ!」
半狂乱のように叫ぶサジュ。
(どうすれば良い……?)
コギトはvoid達の言うジャミングのせいか上手く表示されないゾンビ達に視界を向ける。
岩越しだが幾らかのゾンビ達がこちらに走ってきているのが見えた。
「ふーーー……」
長いため息をつく。
「良し……」
やることは決めた。
そういうようにサジュに顔を向けるコギト。
「俺に考えがある」




