20話
コギトは向かってくる野犬に対して銃を構える。
しかしまだ十分な距離まで近づいてはいない。
「怖いかもしらんけどもうちょい近づけんとなー」
車に備え付けられた機銃を野犬たちの方向に向けながらモナカが言う。
『近くにおびき寄せられるような野獣はいないわ。存分にやって頂戴』
『了解です』
void2によって近くには野犬たち以外にはいないことが分かりコギトは目の前にのみ意識を向ける。
「会わせるでみんなー……3.2.1……撃てー!」
モナカの合図に合わせてコギト達が全自動射撃を行う。
先頭を走っていた野犬が数匹倒れるがそれを避けた大多数がコギト達に向かってくる。
コギトは弾の切れた弾倉を変えながら撃ち続けた。
(動いているとこんなにも厄介なのか!)
撃った銃弾の数に対して戦闘能力を奪えた野犬の数が少ない。
コギトはいつも以上に当たらない弾に少し焦りを感じた。
『コギト君、右の岩を陰にして数匹が向かってきてるわ』
「右からも来てます!」
「右見るッス!」
「了解!」
そう言ってサジュは岩を陰にしてこちらに向かってきていた野犬達を丁寧に処理していく。
(やっぱり踏んできた場数が違うからかちゃんと当たってるな……誘導してるのか?)
コギトは横目でそれを見ながら野犬達を打ち続ける。
「そろそろ危険域や!抜けてきた奴から撃ち殺し!」
野犬たちとの距離が100mを切った。
コギト達はいくらか他の個体よりも足が早く突出した個体を優先して撃って行く。
しかしそれでも物量差に負けて幾らかの個体が抜けてくる。
その殆どはコギト達を攻撃する前に崩れ落ちたのだが一体だけ撃たれる前にコギトのところまで到達した野犬がいた。
(間に合うか!)
コギトに噛みつこうと大きく口を開けたのが見える。
恐らく銃をそちらに向けて撃つよりも先にコギトの何処かが食いちぎられる方が早いだろう。
『フォロー入れるぞ!』
void1がコギトに向かって何かを叫ぶと同時にコギトの耳元でブゥンと羽音がして野犬の動きが鈍る。
コギトは恐らく都市から逃げるときに使った虫型飛行ユニットだろうとあたりをつけた。
「うおおぉぉぉ!」
そのまま野犬に向けて銃を乱射する。
それにより頭を撃ち抜かれた野犬は慣性をもったままコギトに向かって崩れ落ちた。
「大丈夫かいなコギト君!」
「だっ、大丈夫です」
麻痺毒により動きが鈍ったお陰でそこまで大きな事故にはならなかったが野犬にコギトが下敷きになる。
コギトが野犬の下から抜け出した時には既に戦闘は終わっていた。
「本当に大丈夫かい?」
「大丈夫ッスか?」
ハラとサジュがコギトを心配そうに見つめる。
『大丈夫でしょうか?』
『今スキャンしてるわ……うん、骨や筋肉に大きな異常は無しね。せいぜいが軽い打ち身ってところよ』
「多分大丈夫だと思います」
「ちょい待ちコギト君……うん、ほんとに大丈夫なようやな。肩の傷も大丈夫そうや」
車から降りてきたモナカがコギトの体を軽く触診して骨などに異常がないことを調べる。
コギトも少し痛む場所はあるが戦闘に支障は全くないと思った。
「すみませんコギト先輩……俺がもっと頑張ればあそこまで近づかれることはなかったのに……」
サジュが少し落ち込みながらコギトに謝ってくる。
「いえ、俺も優先順位を間違えました。自分のミスですよ」
コギトも少し申し訳ない気持ちになりながら気にすることはないと伝える。
そこにモナカとハラが割って入った。
「いやーすまんなコギト君、サジュ、ウチが悪いわ。ちょっと計画の立て方甘かったみたいや」
「僕ももっと周りに気を使ってればもう少し安全に倒せたと思うのでモナカさんだけでなく僕の責任でもありますよ」
「まぁ、結局のところ大丈夫だったのであまり気にしないことにしましょう」
コギトは誰の責任でもないと思ったがこの空気を早く変えたいと思いそう言った。
それから車に乗り込んだあとは特に何事もなく2つの都市にたどり着き、ライペルージアの外壁が見えてきた。
モナカが見張りをしていた都市の軍人にカードを見せたあと軽く車内を点検された。
危険物がないことが分かるとすぐさまコギト達は都市内部に入る。
「モナカさん、都市に入るたびに毎回見せてたあのカードってなんスか?」
サジュは都市に入ったことがなかったらしく今回の旅で入ったのが初めてだったらしい。
疑問に思ったのだろう。
それにハラが答える。
「サジュ、あれは商人組合のカードだよ」
「商人組合ッスか?」
「そう、企業みたいな大きな会社には所属していない小規模な商人が所属する組合だね。都市に入るときあれがあれば無料で入れるんだよ」
「まぁ組合加入費と会費はかかるけどなー」
そう言ってモナカが笑う。
「その代わりカードがあればそれなりに信頼されて割と簡単に都市に入れたりもするで、ま、都市中央に行くときはかなり厳しい警備になってくるんやけどな」
「そうなんスね……勉強になりましたッス」
コギトもモナカがあまり車内を点検されなかった理由が分かり心の中でなるほどと考える。
「まぁ都市中央の警備が厳しいと言っても行くことはほぼないんやけどな、あるの工場か企業のお偉いさんの居住区ぐらいやし」
そう言ってモナカが話を締めた。
「さて、そろそろ降りようか皆」
「「「はい」」」
そうしてコギト達は駐車場に停められた車から降りモナカが3人に向き合ってから言う。
「さてみんな、今からウチらは個々に別れて情報収集を始めるで。ウチはちょっと知り合いの所に行ってくるんやけど他の皆はそれぞれ別れて情報収集してってなー。連絡は都市内部ならPDAで連絡が出来るから、連絡されたらここに戻ってきてな」
そうモナカが言ったあとこの都市の地図がモナカから送られてきた。
「買い物、井戸端、どんなところで聞いた話が役に立つか分からんからな、しっかりと調査するように、ほな」
そうしてコギト達は街を散策することになった。




