16話
「だいぶ銃に慣れてきたようだね。コギト君」
「まぁ近くならって感じですけどね」
コギトは頭に穴を開けた野犬の首に切り込みを入れながら答える。
コギトがこの仕事を初めてからはや一週間。
初めての有効打を放った瞬間であった。
だがコギトは100mほどの距離でようやくといった自分の腕に不満があるようだった。
「気にすることはないよコギト君。一週間でこれなら上達は充分早いよ」
『部屋でやったシュミレーションの成果がでたと思って今は満足しておけ、焦っても結果が出るわけじゃないしな』
ここの街に来てから2週間ほどが経ったがコギトは未だに客室で寝泊まりをしていた。
それにより虫型飛行ユニットによる映像投影で射的のシュミレーションが行えることはコギトにとって良い出来事だったが他の人たちと違って寮で生活できないというのはやはり心の壁を感じるコギトだった。
「さて、今日も犬肉だね」
「犬肉ってなんとも言えない味がするんですよね……」
「はは、そう?僕は美味しいと思うけどなぁ。特に3日ぐらいおいたときの犬肉は良いよ?」
そうして益体も特にない話をしながら銃を背負い直すとvoid2が何かを感知したようでそれをコギトに伝える。
『何かが近づいて来ているわ……これは車ね』
『車ですか。モナカさんでは無いですよね』
『違うわね。モナカちゃんはそもそも街から出ていないはずだし車種が違うわ』
『数は3台……void2,強盗の線はあるか?』
『んー……探知の結果としては車の中には荷物……箱詰めされた食料やら機械部品が積まれているわね。どちらかといえばモナカちゃんのお客さんといった確率の方が高いわ』
『あっ、でもコギトさん。一応警戒はしておいた方が良いと、私は思います』
コギトは近づいて来ているらしい車に対していつでも反撃出来るように半自動から全自動に切り替えた。
コギトの腕では車や野獣のような高速移動する物を狙うのは無理であり、近距離まで来たなら銃弾が多少バラけようが関係がないということにコギトは最近気がついていた。
なので先に相手に気が付かれ距離を詰められたときの対策として最近は全自動に切り替える癖をつけていた。
数分もしないうちに渓谷の中を車が走っているのが見えた。
コギトがハラに対してそれを伝えるとハラは双眼鏡で確認した後にそれがモナカの客であることをコギトに伝えた。
どうやら月に1度ほどのペースで商品の物々交換を行うらしい。
『こんな辺境までくる商人がいるとは酔狂だな。単に変わっているか、モナカの商品が素晴らしいのか……まぁどちらにせよ面白いことになりそうだ』
『えっ……?そ、それって本当に面白いんですか?』
void達が後ろでガヤガヤと何かを言っているのも慣れて特に気にならなくなってきていたコギトは敵ではないことが分かるとすぐに銃のレバーを戻し半自動にする。
その後ハラが近づいて行くとその車から数人の男達が降りてきた。
その先頭にいる老人を見たハラが驚いた様子で話しかける。
「グニドさん!?何故ここまで?」
「あぁ久しぶりだねハラ君、いやなんてことないさ。僕もそろそろ引退が見えてきたからね、モナカさんに挨拶に来たわけさ」
「それで貴方が直接出向く必要はないでしょう」
ハラがグニドと呼ばれる老人に興奮した様子で詰め寄るが近くにいた他の男がハラを止めた。
「すまないハラ、俺もそう言ったんだが社長は聞かなくてな」
「ハヴェルさん……」
「止められないのは悪かったって、ところでそこの坊主は新入りか?見ない顔だが」
ハヴェルと言うらしい男が誤魔化すようにハラに尋ねる。
「彼はコギトって言います。2週間ほど前にここにきて今は僕と一緒に警備の仕事をしているんですよ」
「そうか……まぁ君も色々と大変だろうが頑張れよ」
「あっ、はい」
そう言ってハヴェルがコギトに向かって手を出した。
何やら感づいた様子ではあるが敵対的な雰囲気はなかったのでコギトも握手に応じた。
「さて……ハラ君、コギト君。君らは今から報告に道を戻らなくてはならないんだろう?私が街の近くにまで送ってあげよう」
「ありがとうございますグニドさん」
「ありがとうございます」
「いやいや、僕たちが邪魔している方だからね。これぐらいはやらないと。じゃあハヴェル、君の車に乗せてやってくれ」
「分かりました社長」
「それとそこの犬は持って帰ったほうがいいかい?」
「あっすいません。そちらもお願いします」
「はは、犬は荒野のご馳走だからね。僕も若いときはよく食べていたよ」
そうして野犬の味について楽しそうに話すハラと行商人たちを見ながらコギトは街の外で暮らす人たちにとって野獣を食べることは一般的なんだと再認識した。
『犬肉ねぇ……俺は食ったことないなぁ』
『むしろ私達の時代じゃちゃんとした生物の肉を食べれた人の方が珍しいのではないかしら?』
『た、確かに私も考えてみたら培養肉しか食べたことないですね……』
『あ、良かった俺だけがあの会話に入れないのかと思いました』
『安心していいわコギト君、私達も犬肉の味は分からない派閥だしちょっと遠慮したい派でもあるから』
コギトもvoidたちと同じ感情を共有でき自分だけぎ取り残されることを回避した。
そうしてハラとコギト達はしばらく話したあとにハヴェルの車に乗り込んだ。
「それじゃあ出発するぞ」
「はい」
「分かりました」
コギトはハヴェルの車に取り付けられた椅子に腰掛けた。
その後グニドの乗った車を先頭にして一団は進んでいく。
コギトが車の中を眺めているとコギトの反対側に座っていた少年がコギトに向かって話しかけてくる。
「なぁ!アンタも街の警備してるんだろ?」
「そ、そうですね」
「俺とあんまり変わらないような歳なのにすげーな!しかも新入りだろ?」
突然話しかけられたことにコギトは少し驚きながらも答える。
コギトがどう答えるべきか少し困っているとハラが助け船を出してくれた。
「コギト君。彼はマーズって言うんだ」
「おう!マーズだ!よろしくなコギト!」
「よろしくお願いします」
「ははっ、元気が良いなぁ坊主ども」
ハヴェルがそう言って笑う。
マーズはニコニコと笑顔のままコギトに質問を続ける。
「コギトは銃で何か倒したりしたのか?」
「ま、まぁちょっとだけ……」
「さっき野犬を積み込んだろう、アレはコギト君が撃った犬なんだよ」
「へぇー凄いなぁ!アレ頭に一発だったろ?」
「い、いえそんな、あれも凄い近くでやっとって感じでしたし」
『少し嬉しそうじゃねぇか』
『やっ、辞めてくださいよ!』
voidがコギトをからかう。
それに少し気恥ずかしい気持ちになりながらも反論する。
「いやーカッコいいよなぁ、それも誰かを守るためなんて憧れちゃうよ」
「お?どうしたマーズ?商人はつまらないってか?」
「そ、そんなことはないですよハヴェルさん!ただカッコいいって言っただけですってば!」
「はははっ」
揶揄うハヴェルに必死になって答えるマーズを見てコギトとハラが笑った。
そうしてしばらく話しているともう街にたどり着いたようで車が止まる。
「さて、行ってきなよ二人とも。俺らは準備が出来るまでテキトーに待っとくからさ」
「あとでまた話そうな!ハラ!コギト!」
「また後でね」
「分かりました」
そうして止まった一団を抜けて二人は街に入っていった。




