12話
「今日も最後に食べるんですか?」
「はい、コギトさんの怪我もそろそろ治った頃だと思いますし診てから食べようかと」
「そうなんですね」
コギトがこの街に来てから1週間ほど経った。
ラスルは毎日コギトたちがいなくなってからモナカと食事をしているようでコギトたちが食べている間は配膳をしたり小さな子供たちの世話をしている。
今日はコギトの怪我を診てから食事をするようだ。
一度もラスルの素顔を見ていない理由をラスルの鬼面を見ながらコギトは考える。
(顔に傷でもあるのだろうか?)
結局のところどうなのかは分からないがそれなら女性のラスルが顔を隠すのも当然だろうとコギトは思った。
ラスルが丁寧な手付きで固定器具と包帯を外していく。
「おっ、いい感じに治ってそうやん」
ラスルの分の食事を持って来たモナカがコギトの肩を見ながらそういった。
穴が空いていた肩はしっかりと埋まったように見える。
「そうですね……炎症もなさそうだしいい感じに治って来ていそうです。コギトさん、腕は動かせますか?」
そう言われたコギトは腕を恐る恐る動かしてみる。
どことなくぎごちなさは残るがまた動くようになっていた腕にコギトは驚いた。
「凄い……」
「さっすがラスルちゃんやなー」
「そんな……」
そう言って仮面の奥で照れるラスル。
コギトは照れているラスルとそれを微笑ましく見つめているモナカに向かってお礼を言うことにした。
「ありがとうございますラスルさん、モナカさん。何から何まで色々とやっていただいて」
「そんな……顔をあげてくださいコギトさん、私達はやりたいことをやっているだけですから」
「そうやでーコギト君。それにウチは何もしとらんからな」
気にすることはないと言う二人。
だがもう一度お礼を言おうとしたコギトをモナカが止めた。
「あぁそういえばコギト君、怪我。だいぶ良くなってきたみたいやけどこれからどうするん?」
「これから……ですか」
コギトはこの質問に対しての返答をどうするかをvoid達と話し合ってだいたい決めていた。
だがそれをモナカたちが許してくれるかどうかは未知数だった。
「あの、厚かましいお願いだとは分かっているんですが僕を暫くの間ここにいさせてもらえませんか?出来ることならなんでもやるので!」
「そうか……分かった!」
そう言ったモナカは何処か安心したような顔になる。
「いやぁ……怪我が治ったからこのまま都市を奪還する!とか言われたらぁウチどうしようかと内心恐怖やったで……」
「その時は私とモナカさんで力づくでも止めようという話になっていたんですが……良かったですねモナカさん」
「ホント安心したわぁ……」
「無謀ですよ……流石に分かってます」
そんなコギトは身勝手ながらも自分がここにいても良いと言われたことで感じていた不安が少し晴れた気がした。
その時モナカが緩んでいた顔を引き締める。
「でも、いつかは取り返しに行くんやろ?」
「……」
『流石にバレてたな』
いつの間にか隣にいたvoid1が笑った。
「まぁ……やろうな、反企業派が自分たちの都市で生まれた子供達に企業が何をしたか教えてないわけないし、それがなくとも君は実例を見た上に周りの人間を虐殺された」
モナカは息を吐いてコギトに憐れみの目を向ける。
「君ら人間は争わなアカンのやね」
「……」
「ま、ウチはあんたら反企業派の考えに賛同しとるほうやから、環境は準備したる。ラスル、ハラを呼んできぃ」
「分かりました」
モナカがラスルにハラを呼んでくるように言うとラスルはそれに従って食堂を出て行った。
コギトの頬に汗が伝う。
コギトはラスルが出ていった時から目の前のモナカから重圧を感じるようになっていた。
「さてコギト。その前に聞きたいことがある。君の夢の終着点はどこや?“どこまで”を目指しとる?」
「あっ……」
コギトはモナカの問いに答えようとしたが声が出ない。
喉を締め付けられるような圧迫感から逃げるために目を反らした時いつの間にか隣にvoidたちがいた。
『コギト、落ち着け』
『貴方の隣には私達がいる』
『わ、私達は貴方との契約を遂行します……だから頑張って!』
void達の言葉を受けてコギトは自分が呼吸を忘れていることに気づいた。
一度大きく息を吸ってからモナカに答える。
「俺は……」
「……」
「俺は企業連を倒します」
「うん。それで?」
「それ……で?」
息巻いたコギトは自分の答えに対して疑問を示されたことで固まってしまう。
「それは君のゴールちゃうやろ?反企業派が掲げとるスローガンみたいなもんで、いわば過程や」
「か……過程?」
「そう、過程や。大事なのはその後やな」
「そ、その後……それは……みんなが企業に囚われずに……自由で……」
コギトはまたvoid達に目線を向けたがvoid達は笑顔をコギトに向けるのみで何も答えてはくれなかった。
「そう。そこから発展せい。未来を思い描けん奴に今努力させてもしゃーない。君の答えはどこにあるんや?夢、理想、願望、なんでもええ。君のゴールを描くんや」
「俺の……ゴール」
コギトの頭の中には様々な光景が浮かんでいた。
爆撃される街、笑いながら人を撃ち殺す軍人。
スラムの子供とこの街の子供たち。
そして銃を持った自分と頭を撃たれ崩れ落ちる軍人の男。
そしてそれに顔色一つ変えない自分の姿を。
「ッ……」
「さて、ちょっとは整理がついたようやな」
「何となくは……」
「ええで、今の君の正直な気持ちを伝えてくれたらそれでええ」
コギトはモナカに目線を合わせる。
「俺の答えは……」




