11話
「しばらくはここで生活することになるだろうしここの建物を案内するよ」
「分かりました」
ハラとコギトの二人は居住区の中を歩いて様々なところを見て回ることにした。
「さっきのところは医務室。ここが食堂で向こうは掘削とかやってたりするね」
「掘削……何を掘っているんですか?」
「パイプラインを通すための掘削だね。都市と違って内部で完結してるわけじゃないからさ。色々と引っ張ってきてるんだよ」
子どもたちが生活している寮や畑など二人は色々と街を見て回った。
小さな街だがここに住んでいる子供たちはスラムの子供たちと比較してかなり良い生活をしていることがわかる程度には血色が良く、あの目をそらしたくなるほどにやせ細った子供が走り回るスラムとは真反対の印象を受けるこの場所を好意的な目で眺める。
それほどまでにコギトにとってスラムはショックな光景だったのだ。
大人の数はあまりいないがそれでもみんな頑張って生きていることがわかるその街をコギトは少し気に入ってきていた。
そんなコギトに嬉しそうな顔でハラが言う。
「ここの生活は全部モナカさんが作ってくれたんだ。企業に勤めていれば一生安泰だったのにそれを辞めて行商人をしながらスラムにいた僕らを養って……あの人には一生かかっても返しきれないぐらいに恩があるんだ」
(彼女……企業勤めだったのか)
コギトはモナカが企業勤めだったとは思ってもいなかった。
街で見た企業勤めの人間はそれなりに良い生活をしているように見えたしそれを捨てるような人間はなかなかいないのではないかとコギトは思っている。
そんな彼女が反企業派に傾く理由はなんだろうとコギトは思いそこで目の前の光景を見てその後に街のスラムを思い出した。
(彼女は変えたかったのかもしれないな……子どもたちが幸せに生きれるように)
全てを救うことは出来なくとも自分の手が届く範囲のものは救いたい。
スラムの子供たちの暗い目とこの小さな街の子供たちの明日に希望を持った目を比べコギトはそうなんじゃないかと思った。
おそらくそう解離しているわけではないだろう。
「あっそうだコギト君、とりあえず君が今日寝るはずの部屋も紹介しておくね」
「治療も部屋も……ありがとうございます」
「お礼なんて良いよコギト君、僕もモナカさんも助けたくて助けてるんだから」
そうしてコギトは客室へと案内された。
「偶にお客さんが訪ねて来るときもあるんだ。その時に使う部屋なんだけど今はコギト君以外に誰もいないから好きに使ってね。シャワーとトイレはそこだから。それじゃあご飯が出来たら呼びに来るからそれまでゆっくりしててね」
「分かりました」
ハラはそう言うと部屋を出ていった。
「ふぅ……」
コギトはベットに横たわろうとして自分の体が血や砂埃で汚れていることを思い出し姿勢を直した。
「シャワーでも借りるか……」
『そういうことならvoid2と3は席を立ってもらおうか?』
「いや、貴方も入ってきてほしくないんですけど……」
『気にすることはないだろう』
「疲れてるんでゆっくりさせてください……」
voidたちがいるとはいえ久しぶりに部屋で一人になったことでコギトは疲れを思い出していた。
替えの服とタオルはどうしようかと悩んでいるとハラがタオルと服を抱えて戻ってきた。
「いやーごめんねコギト君。戻ったらモナカさんに『服とか汚れてたけん風呂入るんやない?』って言われて……これが今日の着替だから。あとラスルは傷口を擦らなければシャワー入っても良いって」
「何から何まで……ありがたく使わせていただきます」
「気にせんでええよー」
何故かモナカの真似をしながらハラは戻っていった。
服を受け取ったコギトはすぐさま服を脱いでシャワー室に入る。
そしてシャワーを浴びながら今日のことを思い出していた。
(今日は色々あったな……)
コギトにとっては殆ど初めてと言っていいことが沢山起こった。
爆撃で負傷した人々。
それを笑いながら犯し、殺す軍人。
コギト自身も二人を殺し、そして死にそうになった。
コギトは自らの手が震えていることに気がつく。
(そうか、僕は人を殺したのか……)
おそらく今まであったことのない衝撃でどこか麻痺していたのだろう。
周りの人々が沢山死んで、コギト自身も人を殺して。
人を殺したということをコギトは今まで意識していなかった。
コギトはそれが少し怖くなる。
(いつか僕もあぁなってしまうのだろうか?)
コギトの脳内に浮かぶのは笑いながら女を犯し、スラムに銃弾を撃ち込む企業の軍人達だった。
それと先程まで人を殺したことを忘れていた自分との差はなんだろうと考えそうになり思考を辞めた。
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「ふぅ……」
シャワーを浴び少し休んだあとにハラが夕食ができたと言って呼びに戻ってきた。
コギトはあまり食欲が無かったのだが一度手を付けてみると意外にも体は食べ物を欲していたようでその食べっぷりにモナカとvoid達に笑われ、ラスルにはあまり急に食べると胃に負担がと心配された。
食事が終わったあとはモナカに呼ばれ「そんな自棄にならんでええ。でももし辛くなったら何時でもウチを頼ってくれていいからな」と真剣な眼差しで言われた。
コギトは自分は周りに悟られるほど思い詰めた顔をしていたのだろうかと心配になり「分かりました」と言って足早に部屋へと戻ってきたところだった。
『コギト、お前の体は想像以上に疲労している。食べてすぐに寝るのはあまり推奨したくないが今日は体を休めたほうが良い』
『ここは安全性が高いし何かあったら私たちがすぐに起こしてあげるわ』
「分かりました」
部屋に戻ってきてすぐにvoid達に休むよう進められる。
コギトも同意見だったので食後にラスルに渡された抗生物質を飲んでベットに横たわる。
やはり疲れていたようでコギトの意識はすぐに闇の中にの沈んでいった。
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『……void2、コギトの様子はどうだ?』
『もう眠ったみたいよ、無理もないわね』
『そうか、なら良い。では今回の反省点のすり合わせを行う』
『わかったわ』
『分かりました……』
コギトの意識がなくなったあともvoid達は会話を行っていた。
『まず今回コギトが撃たれた件についてだが……データによれば麻痺毒を打った人間がまだ動けたことが原因か……見落しがあった可能性やアレの介入の可能性は?』
『一応今も解析を続けているけど……正直汎用性バグドローンの探知じゃあの状況でコギト君を撃てるような人間がいたような記録は出てないし、アレの介入があったのかもなぜ動けたのかもさっぱりね』
『まぁ俺もあの解析結果は探知用のバグドローンがいないにしては上出来だと思うが……同じようなミスは犯してほしくはないな』
『分かっているわ。だから今回は総勢80以上のバグドローンをコギト君の周りに配置してあるわ』
『よろしい』
そうしてvoid1はvoid2の方からvoid3の方へ向き直す。
『ではvoid3、コギトの肩の怪我はどうだ?』
『わ、私もあのラスルって子と同意見です。このまま治れば違和感無く動かせるようになるかと……』
『分かった。では腕が治ったとして訓練にかかる期間はどれぐらいだ?』
『おそらく2年、装備も整えるなら3年はかかるかと……』
『3年か……まぁあれをそれなりに持っていくのが2年だとすると上出来か……』
void3が少し疑問を持ったような顔でvoid1に尋ねる。
『あの……どうして彼にこだわったのですか?か、彼以外にも適合者はいました。その中には戦闘力が高い者も……そもそもあの場で適合者を決める必要もなく……』
『……』
そう言われたvoid1はvoid3から顔を背けたまま押し黙る。
そこでvoid2が口を開いた。
『void3ちゃんは知らないかもだけど__』
『やめろ』
『やめないわ、だいたい貴方何よ。感情を揺さぶられ過ぎ、コギト君にも、スラムにもこの場所にも。ラスルちゃんの時なんて怒りを隠すのに必死だったでしょう?主機の貴方が感情を昂らせると私達も引っ張られるし演算にも支障が出るのよ』
『そういうお前もいくつか抜けてる会話ログがあるが?』
『やっ……やめましょうよ二人とも……』
void3が宥めたことで二人は少し落ち着きを取り戻す。
『簡単に言うとね、void3ちゃん。コギト君を選んだのはvoid1の完全な私情よ』
『あっ……そうなんですね……』
void3はvoid1がまたいつ怒り出すかと怯えながら答える。
だがvoid1はもう諦めたようだった。
『ふぅ……次の話に移るぞ。次はモナカと言う女についてだ。みんなの解析結果を教えてくれ』
『探知の結果今彼女は書類仕事をしているわ。コギト君が増えた分の物資の減り方を概算しているようね。今までもおかしな行動はないわ』
『ふむ、void3は?』
『わ、私もコギト君に対する悪意はないと思います。でも伝えていないことも……』
『それは仕方ないことね、彼女たちの問題ではなくコギト君の問題だもの、コギト君がどんな人間か分からないうちにそれを伝えてもどちらも不幸になるだけよ』
『俺も同意見だな。今までのコギトの様子を見るにおそらく大丈夫ではないかと思うが……まぁモナカがコギトの脅威にならなければ問題はない。では今回の会議を終わらせる。この後は各自自分の担当を努めよ。それでは』
そうしてvoid1は会議を締めくくった。
void1とvoid3の姿がかき消える。
だがvoid2だけがその場に残った。
『void1は変わらないわね……いつまで経っても』
そう言ってコギトに近づいていく。
その顔は昔を懐かしむようだ。
『貴方は立ち止まらないでね』
そうしてvoid2の姿もかき消えた。




