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第2話:スペクターの鑑定

老人は、絶対的な権威のオーラを放ちながら、俺たちを見下ろし微笑んでいた。だが、その目は一切笑っていない。


「私はボルジア」老人の声は、熟練された役者のように朗々と響いた。「エリュシア神聖法王庁、第50代法皇にして、女神アルテアの僕。あなた方が今ここにいるのは、呼ばれたからに他ならない。この世界ヴェリディアを、巨大な闇から救うために」


ボルジアは杖を掲げた。先端の宝石が、穏やかな光を脈打たせる。


「聖なる教典によれば、異世界より召喚されし者のうち、齢二十五に満たぬ者には、女神の祝福――あなた方の言葉で言う『超能力』が与えられる。これより聖なる鑑定を行い、あなた方に授けられた力を見せてもらうとしよう」


――二十五歳未満。


その言葉は、物理的な衝撃となって俺を襲った。ちらりと部下たちを見る。俺は32。ハンゾウは30、シバタは26。条件を満たすのは、24のタクミだけだ。これは、罠か。


俺はシバタにだけ聞こえるよう、ごく僅かに身をかがめて囁いた。

「パラディン四人。フルプレートだ。サイドアームでやれるか?」


シバタの目が、獲物を定めるように細められる。

「奴らの首はがら空きだ。三秒あれば十分だ」


「いえ、駄目です」

冷静な第三者の声が、二人の間に割って入った。タクミだ。奴の目は、内蔵されたヘッドアップディスプレイの微かな光で輝いている。「構造解析によれば、鎧の装甲は三センチ厚の鋼鉄複合材。その下には緻密な鎖帷子(チェインメイル)。我々の9mm弾では貫通は望めません。シバタ、あなたのナイフでも鎖帷子は突破できないでしょう。戦術的に見て、無謀な交戦です。今は従い、情報を収集するべきかと」


タクミのロジックは、いつものことながら完璧だった。ここで事を構えるのは愚策だ。実行可能な作戦を立てるには、まず情報が必要だった。


俺は小さく頷くと、一歩前に出た。法皇と他のメンバーたちの間に、俺は立つ。

「協力しよう」俺の声は、硬かった。「だが、ここにいる者たち――特に、子供らには危害を加えないと約束しろ」


法皇ボルジアは、侮るようにフッと笑った。「無論だ。これは祝福を与える聖なる儀式。尋問ではない。では、一人ずつ前に出て、名と年齢を述べよ」


俺が最初だった。杖の先端が、俺の胸に向けられる。だが、宝石は暗いままだ。

「レイ。32歳」

ボルジアは、目の前に現れた透明なパネルに視線を落とした。「教典の通りか。歳を取りすぎている。女神の祝福はないな。クラス……『ファイター』?ただの戦士か。次だ」


シバタが、敵意を隠しもせずに前に進み出る。杖は、やはり反応しない。

「シバタ。26歳」

「これも歳を取りすぎだ」法皇は、失望を隠そうともせず、手を振った。「祝福なし。クラス……また『ファイター』か。ただの乱暴者だな。次」


ハンゾウが、作り物の笑みを浮かべて、ひょうひょうと前に出た。

「ハンゾウ。30歳」

「また空っぽの器か。祝福なし」ボルジアはため息をついた。「クラス……『バード』?なんだそれは。旅芸人か?全くもって、くだらんな。次」

俺には分かっていた。ハンゾウの読心術は、女神とやらからのギフトではない。奴が生まれつき持っていた力だ。こんな原始的な魔法で検知できるはずもなかった。


最後に、唯一条件を満たすタクミの番だ。

「タクミ。24歳」

タクミが年齢を告げた瞬間、杖の宝石がようやく瞬いた。だが、俺が想像していたような眩い光ではない。まるでコンピューターのスクリーンのような、奇妙で、淡い光が灯っただけだった。ボルジアは、その魔法のディスプレイを、眉をひそめて覗き込んでいる。


「スキルはあるようだが……」老人は、困惑したように呟いた。「スキル名……【オンラインストア】?クラスは……『アーティフィサー』?」

ボルジアは顔を上げ、心底不可解だという表情を浮かべた。「職人の一種か?その『ストア』とやらを、今すぐ見せてみろ」


常に言葉通りのタクミは、ただ手を差し出した。ポン、という軽い音と共に、その手に現れたのは、一袋のポテトチップスだった。彼は、その一枚を法皇に差し出した。


法皇は、そのポテトチップスを、まるで毒虫でも見るかのような目で睨みつけた。彼の瞳に宿っていた微かな希望の光は完全に消え去り、深く、疲れたような失望に変わった。


彼は侮辱するように、大げさに肩をすくめた。


「ただの兵士が三人に、異国の菓子売りが一人か」ボルジアは、吐き捨てるように言った。その声は、軽蔑に満ちている。「全くもって、役立たずだ」


そして、彼の視線は俺たちを通り越し、背後で怯える四人の高校生たちに向けられた。その目に、計算高い、邪悪な光が戻ってくる。今度は、必死で、新たな希望に満ちた光が。


「だが……あるいは、まだ全てが失われたわけではないのかもしれんな」彼は、自分に言い聞かせるように囁いた。その笑みが、再び大きく広がる。


「さて」ボルジアの声が、再び権威を取り戻して響き渡った。「女神が、我らが真の英雄候補に、どれほど寛大であったか、見せてもらおうか」

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