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第百話 瑠璃色の髪を揺らして

 その森は深く、道しるべはおろか獣道さえ見当たらない。一歩足を踏み入れれば最後、迷うことは確実だ。

 そのはずだが、最悪の事態だけは免れる。あてもなく歩こうと、気づけば森の外へたどり着けてしまう。

 腐葉土の匂いが満ちるここは、迷いの森。ミファレト荒野の南西に位置しており、火傷のような火災が痛ましいも、全体で見れば微々たる被害だ。

 傭兵ですら立ち寄らない僻地ながらも、実は無人ではない。

 この地の奥には、魔女達の集落が存在している。実態としてはその多くが魔眼を宿していないのだが、起源が魔女であることは変わりない。


「俺の勝ちじゃ! ガハハ!」


 半裸の巨体が勝どきを上げる。茶色いショートパンツしか履いていないが、露出狂というわけではない。

 その肉体は、全身くまなく筋肉の塊だ。天を衝く右腕だけでなく、左腕や両脚さえも丸太のように太い。

 男の名前はモーフィス。れっきとした老人であり、毛根は半数以上が死に絶えている。白髪や顔の皺からは老いを感じさせるも、全身を眺めればそのような感想は払拭されてしまう。

 彼の足元には、女性が一人倒れている。

 ここは集落の最奥にある鍛錬場だ。ただの空き地ながらも、連日のように地面が汗を吸っていることは間違いない。

 突発的な模擬戦は、モーフィスの勝利だ。敗者は眠るように横たわっており、ピクリとも動かない。

 その一部始終を眺めていた二人組。野次馬は彼らだけではないのだが、この二人はとりわけ目立つ。


「さすがモーフィスさん。次はアゲハさんでしたっけ?」


 少年は右足に重心を傾けながら、左隣へ視線を移す。

 隣には黒髪の女性が並んでおり、蠱惑的な色香はもはや暴力だ。

 グレーの衣服はリネンチュニック。本来はゆったりとした衣服ながらも、腰のベルトと大き過ぎる胸が原因で体のラインが強調されている。

 黒い長ズボンもピチピチに膨れており、健康的な肉付きだ。

 坂口あげは。この世界に転生を果たした日本人女性。隣の少年よりも年上ながらも、お姉さんらしさは影を潜める。


「うん。準備、始めようかな……」


 彼女の髪は背中まで届く。

 ただ長いだけでなく、綺麗な濡れ羽色だ。

 一方で、毛先だけが光るように青い。毛染めの類ではなく、転生時にこうなった。

 その青色が、黒髪を侵食するように広がる。

 ワスレナグサ。アゲハが使える天技であり、変化は髪の変色に留まらない。

 彼女の闘気がグンと高まる。身体能力の向上こそが本命であり、黒髪が先端側から半分だけ青くなる現象は、副産物に他ならない。

 やる気については不確かながらも、アゲハの用意は整った。

 その姿を眺めながら、少年が白い歯を見せる。


「応援してます。昨日はラッキーパンチさえもらわなければ勝てたかもですし、今日こそはいけますよ」

「き、気合、入れないと……」


 声援を力に変えて、アゲハが一歩を踏み出す。

 モーフィスは一戦交えた直後ながらも、鼻息荒く元気だ。警戒班の班長は強敵のはずだが、子供のようにあしらって今に至る。

 敗者の姿は見当たらない。彼女は既に運ばれており、部下によって介抱されている。

 間髪入れずの二回戦だ。

 シャリ、シャリ。

 挑戦者が地面を踏みしめる。二色の長髪を揺らしながら、アゲハは決して振り返らない。

 その後ろ姿を見つめながら、少年はしみじみと思いをはせる。


(今のアゲハさんならあるいは……。僕が言うのもあれだけど、モーフィスさんはめちゃくちゃ強い。大変だと思うけど、がんばって)


 エウィン・ナービス。十八歳の傭兵だ。

 実態としては浮浪者なのだが、アゲハと出会って以降は羽振りが良い。

 もっとも、二人分の宿代を払えるほどではないため、城下町に戻れば廃墟暮らしは変わらない。

 長袖のカーディガンは髪とお揃いの緑色。黒いズボンはあちこちが破れており、ダメージ加工ではなく戦闘の傷跡だ。

 エウィンとアゲハ。この二人は本来ならば部外者でしかない。

 ここは秘匿された集落であり、招かれない限りはたどり着けない場所だ。

 それでも今は、里長の客人としてこの地に居ついている。一時的な滞在ながらも、かれこれ五か月は過ぎ去った。

 その甲斐あって、二人の成長は著しい。

 強い弱いは相対評価ゆえ、ものさしが必要だ。その役目をモーフィスが担っている。この老人は里長に次ぐ実力者であり、エウィンがこの地に初めて訪れた際は、手加減なしには食らいつくことさえままならなかった。

 しかし、今は違う。

 リードアクターという切り札無しに勝ててしまう。

 この成長は、長期的なスパンならばあり得た。十年、二十年、あるいはそれ以上か。

 そのような常識は、エウィンに適用されない。

 この少年は半年もかからずにモーフィスを越えてみせた。

 非常識な成長だ。

 何が功を成したのか、本人さえもわかっていない。

 それでもこの力に偽りはなく、驕ることなくトレーニングに励んでいる。

 午前の鍛錬もその一環だ。今はアゲハを応援する観客かもしれないが、これをさぼりだと指摘する者はここにいない。

 本日の空模様は、雲がかすかに浮かぶ晴天。

 朝陽が全力で降り注ぐ中、アゲハとモーフィスが向かい合う。


「よろしく、お願い、します」

「おう! かかってこい」


 何十回と繰り返したやり取りだ。もはやルールの確認すら必要ない。

 壁の様に立ちはだかるモーフィスは、満面の笑顔で仁王立ちだ。宣言通り、先手を譲るつもりでいる。

 対するアゲハだが、怯まないばかりかボクシングのように構える。脇を締め、右足をわずかに下げた理由は、この姿勢が馴染むから。

 審判の類がいないため、ゴングも無しに試合は開始される。

 二色の髪を躍らせながら、距離を詰めると同時に細かな打撃。その全てが巨大な手のひらに止められるも、アゲハはやはり臆さない。

 小技が通用しないなら、威力を高めるまで。そう主張するように、彼女は半歩下がる。

 腰を捻れば、準備は完了。緩めていた右手で握り拳を作りながら、モーフィスの腹筋目掛け右腕を突き出す。

 シンプルながらも強烈な一撃だ。

 同時に、その狙いは非常にわかりやすい。

 この老兵ならば防ぐことも出来たのだろう。

 それでも、真正面から食らった理由は、アゲハの成長を見極めるためか。

 空気が震えるほどの轟音は、拳と腹筋が激突した衝撃によってもたらされた。

 その結果、鍛錬場が静まるも、モーフィスの声が静寂が破る。


「ぐぅ、ドシンと響いたのう。力まんと意識が飛びそうじゃ」


 この老人は倒れない。

 腹部の鈍痛は致命傷には至らず、口角を釣り上げられる程度には元気だ。

 モーフィスは二メートルを上回る巨体ゆえ、アゲハは見上げるしかない。

 ここまでは挨拶代わりの小手調べだ。

 そうだとわかっているのか、二人は一歩も引かずに殴り合う。

 激しい応酬は、傍から見たら五分五分だ。

 拳を避け、自身の打撃を当てる。

 リズムをずらし、相手の虚を突いて殴り返す。

 互いの手の内はわかっているため、創意工夫は最低限だ。

 殺し合いではなく鍛錬も兼ねた闘争だからか、彼らの姿は美しい。

 その結果、観客全員が魅了される。

 唯一の例外は、エウィンくらいか。偉そうに腕を組むも、心境は複雑だ。


(パワーはモーフィスさんが上だけど、スピードはアゲハさん。だから勝てそうなんだけど、今日も無理っぽいか。出会った頃と比べれば十分戦えてるけど、アゲハさんにこういうのを強いるのはやっぱり酷なんだろうな。そういう世界じゃ、なかったみたいだし……)


 地球。その惑星には魔物のような化け物はいない。野生動物は人間の活動域から排除されており、誰もが平和な日常生活を送れた。

 アゲハはただの日本人だ。極度に人見知りな上、大学中退後は引きこもる。

 だからこそ、戦えるはずがない。

 この世界への転生は、神の偽善そのものだ。

 それでも生き残れた理由は、エウィンと出会えたから。

 その恩義に報いるためにも。

 隣に並び続けるためにも。

 強くなりたかった。

 そのための手段が、魔物の討伐だ。数えきれないほどの草原ウサギを屠り、その後も各地を転々としながら狩りに励んだ。

 その結果、彼女の身体能力は地球人のそれを大きく上回る。もしも日本に戻れた際は、スポーツの分野で花開くだろう。

 そうであろうと、モーフィスには苦戦を強いられる。

 彼女がこの老人に勝てない理由。

 エウィンはそれを理解している。


(パンチ、パンチ、お、すごい連打。でも、モーフィスさんは倒せない、と。そりゃそうか、見え見えだもん。悪くはないと思うけど、アゲハさんは戦い方が上品過ぎる。やっぱり……)


 この分析はほぼほぼ正解だ。

 アゲハの戦闘スタイルはボクサーに近い。拳しか使わず、頭突きはおろか蹴りさえ控える。

 その理由は、彼女がただの日本人だからだ。格闘技の経験がない以上、どうしてもこうなってしまう。

 ゆえに、エウィンはアドバイスを兼ねた声援を送る。


「アゲハさーん! その太い脚で、おもいっきり蹴りまグハッ!」

「え⁉ キャッ!」


 大惨事だ。

 エウィンが杭のように地面へ埋まった理由は、背後から頭頂部を殴られたから。

 アゲハが地面に伏した理由は、足払いで尻餅をついたから。

 こうなってしまっては、模擬戦どころではない。

 この状況が、周囲の観客を驚かせる。

 モーフィスは冷静に呆れており、ため息を我慢出来ない。

 エウィンは首まで地面に埋まったままながらも、かろうじて頭だけを動かす。


「げ、ハクアさん……」


 背後には見知った女性が立っていた。

 その髪は誰よりも長く、血の様に赤い。

 真っ黒なブラウスとベージュのズボンを着こなしつつも、その上に白衣をまとっている。

 その風貌は、怒る寸前の医者だ。両手を腰に添えており、表情は穏やかではない。

 彼女の名前はハクア。その瞳は、黒目部分の内側に赤い線で円が描かれている。

 これこそが魔眼だ。

 そして、これを宿す女性が魔女と定義されている。


「あんたねー、何度言ったらわかるの? 女の子に向かって、脚が太いとか言わないの」

「え、でも、僕としては褒めてて……」


 まるで大根のように埋没しながらも、エウィンは本心を述べている。

 言い訳のような反論に対し、ハクアは仁王立ちを崩さない。


「世の女の子は細いって言われたいの。太いは誉め言葉にならないって学びなさい」

「り、理不尽過ぎる……。ムッチリしてる方が健康的で素敵じゃないですか」

「だーかーらー、あんたがどう思うかは勝手だけど、本人にはそういうこと言わないの。ほら、見てみなさい。あの子、恥ずかしさのあまり地面を掘り始めたわよ」

「あ、ほんとだ。それでもまぁ、僕の方が埋まってますけどね」


 ハクアの登場によって、この場は一旦収まる。

 モーフィスとの模擬戦はこれにておしまいだ。ここからはこの老人が適宜指導する形で、鍛錬が再開される。

 アゲハは残念ながら今日も敗北だ。

 エウィンは体中が土まみれながらも、慰めるように声をかける。


「結果はさておき、内容は悪くなかったと思いますよ」


 しかし、この発言についても年長者は気に入らない。


「あんたが変なこと言ったからでしょう」

「う、褒めたのに……」


 吐き捨てるハクアに対し、エウィンは萎縮するしかない。

 誉め言葉であろうと、アゲハを驚かせたのは事実だ。

 その結果、彼女に土がついた以上、この少年に非がある。

 うじうじと反論するエウィンに対し、ハクアは呆れながらも説教を止めない。

 この光景はもはや風物詩だ。鍛錬に打ち込む若者達も、気にも留めずに汗を流す。

 しかし、和やかな雰囲気はここまでだ。

 見慣れぬ二人組の登場に、里の空気が凍り付く。

 長身の女と、小さな女の子。

 姉妹か。

 親子か。

 判断に迷う程度には、年齢も身長もかけ離れている。

 よそ者でありながら堂々と歩く姿は、まるでこの地を知っているようだ。


「やっほー、連れて来たよー」


 長身の女が、能天気に右手を振っている。

 茶色い髪は、小顔に見せるようなミディアムボブ。

 衣服の上に胸部アーマーを装備しており、背中には大剣と巨大なリュックサックを背負っている。

 オレンジ色のロングスカートに切れ目が入っている理由は、動きやすさを重視した結果だ。

 その風貌は傭兵そのものながらも、隣の少女がノイズになっている。

 迷いの森を抜け、ここまで入り込めたことからも、この二人はれっきとした客人だ。

 そうであると主張するように、長身の女は魔眼を宿している。

 彼女の名前を知っているからこそ、ハクアは驚きもしなければ慌てもしない。


「いらっしゃい。二人共、待ってたわよ」


 彼女の名前はエルディア・リンゼー。傭兵であり、武器屋の娘であり、そして魔女。

 この地を訪れた理由は、隣の少女を連れてくるためだ。

 つまりは案内人であり、その役目は滞りなく果たされた。


「お土産いっぱい持ってきたよー。誰に渡せばいい?」


 エルディアの言う通り、背負い鞄はパンパンだ。人間一人が収まるくらいには大容量ながらも、彼女自身は汗一つかいていない。

 このタイミングで、二人の手が離される。

 瑠璃色の髪を揺らしながら、トコトコと駆ける女の子。その髪型は両サイドで結ばれたツインテールゆえ、体の振動に呼応してせわしなく暴れている。


「こにちは!」


 元気いっぱいの挨拶だ。

 大きな瞳はハクアを見上げており、久方ぶりの再会を喜んでいるのか、頬が赤く染まっている。

 上品なワンピースと、可愛らしいリュックサック。どちらも平民には買えない高級品であり、彼女の素性がうかがい知れる。

 もちろん、ハクアは何もかも把握済みだ。

 母親が子供に向ける表情で、少女を迎え入れる。


「こんにちは。久しぶりね、お勉強は終わったの?」

「おわった! えほん、よめるようになった!」


 ふわふわなツインテールを上下させながら、少女が笑う。

 この時点で鍛錬場は警戒心を解いており、なぜならこの客人達を思い出した。

 モーフィスは横目でハクア達を観察しつつも、後進の育成に励む。

 一方で、エウィンとアゲハは棒立ちだ。二人の来訪については事前に聞かされていたが、それでも今は説明を求めたい。


「エルディアさーん……」

「ん? おひさー。元気そうじゃん、良かった良かった」


 エウィンとエルディアは顔見知りだ。ジレット監視哨での一件で知り合い、その後も一時的に行動を共にした。

 アゲハが打ち解けている数少ない一人ながらも、久方ぶりの再会ゆえ、エウィンは矢継ぎ早に問いかける。


「もしかしてあの子が……」

「そだよー、パオラちゃん。あ、二人は初めてか」


 パオラ・エヴィ。十二歳の少女ながらも、秘めたる才能は規格外だ。

 ここまではエウィンもハクアから聞かされている。

 しかし、納得出来るかどうかは別問題だ。


「確か、十二歳でしたっけ?」

「お、正解」


 なぞなぞの出題者のように、エルディアだけが笑みをこぼす。

 一方で、エウィンの表情は硬いままだ。


「十二歳……、本当に? 僕には、七歳とか八歳、ううん、もっと小さいように見えますけど……」


 この指摘は鋭い。

 パオラの身長は低く、少なくとも十歳よりも幼く見えてしまう。

 背の伸びに個人差があることは当然ながら、それでもやはり小さすぎる。


「あー、パオラちゃんは色々あってねー。そこらへんは、ハクアさんが追々教えてくれると思うよー。私から話してもいいんだけど、でしゃばるのもアレだしねー」


 エルディアでさえ、言葉を濁す。

 アゲハはこのタイミングである程度察しており、だからこそいつものように無言を通す。

 そういう意味では、エウィンだけが除け者だ。納得しつつも、次の質問を投げかける。


「あの子って、どのくらい強いんですか?」

「どのくらい……、私達よりは上かなー」

「え、僕よりも?」

「だと思うよー? そうだなー、あそこの筋肉モリモリおじいちゃんに、エウィン君って勝てる?」

「はい、勝てます」

「え⁉」


 空白の期間が、認識にズレを起こさせる。

 当然ながら、エルディアに落ち度はない。

 モーフィスはこの里随一の強者だ。彼女でさえ、この老人には太刀打ちできない。

 ゆえに、エウィンもそうだろうと予想したのだが、短期間での急成長が不正解だと言い渡す。


「つい最近まではリードアクターを使う必要がありましたけど、今は素のままでいけます」

「ま、まじで?」

「まじでまじで」


 そして沈黙が訪れる。

 もっとも、ここは鍛錬の場ゆえ、騒々しいことに変わりない。

 ハクアと少女も仲睦ましく盛り上がっており、静かな場所はここだけだ。

 エルディアとしても、開いた口が塞がらない。


「信じられないゼ。どゆことー?」

「そう言われましても……。筋トレとか、筋肉モリモリおじいちゃんとの組手とか、そういうのが功を奏したとしか……。 あぁ、こちらのアゲハさんも、メキメキ成長中です」


 二人の視線が、吸い寄せられるように黒髪の日本人へ向けられる。

 その結果、アゲハは照れるように視線を落とすも、エルディアはその隙を見逃さない。


「相変わらずデカい! 久しぶりに触らせてー」

「ひゃあ⁉」


 過剰なスキンシップはエルディアの十八番だ。これがあるからこそ、アゲハとの距離を詰められた。

 公衆の面前で絡み合う二人を眺めながら、エウィンは棒立ちのまま動けない。


(眼福過ぎる。ありがとう、おっぱいの神様)


 年上の女性が乳繰り合う光景を、目に焼き付ける。これが今出来る精一杯であり、邪魔されない限りは続けるつもりだ。

 その結果、突然の横やりが彼を正気に戻す。

 背後から、小さな力で服を引っ張られた。

 何事かと、エウィンとしても振り向かずにはいられない。


「ん?」


 振り返ろうと、そこには誰もいない。

 もちろん、そのようなことはなく、視線を下に落とした瞬間だった。

 二人の視線が交わる。

 長い髪は深い青色。瑠璃色という表現が相応しい。

 両耳付近で束ねており、ふわりと垂れ下がるツインテール。

 おめかしで着せられたワンピースは似合っており、長距離移動の影響であちこちが汚れてしまったが、それすらも子供らしくてかわいい。

 大きな瞳をパチパチとさせながら見上げるも、初対面ゆえか恥ずかしそうだ。

 その手はエウィンの服を引っ張っており、少女は照れながらも口を開く。


「ぱおらです。おにいちゃんは、だれ?」

「あ、ええと、エウィン、エウィンだよ」


 新たな物語が幕を上げる。

 炎の魔物が選んだ傭兵。

 赤髪の魔女に才能を見出された少女。

 二人が出会った瞬間だ。

 課せられた使命は、セステニアの討伐。

 それが重荷であろうと、どちらかが果たさなければならない。

 あるいは誰であれ負けてしまうのか? 台本のラストページは白紙ゆえ、今は誰にもわからない。

 これは、二人の交錯から始まる物語。

 巨人戦争は偽りの終戦で幕を閉じたが、先延ばしはそろそろ限界だ。

 エウィン・ナービス。

 パオラ・エヴィ。

 人間の壁を超える者達。

 それほどの資格がなければ、最悪の災厄になど立ち向かえない。

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