十三:ビビ
今でもよく覚えている。
一番最初に見つけたのはラピスラズリだった。
ビビは子どもができない体だった。
それは生まれつきではなく後天的な出来事が原因だった。
ビビはあまり自分のことを話さなかったが、なんとなく育ちのいい人なんだろうとラピスラズリは感じていた。
話す言葉は訛りがなく綺麗な発音だったし、ペンを持つ手は美しかった。テーブルマナーも完璧だったし、何よりその姿勢や行動の端々から育ちの良さが伺えた。
ビビのように綺麗になりたかった。
だけどそう言うラピスラズリにいつもビビは、私のような女にはならないことよ、と寂しそうに言った。
…一度だけ、彼女が呟いたことがあった。
「私だって、本当は産みたかったのにね。」
見たことのない氷のような微笑みを浮かべて、どこかを見つめて彼女は言った。
ビビはこの聖堂のシスターだったけれど、彼女がお祈りをしているところは見たことがなかった。
たまにやってくる客人は外国の人。
街の住人は、ラピスラズリが聖堂に通うようになる前からあまり立ち寄りはしていなかったように思う。
だから、ラピスラズリはここへ来た。
静寂に包まれたかったから。
なぜその日だったのかは分からない。
おやつの時間を少し過ぎた、ちょうど今ぐらいの時間。
ラピスラズリはビビへのプレゼントを持って、聖堂を訪れた。
外は良く晴れていて、ほかほか暖かかったのに、聖堂はいつもよりひんやりとしていて恐ろしいほどに静かだった。
扉を開けて見上げた瞬間、目に映り込んだ聖母像。
キラキラとした陽の光に照らされたその像に、紐にかかったビビの首が吊るされていた。
足元には倒れたハシゴとなにかの燃えかすが落ちていた。
燃えた紙の切れ端から見るに、どこかからの手紙のように思えたけれど、燃えていたので分からなかった。
街の人たちはラピスラズリと口を聞いてくれないので、当時から物を売りに来ていた知らない外国人に話しかけて、ビビを見つけたことを街へ知らせてもらった。
街の人々はしかめっ面をしたり、哀れんだりしていた。
悲しむ人は居なかった。
最初は黒髪の少女がシスターを殺したのではないかと噂された。
呪いではないかとも言われた。
しかし、人を抱えてあのハシゴを登るのはいささか無理であろうと、その外国人は冷静に説いた。ましてや呪いで人の首は吊られない。
街の偉い人がビビの境遇を知っていたので、彼女は自殺したのだろうと結局は結論づけられた。
埋葬されたビビは今、共同墓地に眠っている。
なぜあの日、ビビは死んでしまったのかラピスラズリは知らない。
澄み渡る青い空に包まれていたあの日。
その日はビビの、幾度目かの誕生日だった。
空気吐くだけで痩せたい。




