十四:今日。
「…ぐす。ぐす。」
「なんであんたがそんなに号泣するの……。」
ぐしゃぐしゃになった顔まできれいなのが少しムカついた。
ルチルティアは言葉にならない言葉を口から吐きながら、ラピスラズリが差し出したハンカチで涙を拭った。
「だ、だっで、自分で死ぬだなんて、そんなのは、僕はとでも、がなじいでず、びええ!」
「赤ん坊でももっとマシな泣きかたするって。もう人が死ぬだなんてそんな珍しくことじゃないんだからいちいち泣かないでくれる…。」
思わずため息が出てしまう。
喜怒哀楽の激しい天使だなあ。天使っぽくない。
「何かこうもう少し、天使って…大理石みたいな感じを想像していたんだけど…。」
このルチルティアという生き物は本当は天使の再従兄弟ぐらいの生き物なのではないか?
こんなにふにゃふにゃの赤ちゃんのような生き物が、よく神話の物語に出てくるあの天使とは。
…最も、背中の翼を見ても、こうして数日経っても未だに本物の天使だとは信じ難いのだけど。
「人はすぐに死んでしまうとは存じておりましたが、…こんなに簡単に、自分を殺してしまえるのですね…。……。」
たくさんの涙の真珠が床やその白い服の上でキラキラと輝いている。
どこかを見つめてふと、ルチルティアは黙ってしまった。
うつむきながら静かに座り込む。
丁度夕暮れの日の光が窓から差し込み彼を照らす。
その横顔があまりにも美しくて、だけどなぜか悲しくて、ラピスラズリの胸がきゅうっと締まる。
「…ルチルティアさんはなんでここに来たの。」
不意に口をついて出た言葉。
もしかして聞いてはいけなかったのかもしれない。
彼はふわりと笑ってこちらを向いた。
「ああ、僕はあそこに要らなかったんです。」
穏やかな口調だった。なんでもないことのようにルチルティアはそう答えた。
「あ、そうだ。僕の名前長いのでよかったら縮めてティアと呼んでください!あちらでもそう呼んでくれる友達がいたので。」
ルチルティアの顔がパッと輝いた。
「……。そう。名前を呼ぶときはそうする。」
にこにこ笑うルチルティアに、ラピスラズリは少しホッとした。
相変わらずコロコロ表情が変わる。
「そうね。私の名前も長いからララでいいよ。知らない人たちにも勝手にそう呼ばれているから。」
「知らない人、ですか?」
「そ。私あの人たちの名前知らないのよ。」
ふと、思った。
あの物売りたちはいつも親しく話しかけてはくれるけど、彼らのことはあまりよく知らない。
「…だいぶ時間が経ってしまったよね。私は創作活動に精を出す。」
そう言ってラピスラズリが描きかけのキャンバスを持った矢先、ルチルティアのお腹がキュルキュルと悲鳴をあげた。
「……すみません…。」
「……。」
ラピスラズリはため息をついた。
そして、今日の夜ご飯のために持ってきていた林檎ジャムとパンを鞄から取り出す。
「今日何も食べてなかったしね。まずご飯にしよう。」
自分の分を取り分けて、ルチルティアに差し出した。
「は、腹が減っては戦はできぬ!ですね!」
「あなただいぶ神経図太いよね。」
ラピスラズリは呆れながらパンにジャムを塗る。
今日もまともに絵が描けなかったなあ、とぼんやり座ってパンを食べた。
隣でルチルティアも黙々とパンを食べている。
食べたら絵を描くからあなたもきちんと創作をしなさいよね、とブツブツ言いながら、
ラピスラズリは幸せそうにパンを頬張るルチルティアの横顔を眺めていた。
目が痒くて陥没しました。




