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色のない天使と黒髪の娘  作者: みうめむらさき
13/16

十一:真珠

白くて綺麗なキラキラが視界に入る。

暖かくて心地いい…。

なんだろうこの光は…、うっとり……。



「……ん……。」



キラキラがまとわりついてくる…。

キャラキャラ…キャラキャラ…。



「……ん……。……ん?」


ぱちりと目を覚ました。

瞬間、視界にたくさんのキラキラが飛び込んでくる。


「うお。…眩しい。」


よぉく目を凝らすと、銀色のキラキラがもぞもぞ動いている。

……夢じゃなかった…。


「…は!お目覚めですか…!」


ラピスラズリは重たい体を起こしてあくびをした。

声のする方を見てみると、そこには真っ白に光る銀色の天使がいる。


「…あんた昼間になるとますます眩しいね…。」

ラピスラズリは思わず目を細める。


「そうですか?陽に当たって反射しているのでしょうか…。」

いや、お前自身が発光しているのだ…。

と言うのがだるくてラピスラズリは開きかけた口を開いた。


お風呂も入らずに聖堂の赤い屋根の家で眠ってしまった。


「あ、あの。すみません、あなたがお休みになったあと泣く練習をしていたのですが…どうにもこうにも涙が出てこなくて。」


昨夜ひと粒残らず集めた真珠の袋をおずおずと差し出してくる。


「い、今は昨日のこれしか…。」


ラピスラズリは改めて袋の中身を見た。

やはりキラキラした真珠がたくさん入っている。

これも夢ではなかったらしい…。


「…今日は何日だったっけな…。」


ラピスラズリはまだとろけた脳みそをぼちぼち稼働させる。

いつも話しかけてくれる物売りの中に、確か何人かは宝石を取り扱う人がいたはず。

今日は来る日だっただろうか…。


「…とりあえず行ってみるか…。」

のそのそと立ち上がって乱れた髪を整える。

相変わらず綺麗な黒髪だなあと、ルチルティアは見つめてしまった。


「…あんた、夜ずっと起きてたの?」

そういえば、ずっと泣く練習をしていたと言った。

「え、はい!でもなかなか難しく…。」


ラピスラズリは呆れてしまった。

「あんた…生きるの下手そうね…。」


図星だった。


「ア……ハイ…よく言われます…。」


思わずため息が出た。

このため息が絹糸にでもなれば売れるのになあと、ついラピスラズリは考えてしまう。


「あんたは目立つからあんまり動かない方がいいよ。」

少なくとも、この発光を抑えないことにはどうにもならない。

そしてその翼の生えた背中を露出させて歩く事も大概目立つ。


とりあえずラピスラズリは物売りの居る市場へ行ってみることにした。

それから家へ一度戻ってお湯浴びたい。


「私出かけるから……ここに居るなら居てもいいけど…散らかさないで。」

本当はあんまり他人が居るのは嫌だったが。


「…ビビは私に居ていいと言った。」



「へ?何かおっしゃいました?」

きょとんとした顔でルチルティアが言った。


「いいえ、なにも。じゃ。」

くるりと向きを変えて扉の方へ歩いていくと、慌ててルチルティアに止められた。


「ま、ま待って!」

「…ナニ。」


ラピスラズリの眉間に皺が寄る。


「あの、お名前は…?」


「は?」


ああそうか。

そういえば私はまだ名を名乗っていなかったのだ。


「ラピスラズリ。……星椿 ラピスラズリ。ファーストネームがラピスラズリ。」


ルチルティアは目をキラキラ輝かせた。


「ラピスラズリさん!ええと、人にはらすとねーむとふぁーすとねーむとみどるねーむがあるんですよね、存じております!」


彼はえっへん、と得意げに言った。


「…はいはい。」

なにを得意げに話しているのか…。

今度こそ、ラピスラズリは扉を開けた。


「ラピスラズリさんいってらっしゃいませ!」


にこにこ顔の彼に見送られて、ラピスラズリは外へ出た。



…そういえば、誰かに見送られるのはビビ以外では初めての事だった。




……





体の大半を包むケープを身に纏い、ラピスラズリは行商が集まる街の物売り広場に来た。


「あら。珍しいわねララちゃん。」


物売りが集まるアクセサリーを扱う物売りが言った。

ラピスラズリは滅多にアクセサリーや宝石なんかを見に来ないので、この物売りの外国人とはあまり話したことがない。


ラピスラズリに親しくしてくれるその国の物売りの中で、この人はひときわ不思議な雰囲気を醸し出していた。

紫色のベールを纏い、ウェーブのかかった髪は綺麗な金色。唇には水色の紅。

そして目元は黒いレースのような仮面で隠されている。


「今日はどんなご用事?」

男とも女とも、はたまた別の性とも取れる聞き心地のいい声。

名前は知らないので、ラピスラズリはいつもこの人を仮面さんと呼んでいた。


「仮面さん、綺麗な石があったら買取もするって言ってたじゃない、見て欲しいのがあって。」


「あら…楽しみだこと。」


ラピスラズリは真珠が詰まった袋を差し出した。

袋を開けて中を見る。

仮面さんはマァ、と呟いた。


「……綺麗な真珠。……あら…これ…。」

「…悪行で手に入れたんじゃないのよ。ええと、知り合いの代理。」

「…ふふ。そう…。」


仮面さんは手袋をした手で丁寧に真珠を取り出して眺めた。


「そう、ね……これくらいで、どうかしら。」


真珠をすべて柔らかな布の敷き詰められた小さなケースに並べた後、仮面さんはお金の入った袋を差し出した。


「…エッ。」


ラピスラズリは袋の中を見て驚いた。

首を振って仮面さんと袋を交互に見る。


「何かと物入りでしょう。さぁびす。うふふ。」

水色の唇の端をあげて、ふふふ、と微笑む。


「…いいの……?」


「ええ。その代わり、また綺麗な真珠を見つけたら私に持ってきて頂戴ね。」


真珠って、大好きなの。

そう言って仮面さんは、並べた真珠のケースを丁寧に包む。


「どうも、ありがとう。見つけ…知り合いに頼まれたらまた持ってくるね。」


ラピスラズリも丁寧に袋を鞄に入れ、胸のあたりに大事に抱えた。

羽織っていたケープで鞄ごと体を包む。



「あなたにいいことがありますように。」


ラピスラズリはお辞儀してから、仮面さんに背を向ける。

ひとまず自分の家へ戻ることにした。







「きっと、仲良くなれると思うわ。」



遠くなるラピスラズリの背に、仮面さんは呟く。



煙管に火をつけて息を吸い、フウ…と不思議な色の煙を吐き出した。




今日は晴天。

青い空は、どこまでも続いていた。



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