時間旅行2011 その2
ついに、オーディションの日がやってきた。
この日のオーディションは、インディーズレーベルと有名CDショップ主催のオーディションで、合格すればインディーズデビューと、CDの全国発売が約束されるオーディション。
受けるのは私たちのバンド「vivid color」を含めて4組。
1組目はピアノ弾き語りの、美玲さん。
2組目は男性ダンス&ボーカルデュオ、エスケープ。
3組目はギター弾き語りの、北山優季さん
そして、4組目は私たち、vivid color。
私たちはトリ。
まずは1組目の美玲さん。
「美玲さんの清らかな声と、清らかなピアノが素晴らしいね!歌を届けたいという気持ちが伝わってきて、いいもの見させていただきました。」
審査員の1人、オペラ歌手の菅井喜代子さんからも高評価。
CDショップ社長の山野ゆうじさんからも
「これは売れますね。あなたの声でお客様を癒していただきたいです。」と、べた褒め。
確かにすごく上手かったし、この人のCD欲しい!と思ったくらいに鳥肌が立つ歌声だった。
2組目のエスケープも、3組目の北山優季さんもまずまずの評価を受け、トリの私たちの番。
「4番。vivid colorです。よろしくお願いします!」
リーダーまりりんの挨拶で、俄然やる気スイッチが入った私たち。
「1、2、3、4!!」
私たちは全力で演奏し、全力で歌いきった。思いを全て出し切り、みんなからもこの上ない笑顔が見られた。
そして審査。開口一番、オペラ歌手の菅井喜代子さんがこう切り出した。
「…………最悪ですね」
思ってもみない評価に、みんなの笑顔は一瞬にして消え去った。
「あなたたちに質問します。この歌を誰に届けたいですか?誰のためにバンドをやってるのですか?」
突拍子もない質問だった。
「ボーカルの、斉藤みきさん!」
「………………。」
答えられない。
「ギターの、大山紗和さん!」
「………………。」
「ベースの、西口由紀子さん!」
「………………。」
「キーボードの、中村美優さん!」
「………………。」
「最後に、リーダーの古川真理さん!」
「………………。」
メンバーの中に誰も答えられる人は居なかった。
ただ、楽しいからやっている………それだけだった。
誰かのためになんて、みんな考えもしなかったことだからだ。
「答えられないようじゃ、ダメですね…」
酷評だった。CDショップ社長の山野ゆうじさんからも
「今、菅井さんが仰られた通り、音楽は、誰かのために歌わなければ売れません。あなたたちにはそれが感じられない。自己満足でやってるだけではダメですよ!それをしっかり肝に銘じて、これからも頑張って下さい。」
まさに惨敗だった。リーダーのまりりんは、その場で泣き崩れた。
そして、私たちもあまりの悔しさに、涙が止まらなかった。
優勝したのは1番の美玲さん。改めて思うと、美玲さんと私たちとは実力は雲泥の差だった。
楽屋で優勝した美玲さんに遭遇した私たち。
「美玲さん、おめでとうございます。」
美玲さんを祝福はするものの、やはり笑顔はひきつっているみんな。
「ありがとうございます!」
屈託のない笑顔で喜びを爆発させている美玲さん。そして、美玲さんはこう続けた。
「私、実はつい先日の震災で両親も友達も亡くしちゃって……だからね、亡くなった人たちに恩返ししたいなーと思って、今日のオーディション応募したの。正直言うと、インディーズデビューできるとは思ってなかったから、ホントにビックリだった。亡くなった皆さんに感謝しなくちゃね!」
美玲さんの言葉がものすごく重くのしかかった。
その時、私の身体からまた稲妻が走った。
オーディションの帰り道。私たちは自問自答を繰り返した。
「あたしたち、なんでバンドやってたのかな?」
「単に楽しいってだけでやってたのかもなー」
「自分達で曲つくって、自分達で歌って、演奏して……… 楽しければいいや!って思ってた。」
「自己満足だけでやってたのかなー」
「『誰かのために』かぁ………」
みんながみんな自問自答を繰り返していた。
そして年末を迎えた大学のライブハウス。
「あたし、バンド辞めるわ…」
リーダーのまりりんが突然切り出した。
「え?なんで??」
あまりにも突然のまりりんからの発言に、開口一番こう聞き返した。
「就職活動も控えてるし、もう自己満足だけじゃ無理なんだなーって、オーディション受けて感じちゃって。バンドはホントに自己満足でやってただけだな…って感じちゃってさ。だから、もっと人の役にたつ就職先見つけないと!って思ったんだよね…」
まりりんのこの言葉にみんなが納得していた。
「そうだよね?あたしも親に怒られちゃってさ!『音楽ばっかやってないでちゃんと就職のことも考えろ!』って。親の言うこともその通りだよね。」
「楽しいだけじゃ、世の中やっていけないなーって、この間のオーディションで気づかされた感じだなー。」
「そだねー。あたしも就職先考えなくちゃ!」
私以外のみんなの意見は同じだった。
「『vivid color』は本日で解散!ってことでいいかな?」
まりりんからの解散の二文字に私は慌てふためいた。冗談じゃない!解散だなんて………
この2011年にタイムスリップした意味が全く無くなるじゃん!
「意義無し!」
私以外のみんなの意見は同じだった。こうして、楽しかった日々は終わったのだ。
それでも諦めきれない私。
私は過去を変えるためにこの2011年の世界にやってきたのだ。
ここで諦めたら何の意味もなくなる。
そんな思いで私はバンドではなくてソロシンガーとしてオーディションを受け続けたがことごとく落選。
私は現代の私と同じように疲弊していた。
「結局、過去は変えられないのか…」
もう絶望に瀕していた。
そんな時、タイムマシンに備え付けのケータイが鳴った。
時本さんからだ。
「斉藤様、申し訳ありませんが、明日中に現代へお戻りください。お戻りいただかないとタイムマシンが故障してしまい、もう二度と現代には戻れなくなります!」
あまりの突然の時本さんからの電話に、私は目を丸くせずには居られなかった。




