おまけその6
好きなもの
とある日、彼が大きな籠にいっぱいの苺を持って帰ってきた。
「うわ! 苺!! どうしたの? どうしたのこれ!?」
苺! 苺だ! 好物を目の前に興奮してしまう。子供か私は……
「テンション高いな、子供か。ああ、前にお前の好きなもの聞かれた事があるって言ってたろ? その人がくれたんだよ」
そういえばそんな話もあったね、すっかり忘れてたよ。しかしこの世界にも苺があるとは……、じゅるり。
「おお、釘付けだよ……。どれだけ好きなんだよ」
「大好きよ!」
自分でも分かるくらい、今いい笑顔をしていると思う。
「っ!?」
おや? 彼の顔が赤い、どうしたんだろ?
「うん? ちょっと顔赤くない? 熱? 風邪? でも馬鹿は風邪ひかないって言うよね」
実際には馬鹿は風邪をひいても、ひいた事に気づかないとか。そんな馬鹿な……。ああ、だから馬鹿なのか。何か違うな……
「さりげなくひどい事言うんじゃねーよ……。まったくこいつは……」
「ふふ、ごめんね? それで、大丈夫なの?」
もし風邪だとしたら休ませないと。絶対黙って無理するよこいつは。
「気のせいだろ? 夕方だしさ、ちょっと見間違えたんじゃないか?」
確かにもうなんともなさそうに見えるね。何だ見間違いか、よかったよ。
「それじゃ、水につけて冷やしておこう? そうしよう? ねえ、早く早くー」
冷蔵庫とか無いしね、水につけて冷やすしかないのよ。でも、もう慣れちゃったな。冷たい飲み物やアイスが恋しくなるときもあるけど、人間って意外に簡単に慣れていくものなのよね。自分が一番意外に思えるよ。
「お、おう。分かったから引っ張るなって。ホントに好きなんだな苺」
「うんうん、大好きなの!」
「! くそっ! こいつは……」
「何か言った?」
あれ? また顔が赤いような……? ま、いいか、夕日のせいだよね。体調が悪いようには見えないし。
「いんや、そんじゃ、食いしん坊お姫様のために早く行きますかね」
「今日だけはスルーしてあげるわ。ふふふ、苺、苺ー♪」
「な、何あの子……。無意識よねあれ、恐ろしい才能だわ……。ふふ、彼も苦労するわね」
奥さんは見ていた。殺人事件には発展しない。
「あれ? お前そのまま食べるんだな。砂糖とかつけないのか?」
何馬鹿な事言ってるんだこの馬鹿は。このたわけが。
「私はそのままの味が好きなの。でも、たまには味を変えてみたくなる事もあるわよ」
全てを否定するわけじゃない。砂糖、練乳、潰してイチゴミルクにするなど、もちろん全部好きだ。ただ、そのまま食べるのが一番好きというだけ。
「私もそのままだな、うん」
さすが村長さん分かってる。今度一度じっくりと話いましょう。
「本当に好きなのねー。あ、私の分も食べる?」
「そうだね、私の分も食べるといい」
村長さんと奥さんが自分の分を勧めてくる。おおお、ありがたいお言葉だ。しかし!
「みんなで食べた方がもっとおいしいですよ。だからみんなで食べましょう?」
独り占めしたいはしたいが、どうせこの量は食べきれまい。腐らせてしまうのが落ちだ。無理に食べてお腹を壊すのもなんだしね。うん、あれは辛かったね。ふう。
「ああ! 優しいわ! 可愛いわこの子! うんうん、みんなで食べましょうね?」
「ああ、皆で食べた方がおいしいに決まっているな」
「あなたはくれないんだねー」
彼もこういうときには差し出してきそうなものだが、彼も苺好きなんだろうか?
「どうせ腹壊す落ちが待ってるだけだろ? あげないのも優しさだと思え」
「あらら、よくお分かりで。ふふふ」
見た感じ一日二日で悪くなるようには見えない。しばらくは楽しめそうだね。どこの誰かは知らないが感謝感謝、じゃない、後で聞いておかないと。
「うーん、幸せ」
「安い幸せだなー」
呆れてるね、でもね。
「幸せは人それぞれなのよ」
「確かにな。お前の幸せは主に食べ物という事で」
「むう、否定できないわ……」
「そこは言い返しておけよ……」
この彼君だと私ちゃんに好意を持っている事がバレバレですね。
でも、こういうのもいいですよね……
同じ時間に新作も投稿しました。もしよかったら、読んでみてもらえると嬉しいです。
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