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『学校一と呼ばれる三人の美少女は、今日も俺を諦めない。』  作者: 夜凪ロア


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第9話 届かない距離

二時間目が終わると、教室は再び賑やかになった。


「ふぅ……。」


奏汰は大きく伸びをする。


「数学眠かったな。」


悠真が笑う。


「先生の声、子守歌だった。」


「それは分かる。」


二人が笑っていると、


「榛原。」


クラス委員の男子が近づいてきた。


「悪い、このプリント職員室まで持っていってくれないか?」


「今?」


「俺、このあと先生に呼ばれててさ。」


「分かった。」


奏汰はプリントを受け取り、教室を出た。


廊下は授業の合間で静かだった。


職員室へ向かう途中――


「……。」


向こうから一人の女子生徒が歩いてくる。


生徒会長・奏坂澪。


教室では遠く感じる存在も、廊下ですれ違えば同じ高校生だ。


(生徒会の仕事かな。)


奏汰は特に気にせず歩く。


澪も歩みを止めない。


すれ違う、その瞬間。


「あの。」


澪が静かに声をかけた。


「ん?」


奏汰は足を止める。


「職員室ですか?」


「うん、プリントを届けに。」


「そうでしたか。」


短い会話。


それだけだった。


「失礼しました。」


澪は軽く頭を下げる。


「じゃあ。」


奏汰も会釈し、そのまま歩き出した。


──数秒。


澪は立ち止まったまま、その背中を見つめる。


(また……。)


普通に話せた。


たった二言。


それだけなのに胸が熱くなる。


「会長?」


生徒会役員の女子が駆け寄ってくる。


「どうしました?」


「……何でもありません。」


澪はすぐにいつもの落ち着いた表情へ戻った。


その頃。


職員室へプリントを届けた奏汰は、


「ありがとうございました。」


先生に礼を言い、教室へ戻る。


(生徒会長って思ったより話しやすい人だったな。)


それ以上でも、それ以下でもない。


教室へ戻ると、


「お、帰ってきた。」


悠真が手を振る。


「遅かったな。」


「先生に少し話しかけられてた。」


「そういや廊下で会長と話してた?」


「うん?」


「見えたぞ。」


「道聞かれただけ。」


「……道?」


「職員室ですかって。」


「それだけ?」


「それだけ。」


悠真は頭を抱えた。


「なんでそんな普通なんだよ……。」


周りの男子も苦笑する。


しかし、そのやり取りを聞いていた数人は表情を曇らせた。


「また榛原か。」


「昨日は柏瀬さん。」


「この前は冬瀬さん。」


「今日は生徒会長……。」


偶然。


そう片付けるには、少し続きすぎていた。


教室の窓際。


乃愛はその様子を見ながら、小さく笑う。


(みんな、もう気づき始めてる。)


陽葵は少しだけ不安そうな表情を浮かべる。


(変な噂にならなきゃいいけど……。)


そして澪は静かに席へ座り、本を開く。


けれど、そのページはしばらく一度もめくられることはなかった。


誰にも気づかれないほど小さく動き始めた四人の関係。


その一方で、教室の空気にもまた、小さな変化が生まれ始めていた。

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