第8話 小さな噂
翌日。
「おはよう!」
「おはよー!」
朝の教室はいつも通り賑やかだった。
奏汰も席へ着くと、悠真たちが集まってくる。
「昨日、図書委員どうだった?」
「思ったより楽だった。」
「本運ぶだけ?」
「説明聞いただけ。」
「なんだ、楽勝じゃん。」
そんな他愛もない会話をしていると――
教室の前方から小さなざわめきが聞こえた。
「ねぇ。」
「昨日見た?」
「見た見た。」
女子たちが何か話している。
「柏瀬さんと榛原くん。」
「一緒に帰ってたよね。」
「図書委員だからじゃない?」
「それだけかな?」
小さな声。
まだ噂というほどではない。
それでも、教室の何人かは気になっているようだった。
「奏汰。」
悠真がニヤリと笑う。
「お前、なんか話題になってるぞ。」
「え?」
「柏瀬さん。」
「ああ、図書委員。」
「それだけ?」
「それだけ。」
「お前なぁ……。」
悠真は肩を落とした。
「普通もう少しドキドキするだろ。」
「いや、いい人だった。」
「そこじゃねぇ。」
二人のやり取りに友人たちが笑う。
その笑い声を聞きながら、
陽葵は席で小さく俯いていた。
(噂になっちゃった……。)
嬉しい。
でも少し恥ずかしい。
複雑な気持ちだった。
その様子を見た乃愛は、
(陽葵ちゃん、顔真っ赤。)
思わず笑いそうになる。
しかしその直後、
「冬瀬さん!」
男子数人が乃愛の席へやって来た。
「読者モデルって本当?」
「今度サインもらえる?」
「一緒に写真とか……。」
「ごめんね。」
乃愛は困ったように笑う。
「学校では普通に過ごしたいから。」
優しく断る。
男子たちは残念そうに席へ戻っていく。
そのやり取りを見ていた奏汰は、
(大変そうだな。)
ただそう思っただけだった。
一方。
窓際では澪が静かに本を読んでいた。
周りには近づきにくい空気がある。
それでも女子たちは憧れの視線を送っていた。
(やっぱり綺麗……。)
(絵になるなぁ。)
そんな視線には慣れている。
しかし澪の視線は、
本ではなく奏汰へ向いていた。
(相変わらず……。)
学校中が自分たちを見ている。
それでも彼だけはいつも通り。
だからこそ気になってしまう。
キーンコーンカーンコーン――
一時間目開始のチャイムが鳴る。
先生が教室へ入ってきた。
「席に着けー。」
生徒たちは慌てて席へ戻る。
授業が始まる直前。
教室の後ろで一人の男子が小さく呟いた。
「……やっぱ気になる。」
「何が?」
「榛原って、なんで学校一の三人と関わるんだ?」
「偶然だろ。」
「……そうかな。」
まだ誰も答えを知らない。
けれど、その小さな疑問は、
少しずつ学校中へ広がろうとしていた。




