第7話 放課後の図書室
放課後。
「じゃあ俺たち先帰るな!」
「また明日!」
友人グループが次々と教室を出ていく。
奏汰も立ち上がろうとした、その時だった。
「あ。」
図書委員のことを思い出す。
「今日、顔合わせだった。」
朝のホームルームで担任が言っていた。
『放課後、図書室に集合』
「悪い、ちょっと用事ある。」
「委員会?」
悠真が振り返る。
「うん。」
「終わったら連絡しろよ!」
「分かった。」
教室を出る。
廊下は部活動へ向かう生徒たちで賑わっていた。
窓から差し込む夕日が床を赤く染めている。
(図書室ってどこだっけ……。)
一年生の時はほとんど来なかった。
案内板を見ながら歩いていると、
「あの……。」
聞き覚えのある声がした。
振り返る。
「柏瀬さん。」
陽葵だった。
「図書室……行くよね?」
「うん。」
「私も。」
少しだけ沈黙。
「じゃあ、一緒に行こうか。」
「……うん。」
並んで歩き始める。
周りの生徒は何気なく通り過ぎていく。
誰もまだ気づいていない。
「陸上部って忙しいんじゃない?」
奏汰が話しかけた。
「忙しいよ。」
陽葵は笑う。
「でも、本は好きだから。」
「そうなんだ。」
「榛原くんは?」
「読むのは好きかな。」
「どんな本?」
「ミステリーとか青春小説。」
「一緒。」
陽葵の表情が少し明るくなる。
「私も青春小説好き。」
「へぇ。」
自然と会話が続く。
無理に話題を探さなくても、
言葉が途切れない。
図書室へ着く頃には、
二人とも最初の緊張はなくなっていた。
「失礼します。」
中へ入る。
「図書委員だね?」
司書の先生が笑顔で迎えてくれた。
「今年は二人だけだから、よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
委員会は三十分ほどで終わった。
本の貸し出し方法。
返却日の確認。
本棚の整理。
難しい仕事は何もない。
「今日はこれで終わり。」
「ありがとうございました。」
図書室を出る。
廊下には夕焼けが広がっていた。
「思ったより早かったね。」
「うん。」
昇降口まで歩く。
「それじゃ。」
奏汰が靴を履き替える。
「また委員会で。」
「うん。また。」
陽葵は嬉しそうに微笑んだ。
その瞬間だった。
「柏瀬?」
陸上部の女子部員が驚いた顔で立っていた。
「もう帰るの?」
「あ、うん。」
「そっちの人……。」
視線が奏汰へ向く。
「あ、同じ図書委員。」
陽葵が慌てて説明する。
「そうなんだ。」
女子部員は納得したように笑う。
「じゃあ部活行こう!」
「うん。」
陽葵は小さく手を振った。
「またね。」
「また。」
奏汰も軽く手を上げる。
そのやり取りを、
少し離れた場所から見ていた男子生徒がいた。
「……また榛原か。」
昼は授業。
委員会。
そして今。
学校一と呼ばれる美少女・柏瀬陽葵と並んで帰る姿。
偶然にしては、少し出来すぎている。
そんな違和感が、
少しずつ学校中へ広がり始めていた。




