第14話 噂の始まり
金曜日。
一週間の疲れが少しずつ見え始める朝。
それでも二年A組は、いつもと変わらず賑やかだった。
「眠っ……。」
悠真が机に突っ伏す。
「昨日ゲーム?」
奏汰が笑う。
「違う。動画見てたら三時だった。」
「それは自業自得。」
「分かってる。」
友人たちが笑い合う。
その輪の中にいるだけで、自然と笑顔になれる。
そんな空気だった。
「そういえば。」
女子の一人が思い出したように言う。
「明日、みんなでクレープ食べに行くんだよね?」
「あ、そうだった!」
「駅前の新しいお店!」
「十一時集合でいい?」
「オッケー!」
予定が決まり、みんな嬉しそうに話している。
「奏汰、寝坊すんなよ?」
「しない。」
「去年、映画の日に寝坊したじゃん。」
「あれは一回だけ。」
「一回あれば十分。」
また笑いが起きる。
その光景を見ていたクラスメイトが、小さく呟く。
「やっぱりあのグループいいよね。」
「男女であんなに仲いいの珍しい。」
「雰囲気いいもん。」
憧れのような視線が向けられていた。
◇◇◇
二時間目の休み時間。
「ねぇ。」
女子が小声で話し始める。
「最近さ。」
「うん?」
「冬瀬さんと柏瀬さん、榛原くんと話すこと多くない?」
「確かに。」
「偶然?」
「どうなんだろ。」
その会話は、すぐ近くにいた男子にも聞こえていた。
「俺も思ってた。」
「図書委員だからじゃない?」
「でも冬瀬さんも話してるよ。」
「……。」
誰も断言はしない。
ただ、小さな疑問だけが残る。
まだ噂ではない。
しかし、確実に話題にはなり始めていた。
◇◇◇
昼休み。
奏汰たちはいつもの中庭へ。
「今日は風あるな。」
「でも気持ちいい。」
「土曜日晴れるといいね。」
明日の予定の話で盛り上がる。
その頃。
乃愛は教室で昼食を食べていた。
ふと窓の外を見る。
楽しそうに笑う奏汰たち。
(やっぱり……。)
(いいな。)
友達と過ごす何気ない時間。
その輪の中にいつか自然と入れたら。
そんなことを考えている自分に気づき、小さく笑った。
一方。
陽葵は昼食を終え、図書室へ借りていた本を返しに来ていた。
返却カウンターで手続きを済ませると、司書の先生が笑顔で話しかける。
「榛原くんとは仲良くなれた?」
「えっ?」
陽葵の顔が一瞬で赤くなる。
「図書委員、息ぴったりだから。」
「そ、そんなことないです!」
慌てて否定する陽葵。
司書の先生はくすっと笑った。
「ごめんごめん。」
「でも、二人とも感じのいい子だから安心して見てられるわ。」
その言葉に、陽葵は少しだけ嬉しくなった。
◇◇◇
放課後。
帰り支度を終えた奏汰が教室を出ようとすると、
「榛原くん。」
乃愛が近づいてきた。
「明日だけど。」
「うん?」
「みんなで遊ぶの、楽しみにしてるね。」
「俺も。」
「じゃあまた明日。」
「また。」
短い会話。
それだけだった。
しかし、その様子を見ていた男子生徒が、友人へ小さく言う。
「……やっぱり。」
「ん?」
「冬瀬さん、最近榛原とよく話してる。」
「気のせいじゃないな。」
その言葉をきっかけに、
「そういえば柏瀬さんも。」
「この前、一緒に帰ってた。」
「図書委員も一緒らしい。」
点だった出来事が、
少しずつ線になり始める。
まだ誰も「好き」という言葉は口にしない。
それでも――
「榛原奏汰」という名前は、少しずつ学校の話題になり始めていた。




