3.
スチュアート・モントローズは、騎士団宿舎の寝床に入った後、占い師の事を考えた。
(裏通りの魔法警報、それを仕掛けた者がいたから適切なタイミングで仕込みに来た工作員を放り出せた。そして、占い師はフードを取って見せた時、どう見ても貴族出身の私に怯える素振りがなかった…更にあの美貌、平民の出ではなかろう。その割りには魔力を大きく漏らしてはいない…)
占い師の黄色い瞳を思い出した。
(こう見えても貴族学院時代は令嬢達にモテたのだがな。彼女は怯えもしなければ、魅了もされなかった。私程度の顔など見慣れているのか、それとも本気で男の美醜に興味がないのか…)
スチュアート自身も女を美醜で評価はしなかった。男と生まれたからには、歴史に残る仕事がしたい。それでも長男と確執が無い様、爪を隠して生きるしかない。王家の手の者に追われるなどもっての他だ。争いたいのではない。仕事がしたいのだ。それを掣肘しかねない女は不要だ。美醜で男を選ぶ女も、色恋で男を選ぶ女も、スチュアートには興味のない女だった。
スチュアートの頭から、あの占い師の眉から鼻筋までの美貌が離れない。
(くそっ。女の顔が気になって仕方が無いなど、思春期のガキかよ!)
騎士団備え付けの固い布団の上で、スチュアートは右に左にごろごろ転がっていた。
しばらくして、スチュアートの寝室の扉を叩く者があった。起き上がったスチュアートが声を上げた。
「誰か?」
「ジムです。平民街で動きがありました」
「すぐ行く。出動の書類を提出しておけ」
「分かりました」
モントローズ家の諜報情報から、賊は裏通りを進んでいると判った。だから騎士達は表通りを進んだ。占い師の館近くで賊とは反対側の裏通りに移動し、物音がした段階で飛び出した。
「何をしている!?」
掛矢の様な大きな木槌を持った男が占い師の館の扉を打っているのをスチュアート達は見た。驚いた賊達はすぐに逃げ出した。
「追え!」
部下達が追うのに任せ、スチュアートは扉を叩いた。
「おい、大丈夫か!?」
と声を上げたが、どうやら占い師は今はここにはいない様だった。スチュアートならこの距離で魔力の有無を感じるのは簡単だったから。
「一人残れ!」
現状維持の為に監視を一人残し、スチュアートも逃げた男達の魔力を頼りに追った。
だが、賊の逃げる先々で人一人分程度の魔力が次々と消えて行く。
(昼間の警報と同じしくみか?こんなにいくつも用意出来るものなのか?)
もう夜遅く、歓楽街でさえ人気が少なくなっている。そこかしこに存在する人らしき魔力の気配は多分魔力による警報装置だ。自分から離れた距離に人と誤認されるような警報装置を魔力で作り上げる…それ自体が高度な魔法だが、それを複数操る者の魔力の高さと魔法技術の高さが察せられた。
(貴族関係者でも高位の生まれの筈…しかし、昼間の占い師に感じた魔力は平民並みだった…私同様、偽装しているのか!)
賊が逃走する先に、黒衣で身を包んだ小柄な人物が現われた。
「邪魔だ!どけ!」
賊が声を上げたが、黒衣の人物は両手を広げた。その両手に黒光りする剣が見えた。
「手前!やる気か!?」
賊達も短剣や片手剣を手にした。
三ケ月の晩で、黒い剣身をもつ剣の動きは見えずらかった。そして、黒衣の人物は両手に持った剣を広げながらくるくる回り、近づく事を許さないばかりか賊達に小さい切り傷を与え続けた。
ここで手間取っていると騎士達に追いつかれる…そう思った賊達は仲間が斬られている内に次々と逃げ出した。しかし、賊達は足がもつれて次々と倒れていった。
スチュアート達が賊に追いついた時には、倒れている賊以外の人影は無かった。
スチュアートにはこの場から去る人物の魔力の痕跡が追えたが、途中で二つ三つとその痕跡は別れていき、彼の魔力検知可能な距離を超えて消えて行った。部下が賊達を縛り上げる中、スチュアートはその魔法技術の高さに圧倒され、立ち尽くしていた。
4話は超短いので10分後に投稿予定です。




