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2.

 4人の騎士による占い師の館の捜索はそれほど時間がかからなかった。店側には小さな本棚に10冊の本、接客用のテーブルと4つの椅子。引き出し付きの机に帳簿が2冊しか無かった。


 暖炉の上に湯沸かし用と思われる鍋はあったが空だった。近くに茶葉があるが、二等級で妙な匂いも無かった。裏に簡素な寝室があったが、薄い綿入りの敷布団と掛け布団しかなかった。副官のジムが手探りで布団の中を確認したが、特に異物は無かった。


「特に不審物が無かった事は記録しておく。後は、先程の約束だが」

スチュアートの言葉に占い師は答えた。

「はい、では壁側にお二人はお立ちくださいますか?」


 他の者達に背を向け、占い師はフードを頭の真上までずらした。スチュアートの目に、女の綺麗に整ったおでこと鼻筋が見えた。

(おでこと鼻筋は美しく整っているが、鼻の頭がすこし丸い。細い頬に対して顎が少し丸すぎる)

2点において、整った顔が乱れていた。伏目がちの瞼の下の瞳は薄い黄色だった。


 そこまでは隠す理由はなかったが、薄い茶色の髪の下、眉間で表皮が盛り上がっていた。つまり、おでこから眉間に切り傷があったのだ。


「失礼だが、いつこんな傷を?」

「よくある話です。継母に嫌われていて、ある日包丁で切りつけられた。命の危険を感じて逃げ出したのです」

(この美貌なら継母に嫉妬もされるだろう)

スチュアートは納得した。


「女性の秘密を暴いて申し訳なかった。二度とこの様な事はしないと約束しよう」

「ご理解いただき、ありがとうございます」

占い師はフードを元に戻した。


 第一騎士団本部に戻ったスチュアートは、拘束した二人の男を収監させ、報告書を纏めて団長に提出した。

「お前は何をやっている!私は占い師を調べろと命じたのだぞ!?」

「占い師の館は調べましたが、そもそも禁止薬物を置く様な設備がありませんでした。捜査中にたまたま出くわした男が禁止薬物を持っており、そちらを拘束しました。まずその男と同行者を取り調べるのが優先と思いますが、如何でしょうか?」

「言われずともやる!」

「それで、どう見ても仕込みの冤罪と思われますが、騎士団長はどこから密告情報を得たので?」

「情報源をお前に知らせる必要は無い!」


「分かりました。後、我が隊のディーン・マクギールが冤罪の共犯と思われます。その様な公正でない男を都内警らに使えません。即時交代要員をお願いします」

「証拠は何か!?」

「報告書に書いてあります。ひとまず優先的に交代をお願いします」

「検討する!下がって良い!」


 小隊事務所に戻ったスチュアートは、副官のジムを指のジェスチャーで呼んだ。そしてジムにささやいた。

「裏を取れ」

ジムは小さく頷き、事務所を出ていった。


 ジム・オギルビーはモントローズ公爵家の配下の伯爵家の出身である。スチュアートが騎士団に入団する時に公爵家が付けた侍従代わりの部下だった。ジムが騎士団外で調査を依頼するのは、王弟権限で展開している隠密達だった。翌日には背景が明らかになった。


「薬物を扱う貴族達が新興勢力の占い師と中規模商会を潰そうとしたか…」

「聖魔法師の少ない我が国では、治療は薬物に依存しております。薬物貴族は巨大な利権を有しております」


 24年前の戦争で帝国に侵攻した王国軍は壊滅した。当時皇太子であった火烈帝エグバートの範囲魔法で王国軍の中央の魔法使い達は全滅した。それから聖魔法師の数もまだ回復していないのだ。


 その経緯で王家は薬草栽培を奨励し、貴族議会が資金力のある貴族に仕事を分配した。実質、貴族議会がカルテルを纏めている様なものだ。


「しかし、薬物貴族の規模からすれば、平民街での占い師と商会の売上など微々たるものだろう?せいぜい裕福な市民あたりが顧客であるなら」

「ところが、既に下位貴族も顧客になっているのです。何しろ、的確に治療薬を指示するものですから」

「なるほど。むやみと高い薬を売りつけられなくなる。金を持った屑が正当な医療を妨害している図式か」

「報告はそう結論付けられております」


「それなら次は実力行使に出るだろうな」

「家から監視が出ております」

「なら、緊急出動の書類を作っておくか」

「サインをいただければ、すぐにでも提出出来ます」

「…優秀な副官がいると、隊長の仕事が無いな」

「拗ねないでください。もう子供じゃないんだから」

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