1.
王都の平民街の外れに中規模の商店があり、その端に占い師の館と称する部屋があった。そこに向かう騎士の一団があった。
「平民街内の摘発如きに第一騎士団長が自ら指示をするとは。政治色のある案件と明らかにしている様なものだ」
「スチュアート様、勤務時間中に上司の批判はいただけません」
「お前とて臭いと思うだろ?」
騎士の中央付近にいる隊長らしき男とその従者は、この捜査に不信感を抱いていた。
「最近評判になっている占い師が禁止薬物を使っているとの情報が入った。急ぎ出動して現物を押さえよ」
それがこの日の午後一番に、第一騎士団長がスチュアート・モントローズに直接与えた指示だった。
実家は公爵家だが、第一騎士団員としては一小隊長に過ぎないスチュアートに直接指示をする捜査内容では無い。この案件、罠の可能性がある。占い師に対しての罠か、それともスチュアートの父である王弟モントローズ公に対しての罠か。
占い師の館では、開店の準備をしているところだった。そこに隣の商店と類似した商品を扱う商会の一店長が従者を連れてやって来た。
「ちょっといいかな?」
「あら、大店の旦那がこの様な街の外れまで何の御用でしょう?」
「旦那などとは。私は雇われ店長に過ぎないよ。そんな事より、あんたの評判を聞いて、是非腕前の程を見せてもらおうと思ってね」
「腕前などとは。当たるも八卦、当たらぬも八卦の占い師に過ぎませんよ」
「占い師の割りには客によく効く薬を上手に勧めていると聞いているよ。例えば私の身体を診てもらえないかい?」
「とんでもない。薬屋のご主人に病の事を説くなど、神父様に説教するのに等しい事にございますよ」
占い師はフードを被って顔の上半分を隠していた。ミステリアスな演出、もっと言えば胡散臭い格好をしていた。
その頃、裏通りを進む小隊の先頭が通った先で、魔力の反応が一つ消えた事をスチュアートは気付いた。
「止まれ!」
振り返った先頭の騎士達にスチュアートが尋ねた。
「犬猫か子供でも逃げて行かなかったか?」
先頭の騎士が応えた。
「その様なものはおりませんでした」
「そうか…」
実はスチュアートは、魔法の操作技術や魔法感受性が人並み外れて優れていた。王弟の次男というのは中々難しい立場である。長男とは跡目を争う立場であるし、父が臣籍降下したから公式には王位継承権は無いが、貴族議会が王の子供が悉く王位を継ぐ資格がないと判断した場合、王位継承を優先的に検討される立場である。
そう言う訳で、前もって消される前に能力を偽り、少なくとも魔力は長男より劣ると見せかける必要があった。自分の体外に漏れる魔力を確認しながら減らしていった経験から、他人の魔力にも敏感になっていた。
「ここに二人残れ。他に二人は表に出る角で待機。残り4人と副官が占い師の捜査に向かう」
占い師が騎士団長が危惧している様な犯罪者である場合、仲間が警報が出る魔法を使っていた可能性がある。だから逃走先に監視を残したのだ。
占い師の館では、ライバル店の店長と占い師の二人の会話が続いていた。お互いに相手に尻尾を掴ませない様に話をはぐらかし続けていた。
「あれ、お付きの方、あなた、背中に悪霊が憑いていますよ」
ライバル店の店長の付き人は、店長と入口の間に立っていた。驚いた付き人の背中側、つまり入口側に回った占い師は、付き人の左腕を掴んで引っ張り、腰を折ってその上に付き人を乗せた。そのまま上半身をくるりと回した。つまり、付き人を入口の外に投げ飛ばした。
スチュアートとその部下達は入口から飛び出して来た人影を見た。
「何だ?」
騎士達は飛び出して来た男に近づくと、中からフードで顔を隠した小柄な人影が現われた。
「騎士様方、良いところに来てくださいました!その男、何か匂うものを懐に隠しております。きっと何か良からぬ事を考えている男です。捕まえて取り調べてください!」
飛び出して来た男は、まだ呻くだけで反応が出来なかった。スチュアートは副官に一言で指示した。
「ジム」
「分かりました」
副官ジムは男の上着を脱がした。中から出て来た男が異議を唱えた。
「止めてください。その男は何もしておりません。いきなり占い師が投げ飛ばしたのです。疚しい事があるのは占い師の方でしょう。占い師の方こそ取り調べてください!」
それを聞いた騎士の一人が声を上げた。
「怪しい女め!フードを取れ!」
それを聞いたフードの女がスチュアートの方を向いて声を上げた。
「フードで顔を隠している理由は後ほど隊長様と副官様にお見せします。ですが、命令も無く声を上げ、被害者を加害者扱いしようとする者はきっとこの陰謀に関わる者です。その者を今回の捜査から外してください」
スチュアートは一瞬で判断した。自分の店で多分ライバルを迎え撃っている占い師。理由も無く占い師を誹謗する来客と部下。陰謀だとするとどちらが加害者の可能性が高いかは明らかだ。
「ディーン、ノーランと交代しろ。バート、その男を拘束しろ」
「お止めください!我々は被害者です」
「理由も無く他人を誹謗中傷する者が被害者か。騎士の取り調べに抵抗するなら反逆の意図ありとして処罰するが、それで良いか?」
「……」
「スチュアート様」
まだ呻いている男を調べていた副官がスチュアートを呼んだ。男の内ポケットから出て来た紙包みを副官は開いて見せた。
「なるほど匂うな。麻薬の一種だ」
拘束されている男が声を上げる。
「そんな馬鹿な!きっと女が仕込んだんです!」
「意図しない事なら、そこまで口が回らないのが普通だ。我々は禁止薬物を持つ者がこの辺りにいると通報を受けてやって来た。禁止薬物を持つお前等を連れて帰るのが今回の任務と言う訳だ。これ以上喚いて占い師を誹謗中傷するなら、営業妨害とみなして猿轡を噛ませるが、それで良いか?」
スチュアートの言葉に男は黙った。猿轡を噛まされて街中を引き回されたらもう王都で商売が出来ない。
スチュアートはフードの女に向かって言った。
「占い師だな?君も捜査の対象だ。中を見せてもらうぞ」
「ええ、もちろんです」
マーシア王国は最南端が海岸になっていて、きっと東方航路があるんです。だから八卦とか言っている…多分。




