↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【観測者の時空】――『彼女の時空』外縁、与えられた役割から卒業し、不完全な世界で自分の物語を選んでいく  作者: Taku
物語編 ゼロ『観測対象、カノジョ』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/67

第5話「削除不能」

【対象:カノジョ】

【測定:近距離】

【分類:異物の予備群】



距離を詰めた。


カノジョの位置は、公園のベンチから動いていない。移動の予兆はない。


彼女はそこに座り、何かを見ている。視線の先は特定できない。空か、木々の間か、あるいは何もない場所か。


カレシは測定機器を展開し、対象の身体信号の取得を開始した。測定距離は3.2メートル。案内人の観測における標準的な近接値だ。それ以上近づくと、対象に認識されるリスクが生じる。



指先に出ている信号が、許容の外側にある。振幅も持続も、案内人の基準値には入らない。


カレシはまず測定だけを確定させた。名づけはしない。異常というフラグだけを付す。それだけで十分なはずだった。


削除を実行した。


通らなかった。


権限不足ではない。対象の保護設定でもない。コマンドは受け付けられ、結果だけが戻らない。


ログには【削除:失敗】とだけ残る。理由欄は空だ。カレシは手順を再確認した。校正。固定。実行。すべて正しい。それでも、削除はされない。



再測定した。



数値が前回と一致しない。同じ指先、同じ距離、同じ校正。なのに、外側へずれる方向が変わる。誤差の範囲としては説明が足りない。再削除。通らない。


カレシは手順を最初から踏んだ。校正、固定、実行。



「……再実行」



声に出した場合ではない。入力の確認に近い。それでも、結果は変わらなかった。


削除はされない。値が残る。


カレシは測定機器のログを遡った。同じ指先の信号が、いつから許容値を超えていたのか。


正確な時刻は特定できない。記録が欠けている。ルートを外れはじめて以降、タイムスタンプに混じる欠番と同じ種類の空白が、データの連続性を断ち切っている。


なぜ、そこだけ抜けているのか。理由は記録されていない。


カノジョが、自分の指先を見た。視線の先は測定の対象そのものだ。


カレシは静止した。測定を続けるべきか、中断すべきか。その判断が、一瞬遅れた。



「それ、私の?」



カレシは答えなかった。


肯定も否定も、記録に残さない。質問自体を対象外にはしなかった。ただ、返答の欄を空のまま進めた。


カノジョはそれ以上問わなかった。自分の指先を見つめたまま、動かない。


カレシはその沈黙を測定した。3.7秒。応答のない間として記録された。


カノジョの指先は、まだ信号を発している。削除不能のまま、そこにある。


カレシは測定機器を操作し、信号の波形を表示させた。規則的ではない。周期に乱れがある。


案内人の信号は、より均一で、より予測可能なはずだ。この波形は、そのどちらでもない。カレシはその波形を、保存した。削除できないものとして、分類した。



測定と削除のループを、規定回数で止めた。止めたあとも信号は消えていない。名づけないまま、残置するしかない。カレシは次の行動を記した。



【次工程:回収】

【理由:原則違反・削除不能】

【実行日時:指定済】



迷いはログに書かない。書かなかったことが、記録の外側にだけ残る。


カノジョの指先は、まだ測定範囲の中にあった。カレシはそこから視線を外し、手順書の次行を開いた。



【観測:一時停止】

【回収:準備】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。