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【観測者の時空】創作エッセイ―その違和感は、未来のバグです― 「あなたの思考は、すでに先回りされている」  作者: Taku
A面:違和感の観測

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10/23

第5話前半 「ランチ編:選ばされた選択」

昼休み、社員食堂はいつもより混んでいた。


康介はトレーを持ったまま、少し立ち止まる。

メニューは三つ。

Aランチ、Bランチ、日替わり。


その横に、小さく表示されている。

「本日のおすすめ:Aランチ(満足度92%)」

「SNSでの投稿数:今週最多」

「あなたにおすすめ:Aランチ」


康介は、画面を見つめた。

92%——ほぼ外れない数字だ。

今日は特に迷う理由もなかった。


(まあ、これでいいか)


康介は迷わずAを選んだ。

トレーに載せ、会計へ。並ぶ列もスムーズに進む。

周囲を見ても、ほとんどが同じものを取っている。

誰も迷っていない。誰も立ち止まらない。

これが「正しい」のだから。


「またそれ?」


後ろから声がした。


振り向くと、純がいた。

自分のトレーには、日替わりが載っている。

康介は、少しだけ意外に思った。


「珍しいな、日替わりなんて選んで」


「別に。気分で」


純はあっさり言った。

でも、その口調には、どこか「わかってるでしょ」というニュアンスが混じっていた。


席に着く。


康介はAランチを広げる。

彩りも良く、栄養バランスも完璧。

味も、間違いなく美味しい。

温度も、ちょうどいい。


「いつもそれだね」


純が言う。


「外さないからな」


康介は軽く笑う。

「効率いいだろ」


「ふうん」


純は、特に反論しない。

ただ、自分の日替わりにフォークを入れた。

味噌汁を一口飲んで、少しだけ眉をひそめた。


「……しょっぱい」


「外れたんじゃないか?」


康介が笑うと、純は首を振った。


「ううん。これでいいの。

 毎回同じじゃ、味覚えられないでしょ」


康介は、一瞬だけ手を止めた。


毎回同じ——たしかに、ここ数週間、ずっとAランチだった。

なぜか。美味しいから。それ以上でも、それ以下でもない。

でも、その「美味しい」の基準は、誰が決めたんだろう。


自分の舌か。

それとも——画面に表示された数字か。


「でさ」


純が続ける。


「昨日の企画、あれも“おすすめ”?」


「データ的に一番成功率高かったからな」


「ふーん」


純は箸を止めた。


「じゃあ、失敗する可能性がある案は、最初から消えてるわけだ」


「当たり前だろ」


康介は即答した。


「成功する確率が低いなら、やる意味ない」


一瞬、沈黙。


「……それ、ちょっと怖くない?」


純が、静かに言った。


「何が?」


「全部、“当たり”だけ選び続けてたらさ」


純は、少しだけ言葉を探した。


「“自分で当てた”感じ、なくならない?」


康介は、答えなかった。


代わりに、味噌汁を一口飲む。

温度も、味も、ちょうどいい。

——ちょうどよすぎる。


確かに、外したことはない。

でも——自分で「これがいい」と決めた記憶が、なぜか薄い。

誰かが決めた「正解」を、ただ受け取っているだけのような気がした。


そのとき。


✧ ✧ ✧


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