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王室騎士 (Royal Knight)(1)

 「彼女……彼女、大丈夫なのかな?」


 借りた寝室の前で待つリオナラは、明らかな不安を声ににじませて尋ねた。ギルドの代表としての責任から、ルシーナも彼女の傍らにいた。


 「私は……」


 彼女は言い淀んだ。彼女に何と言えばいいのか分からなかった。ルシーナにとっては、どれほど手を尽くそうとも、奇跡でも起きない限りプリシラを救うことはできないのが痛いほど分かっていた。


 「私には分からないわ、リオ」


 リオナラは胸元に両手を当て、それを固く握りしめた。腰の剣が重く感じられた。これまでに背負ってきたどんな重荷よりも重かった。


 「彼女は……彼女は生きる。絶対に」高等エルフの少女は、手を震わせながら言葉を紡いだ。「生きなきゃおかしいよ! プリシラのことなんだよ!?」


 部屋の扉が開き、リオナラは希望を抱いて医師の方を振り返った。しかし、彼の表情がすべてを物語っていた。彼は言葉を交わすことさえせず、ただルシーナに向けて首を横に振ると、その場を立ち去った。


 恐ろしい悪寒がリオナラの五感を襲い、彼女は部屋へと駆け込んだ。プリシラは、かろうじて目を覚ましていた。彼女はリオナラの中にある騎士としての己のイメージを保とうとするかのように、かすかな笑みを浮かべていた。


 だが、彼女は微動だにしなかった。できなかったのだ。身体を動かすことは苦痛であり、話そうとすることはさらに体力を消耗させたが、痛むにもかかわらず――彼女はリオナラに話しかけることを選んだ。


 「リオ」


 その声は弱々しく、かすれていた。高等エルフの少女は涙をこらえながら、辛うじて声を絞り出した。


 「は、はい……?」


 「こっちへ……」


 彼女は腕を持ち上げることさえできず、ただ右の掌を上へと向けた。リオナラは彼女に近づき、ベッドの脇に膝をつくと、その手をそっと握りしめた。


 「どうしたの、プリス?」


 「生きるのよ。あなたが本来送るべきだった人生を……」


 「い、生きてるよ。プリスも私と一緒にここにいるじゃない」


 騎士はゆっくりと目を閉じ、ごくわずかに首を横に振った。


 「生きるのよ。私のためでも、他の誰のためでもなく……あなた自身のために、リオ」


 高等エルフの少女は、しゃくり上げながらも、無理に笑おうとした。


 「な、何言ってるの……?」


 彼女の小さな手は震え、プリシラの手を強く握った。


 「プ、プリス、私はあなたの傍に立ってるって言ったじゃない……」


 「……」


 騎士の唇の笑みは、徐々に苦渋の表情へと歪んでいった。彼女は次に目を閉じる時が、本当に最後になることを悟っていた。


 「ありがとう、リオ」


 「嫌だよ、プリス! 死んじゃ駄目! あな、あなたは王室騎士でしょう!? 『騎士の三人組ナイツ・トリオ』の魔剣士じゃない!」


 彼女の胸は痛々しく締め付けられ、心臓が激しく鼓動した。まるで内臓が引き裂かれるかのようだった。


 「あなたは私の英雄なんだよ! 私が歩み続ける理由なんだよ! 私が家族って呼べる唯一の人なんだよ!」


 プリシラは笑おうとしたが、身体が言うことを聞かなかった。彼女は必死に意識を保とうとしていたが、すべてが冷たくなっていくのを感じていた。


(あぁ……私の旅は、ここで終わるのね……)


 瞼が重くなっていくにつれ、リオナラの懇願する声さえも聞こえなくなっていった。


(申し訳ありません、女王陛下……私は……己の……義務を……果たせませんでした……)


 疲れたような短い息を最後に、彼女は息を引き取った。


 リオナラはそっと彼女の手を揺さぶった。


 「プリス……? プリス。プリシラ……! 嘘でしょ……そんなのってないよ……嘘だ……」


 ルシーナは目を閉じ、視線を逸らした。


 その朝は、長く、そして過酷なものとなった。


 階段のふもとまで、絶え間ない泣き声が響き渡っていた。カーラもゲロルトも、哀れな高等エルフの少女を救うために自分たちが何をできるのか分からずにいた。


 アルカディアは一人の騎士を失った。幼き高等エルフは自らの英雄を失い、それでも世界は冷酷に、そして不確かに回り続けていた。


 数時間が経過しても、リオナラはもう流す涙も残っていないというのに、プリシラの遺体に縋ってむせび泣き続けた。やがてルシーナが彼女の肩に手を置き、優しく言った。


 「リオ、私たちは……」


 彼女は生唾を飲み込み、言葉を続けた。


 「彼女を正しく、葬ってあげなければならないわ」


 「私は……ルシーナさん……私……できない……まだ、まだ嫌だよ……」


 「……分かったわ。準備をしてくるから、お願いだから無茶なことはしないでね」


 ルシーナは静かに部屋を出て後ろの扉を閉め、リオナラを一人残した。


 下の通りから聞こえる静かな足音が、まるで拷問のように彼女の耳に響いた。周囲の人々は知らないのだ。プリシラがどれほど偉大で、どれほど無私な存在であったのかを、知る由もないのだ。


(誰も……誰も知りもしないんだ……)


 リオナラは自分の両手を見つめ、それを固く握りしめた――あまりにも強く握りしめたため、爪が皮膚に食い込み、掌から血がにじみ出た。


(許さない……彼女をこんな目に遭わせたものを、私は絶対に許さない……!)


 彼女の身体から暗い瘴気が染み出し始めた。彼女が抱くすべての怒り、絶え間ない絶望、そして激しい憤怒が実体を伴い、黒い霧となって部屋中に広がり始めた。


 それがプリシラの遺体に到達した瞬間、彼女の右手がピクリと動いた。その突然の動きにより、リオナラは渦巻く憎悪から一瞬だけ正気に戻った。


 「プリス……?」


 黒い瘴気が彼女へと逆流した。痛烈な魔力の奔流が彼女を駆け巡り、彼女は胸を押さえて仰向けに倒れ込んだ。


 「ああぁ……っ! くうゥ……」


 細められた眼差しの向こうで、彼女はプリシラの身体が突如として跳ねるのを目撃した。亡くなった騎士の指の硬直が、痛々しく響く骨の軋み音とともに崩れ去り、死体はまるで何かに憑りつかれたかのようにのたうち回り――背を弓なりに反らせた。


 「プリス……! プリス!」


 彼女は懇願したが、無駄だった。痙攣していた死体は突如としてすべての動きを止め、まるで糸の切れた人形のように再びベッドへと崩れ落ちた。


 彼女の身体が再びぐったりとするのを目にした瞬間、リオナラの中で何かが弾けた。


 カビの生えた古い小屋の記憶が、彼女の脳裏に流れ込んできた。それはどこか懐かしく、温かいものに感じられたが、突然扉が激しく蹴破られた――粗暴な男たちが部屋へと押し入り、一人の少女を連れてきた。それはリオナラ自身だった。


(何……何が起きているの……?)


 「こいつらはどうする?」

 「老いぼれは殺せ。もう一人の小娘は放っておけ」


(殺す……?)


 視界が真っ赤に染まり、彼女の見覚えのない老人が目の前に現れた。彼は命乞いをしたにもかかわらず、まるで獣のように切り伏せられ、床に放置されて息絶えた。


 リオナラはその老人を知らなかったが、それはまさに彼女がプリシラを失った時と全く同じ感覚だった。冷酷で、容赦のない、死。


 「お父さん……! 死んじゃ駄目! お願い、私を置いていかないで!」


 彼女自身の声が脳裏に響いたが、彼女はそんな言葉を口にしたことなどなかった。彼女の世界において、父親は決して愛すべき存在などではなかった。それなのに、目の前の男はまるでプリシラのようだった。暗闇の中に灯る光――周囲の闇によって掻き消された光。


 「これで、私が何を感じていたか分かったでしょう、リオ」


 己の胸を掴んだまま、高等エルフの少女は横を盗み見て、ベッドの脇に立つ金髪の少女に気づいた。彼女はマットレスに小さな手を置き――エメラルドグリーンの瞳でリオナラをじっと見つめていた。


 「自分の世界すべてが崩壊するということが、どういうことなのか」


 「何……何を、言っているの……?」


 その瞬間、扉が突如として開き、ルシーナが数人の衛兵を連れて戻ってきた。彼女は床に倒れているリオナラを目にし、急いでその傍らへと駆け寄った。


 「何があったの?」


 受付嬢の声には明らかな動揺と心配が混じっていた。


 「私……胸が……痛い、の……」


 その間、四人の衛兵がプリシラの遺体に近づき、そのうちの一人が肩越しに振り返った。


 「ルシーナ殿、では彼女を兵舎へと運ぶ」


 「ええ、お願い……どうか、丁寧に扱ってあげてください」


 彼女はリオナラを腕に抱きながら答えた。しかし、その言葉を聞いた瞬間、高等エルフの少女は抗議しようとした。


 「嫌だ……! 駄目……彼女を私から連れて行かないで……!」


 彼女の懇願も虚しく、兵士たちはプリシラの硬直した遺体を持ち上げ、ゆっくりと部屋から出て行き始めた。


 「お願いだから……!」


 彼女はルシーナの手を振りほどこうと必死に暴れたが、受付嬢は彼女の抵抗にもかかわらず、容易にその身体を抑え込んだ。


 「リオ! お願いだから落ち着いて! 私たちには……もう彼女に何もしてあげられないのよ……」


 「嫌だ……! 彼女が死んでるなんて認めない……!」


 「リオナラ!」


 ルシーナは彼女を強く抱きしめながら叫んだ。それから、その声を和らげた。


 「プリシラは……プリシラは今、もっと良い場所にいるわ。死者の安らぎを拒んでは駄目よ、リオ」


 リオナラの視界の隅に、再び彼女の姿が映った。名前も知らないあの金髪の少女が、先ほどまでプリシラを覆っていたシーツが床にクシャクシャに落ちているベッドの脇を、見下ろしていた。


 「手を離すの?」


 彼女はリオナラと視線を合わせながら尋ねた。


 「それとも、その最後に残されたわずかな希望に縋り続ける?」

※次回更新は6月4日 21:30予定です。

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