聖騎士と王室騎士 (Paladin and Royal Knight)(2)
宿から数ブロック離れた通りで、ラインハルトは鍛冶屋へと向かいながら、重い足取りで地面を引きずるように歩いていた。その後ろを、心の中に後悔と安堵を入り混じらせながらエレインが静かについていく。
(答えは出たの、ライン? これまでの年月は無駄だったのか、それとも、無意味な苦行の中に救いなどないとようやく気づいてくれたのかしら)
ジェラルトの店に入ると、エレインは口を閉ざしたまま、ラインハルトがカウンターへ向かい鍛冶屋に声をかけるのを見守った。
「ジェラルト」
その騎士の毅然とした声は、百戦錬磨の鍛冶屋さえも驚かせた。
「明日までに、矢を何本用意できる?」
「矢だと? また迷宮に潜るつもりか?」
ラインハルトは一瞬躊躇したが、やがて頷いて答えた。
「果たしたい約束があるんだ」
「……そうか、分かった。それなら、二ダース(二十四本)ほどは用意できるぜ」
彼は木製のカウンターに身を乗り出し、ラインハルトの腰にある剣を顎で指し示した。
「ついでにその剣も研いでおいてやろうか? サービスだ」
騎士は剣を抜き、カウンターの上に置いた。
「恩にきるよ、ジェラルト」
「ああ、気にするな」
ジェラルトは店の奥へと向かいながら言った。
「すぐに終わらせてやる」
エレインがラインハルトに歩み寄り、静かに声をかけた。
「……彼女を助けるつもりなのね?」
「最後にもう一度だけ」
彼は彼女を見ることなく答えた。
「やり直してみるつもりだ。君がかつて私の中に見た、あの聖騎士に」
いつも感情を見せないエレインの顔に、一瞬だけ驚きの色が浮かんだ。だが、数秒後、彼女は目を閉じ、微かに微笑みながら頭を下げた。
(私たちの旅が、再び始まるのですね。我が主)
ラインハルトはカウンターの上の籠手を見つめ続け、やがてそれを固く握りしめた。聖騎士としての彼の力は決して侮れるものではないが、彼はそれを大義のために使うことを躊躇し続けてきた。そのことが今、彼に深い悲しみと後悔をもたらしていた。
(いつまで、この嘘の中で生きるつもりだ?)
その言葉が脳裏に響く中、彼は手を開き、小さな声で呟いた。
「確信なき力に意味はない」
一日が過ぎ、アリヴォールの街に新しい朝が訪れた。それはプリシラを待ち受ける新たな試練の始まりでもあった。
「プリス、もう行くの?」
騎士は、ベルトに水の入った乾燥した瓢箪の水筒を固定しながら頷いた。
「ええ、今日も迷宮へ向かうわ」
「大丈夫かな……?」
プリシラは微笑み、リオナラの髪を軽くかき混ぜた。
「もちろんよ。でも、言った通り戻るのは明日の朝になるから、忘れないでね」
「分かってる……」
リオナラはそれを思い出し、少し目を伏せた。
「気をつけてね、プリス」
「ええ、リオ」
「明日は『輝光の日(Radiance Day)』だから……帰ってきたら、一緒に露店を見て回れる?」
「あまり疲れていなければ、そうしましょう」
リオナラは自分に言い聞かせるように笑った。
「分かった。……約束だよ」
プリシラは頷き、迷宮へと向かった。背中にリオナラの視線を感じたが、彼女は決して振り返らないと心に決めていた。自分を慕う者の前で、騎士が後悔を見せるわけにはいかないからだ。
通りはほとんど人がいなかった。「輝光の日」の前日の朝は、いつもこのように静かだ。嵐の前の静けさである。
「プリシラ」
人混みの中から、落ち着いた男の声が彼女を呼んだ。横を向くと、そこには大きなリュックサックを背負ったフルプレートの騎士と、肩にロングボウをかけ、矢が詰まった三つの矢筒を背負ったエルフが立っていた。
「準備はいいか?」
エレインが自信に満ちた笑みを浮かべて尋ねると、プリシラもそれに応えた。
「ええ、いつでもいけるわ。行きましょう」
※次回更新は5月17日 21:30予定です。




