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勇気(2)

騎士は両手を前にかざし、詠唱を始めた。

「慈愛深き光の女神よ、この者に慈悲を垂れ給え。――ヒール!」


金色の粒子が彼の指先から解き放たれ、ゆっくりとプリシラの腹部へと降り注いだ。彼女の肌は同じ色で淡く発光し始め、腹部の貫通傷が塞がり始める。引き裂かれた肉が、細いつるのように伸びていき――互いに絡み合いながら、かつて傷口だった空間を埋めていった。


「わぁ……」

肉と筋肉が、まるでそれ自体が意志を持っているかのように編み上がっていく光景を、リオナラはかたずを飲んで見守った。


「奇跡っていうのは、大したものね」 エレインが静かに溜息をついた。「私も習っておけばよかったわ」

「静かにしてくれ。集中しているんだ」

ラインハルトが目を閉じたまま言った。処置の間、部屋は沈黙に包まれた。プリシラはその行為による微かな不快感に耐えながら、呼吸を整えて座っていた。


(まるで傷口の中で何かが這い回っているような……) 彼女は冷静さを保とうと努めながら考えた。(奇跡というのは、もっと安らかなものだと思っていたけれど……)


だが、精神で耐えようとしても、体は奇妙な反応を示していた。傷口を掻き毟りたいという不可解な衝動に駆られ、無視しようとすればするほど、その衝動は強くなっていく。


「んっ……」

傷の周囲の皮膚に、また別の不気味な這いずる感覚が広がり、彼女は声を漏らした。掻き毟りたくて仕方がなかった。それは拷問にも似た苦痛だった。だが、誰かに皮膚を剥がされるのとは違い――いわば自分自身の手で剥ぎ取りたいと切望してしまうような感覚。


彼女の指はベッドのマットレスに深く食い込み、足の指は内側に丸まった。感覚の過負荷から逃れようとする体の本能と理性が戦い、額には冷や汗が浮かぶ。

傷はこの時点で指先ほどの深さもなくなっていたが、プリシラは別の違和感に襲われていた。


(どうして……こんなに、お腹が空くのかしら?)

体が衰弱し、神経が過敏になっていく。四肢に微かな震えが走り始め、彼女は筋肉に力を込めてそれを抑え込もうとした。


彼女が体の異変を隠そうとしても、レンはその兆候を見逃さなかった。彼は立ち上がり、短く言った。

「少し下へ行ってきます。すぐに戻ります」

彼らが頷くと、彼は静かに部屋を出ていった。


その間も、ラインハルトは着実にプリシラの治療を続けた。リオナラとエレインはその様子を傍らで見守っていた。

ハイエルフは剣を固く握りしめていた。彼女は信心深いわけでも、祈り方を知っているわけでもなかったが、王室騎士が再び自分の足で立てるようになることを、心から願っていた。


しかし、その願いに反して、プリシラは震える右手を上げて制した。

「ラインハルトさん、少し止めて……息を……息を整えさせて……」


彼は言われた通りに手を止めた。王室騎士が自分の腹部を見下ろすと、かつての貫通傷は、大きな新しいかさぶたに覆われた軽い擦り傷程度のものになっていた。彼女のような実戦経験者にとっては、珍しくもない程度の傷だ。


「……加減はどうだ?」

彼が尋ねた。

「ひどくお腹が空いているわ。でも、気分はずっといい」


その言葉を聞いて、リオナラは安堵の溜息を漏らし、微笑んだ。

しばらくして部屋の扉が開き、肉のスープ、ゆで卵、そしてスライスされたパンが乗ったトレイを手にレンが戻ってきた。彼はラインハルトを一瞥して尋ねた。

「終わりましたか?」

「ほぼな。傷口は塞がっている」

「ああ、よかった」 彼は中に入り、ポーチの横のナイトスタンドにトレイを置いた。「食べられますか?」


プリシラは苦笑した。

「死ぬほどお腹が空いているわ」

彼女は横を向こうとしたが、体は極度に衰弱しており、左側に少し傾いただけで、結局ベッドに倒れ込んでしまった。「う……」


「誰かに食べさせてもらう必要がありそうですね」 医者はリオナラを見た。彼女は何か言いかけていたが、まだ勇気が出ない様子だった。「ジェンヌさん、彼女を助けてあげられますか? 私は連れと街で急ぎの用事があるのです」

「あ……は、はい。できます」


ラインハルトとエレインが互いに目配せをし、無言の合意を交わすと、エルフが言った。

「私とラインハルトも下で食事を摂ってくるわ。二人が終わった頃にまた戻ってくるから」


そして、来た時と同じくらいの速さで全員が部屋を去り、リオナラとプリシラだけが後に残された。窓の下の通りから聞こえる話し声だけが、二人の間の気まずい沈黙を埋めていた。騎士がハイエルフの表情を覗き込むと、喜んでいるような顔の裏に、言葉にできない痛みが隠されているのが分かった。


「リオ……」

「プリス」 痛みを感じながらも、彼女は確信に満ちた強い口調で言った。「……自分を責めるのは、もうやめてください」

「え……?」

プリシラも、そしてリオナラ自身も、その言葉に驚いた。「何を――」


「あなたの誓いが、あなたにとって世界のすべてだっていうのは分かってます。でも、あなたにとっての誓いと同じように、私にとっても、あなたが世界のすべてなんです」 彼女は鞘入りのロングソードを、騎士のレイピアの隣の壁に立てかけ、ベッド脇の丸椅子に座った。「……あなたいなくなってって言われた時、悲しかった」 涙が溢れそうになり、彼女は深く息を吸って、無理やりそれを飲み込んだ。「でも、あなたは、私に『この世界にもまだ、いい大人がいるんだ』って教えてくれた……私の『騎士様』なんです。だから、お願い……自分を責めないで。あなたは誰よりも私を守ってくれた。生きる理由をくれた。でも……私の安全は、あなただけの責任じゃないんです」


その言葉を聞いた後、プリシラはリオナラの瞳をじっと見つめ返した。かつての臆病な少女からは予想もできなかった、揺るぎない確信がそこにはあった。


「……あなたは、本当に変わったわね、リオ」

彼女は静かに微笑んだ。胸の中に、誇らしい気持ちが広がる。ずっと自分が彼女を守っているつもりだったが、あの「幼い少女」は、暴君の不幸な子供以上の存在であることを証明してみせた。今のリオナラは、人生に正面から向き合おうとする者の強さを備えていた。


騎士は彼女に手を差し出し、尋ねた。

「……手伝ってくれるかしら?」

一瞬の間の後、リオナラは温かく微笑み、頷いた。

「もちろんです」


プリシラは時間をかけて食事を摂った。傷口は塞がったものの、疲労感はかつてレオナルド団長の下で訓練に励んでいた日々にも匹敵するものだった。一口ごとに、そして水の一飲みごとに、体は次第に落ち着いていった。あの不気味な疼きや這いずるような感覚は消え去り、宿の料理の心地よさと、リオナラがそばにいてくれる温もりが彼女を満たしていく。

数分後、プリシラは食事をすべて平らげた。


「ありがとう、リオ」 彼女はベッドの背もたれに身を預け、安堵のため息をついた。「あなたが言ってくれたことについて考えていたけれど……それでも、私はあなたに伝えておく義務があると思うの」


プリシラの赤い瞳に、真剣な輝きが宿った。

「私は、民のための騎士であることをやめはしない。それは女王陛下の騎士になった時に、自分自身に誓ったことだから」 その言葉にリオナラの胸が締め付けられたが、彼女が目を伏せようとした瞬間、プリシラが彼女の手に自分の手を重ねた。「でも、あなたの覚悟は忘れない。あなたの決意、確かに見せてもらったわ、リオ」


「プリス……私は……ただ、あなたを失いたくないだけなの……」

「ははっ、私が誰だか忘れたの?」 彼女は開いた手のひらを自分の胸に当てた。「私は王室騎士よ。女王陛下から授かったポーションは失ってしまったかもしれないけれど、私の魂は今も熱く燃え続けているわ」


プリシラの微笑みは、浮かんだ時と同じくらいの速さで消えた。彼女は深く息を吸い、どこか悲しげな表情を浮かべた。

「とはいえ、遅かれ早かれ、私はあの迷宮ダンジョンへ向かわなければならない。それがいつになるかは分からないけれど……私があなたのそばにいられない時が来るわ。その時、あなた一人でやっていけるかしら?」


リオナラの瞳の端に涙が溜まったが、彼女はそれを服の袖で拭い、苦しげな、けれどもしっかりとした笑みをプリシラに向けた。

「はい。やってみせます……プリス」

※次回更新は5月7日 21:30予定です。

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