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騎士の在り方(1)

太陽は高く昇り、兵舎の訓練場では衛兵たちが訓練に励んでいた。彼らはそれぞれのテンポで、足運びや斬撃、刺突の練習を訓練用の木柱ペルに叩き込んでいる。

 リース隊長は両手を後ろに組み、その様子を視察していたが、一人の若い衛兵が彼に近づいてきた。


「隊長、面会の方が兵舎に来られています」

「面会だと?」

「アステラのユリエルと名乗っております」

「そうか」

 リースは短く頷くと、訓練中の衛兵たちを振り返った。

「休憩! 私が戻るまで休んでおけ」


衛兵たちは一斉に応えた。

「はっ!」


隊長は落ち着いた足取りで兵舎の入り口へ向かった。そこでは、ハルバードを構えた四人の衛兵に阻まれるように、灰色の髪をした巨漢が立っていた。目の前の男はただ巨大なだけでなく、腰の両側に下げた二丁の手斧が、彼が単なる「筋肉の塊」ではないことを雄弁に物語っていた。


「ユリエル」

 リースは微かな笑みを浮かべて声をかけた。

「何の用だ?」


「あんたに話があってな」


「分かった」

 リースが門へ近づいても、衛兵たちは構えを解こうとしなかった。彼は一人一人の肩を叩いて宥めた。

「落ち着け、私の友人だ。持ち場に戻れ、後は私が引き受ける」


「は……はっ、隊長!」


衛兵たちが去った後、隊長と巨漢は互いに真剣な表情で見つめ合った。張り詰めた空気が漂う中、リースは右手の親指と人差し指を擦り合わせながら口を開いた。


「……セシルのことか?」

 ユリエルが頷いた。

「いくらだ?」


「金貨五枚だ」


リースは歯を舌でなぞり、一歩脇へ避けた。

「私の執務室へ行こう。そこで話す」


「ああ」


兵舎の建物に配置された衛兵たちは、隊長が後ろに「山のような大男」を連れて入り口へ向かうのを不安げに見守っていた。年配の衛兵の一人が武装を解くよう要求しようと前に出たが、リースが軽く手を挙げて制したため、彼は大人しく引き下がり、二人が建物の中へ消えていくのを見送った。


執務室に入ると、リースはデスクの向こうの椅子に座った。ユリエルは置かれていた木製の椅子を脇にどけ、そのまま床に腰を下ろした――それでも、彼の長身はデスクの表面よりもわずかに高かった。


「それで」

 リースは小さな硬貨の袋を掴んでテーブルに置くと、中から正確に金貨五枚を取り出した。

「……彼女の様子はどうだ?」


「生きてはいる」

 ユリエルの声には、わずかな悲しみが混じっていた。

「だが、良くはない。あの魔術師どものせいで、ひどい有様だ」


「そうか……」

 リースは再び指を擦り合わせながら続けた。

「あの癒し手はどうした? 去ったのか?」


「数週間前に出たよ。アルカディアに彼女を助けられる奴がいると言っていたが……彼女がそこまで持つとは思えん」


リースはゆっくりと頷いた。それは苦い知らせだった。彼はデスクの下から別のポーチを取り出した。それは手のひらほどの大きさの、革で編まれ、補強された小さな袋だった。

「これだ。これを彼女に届けてくれ」


彼はその袋を慎重にデスクに置き、ユリエルの方へと押しやった。リースがいかにそれを大切に扱っているかを見たユリエルは、驚くほど丁寧にそれを拾い上げた。

「……これは何だ?」


「ポーションだ」


「ポーション? あんたも知っての通り、あんなものは――」


「それは本物だ」


ユリエルは眉を上げ、ポーチを開けた。中にあるガラスの瓶には、底の部分にルーンの呪文が刻まれており、中の液体は鮮やかな血のような赤色をしていた。その液体は、まるで生きているかのように微かな光を放っている。


ユリエルは慎重にポーションを袋に戻し、リースの目を見据えて尋ねた。

「どうやってこれを……?」


「聞くな」

 リースは静かな敗北感と共にため息をついた。

「……とにかく、確実にセシルに届けてくれればそれでいい」


「……分かった」

 巨漢はテーブルの上の金貨を掴んでポケットに入れ、立ち上がった。

「彼女が回復したら、必ずあんたを訪ねるように言っておく」


「ははっ、その必要はない。一週間経ってもあんたが戻ってこなければ、それで十分だ」


ユリエルは静かに頷いて応え、執務室を後にした。リースは椅子に座ったまま、やがて力尽きたように肩を落とし、深くこうべを垂れた。


(許してくれ、プリシラ……)


外に出たユリエルは、兵舎の敷地を抜けて通りへと向かった。ポケットは重かった。それは枚数によるものではなく、そこに込められた責任の重みだった。


巨漢の姿は、安売りを探して歩き回る市民たちの間で嫌でも目立ち、畏敬の念とわずかな恐怖から、しばしば注目を集めていた。

(あと少しだ……)

 彼は東の正門へと足を進めながら考えた。一刻も早く街を出れば、それだけ早く、最もそれを必要としている者にポーションを届けることができる。


「おっと!」


ユリエルは自分の脚に誰かがぶつかってくるのを感じた。見下ろすと、漆黒の髪をした若い女性が地面に倒れていた。

「大丈夫か?」


彼が膝をつくと、彼女が鞘入りのロングソードを手に持っているのが見えた。服を見る限り、どこかの下っ端の従騎士スクワイアのように見えたが、髪の間から突き出た尖った耳を見て、その考えはすぐに消えた。

 彼女は顔を上げ、無理に笑みを作った。

「あ、すみません。前をよく見てなくて……」


ユリエルが手を差し出すと、若い女性は躊躇いながらもその助けを借りて立ち上がった。彼女の穏やかな瞳と控えめな態度は、セシルを思い出させた。彼は本能的に尋ねていた。


「……どこかへ向かっているのか?」


「えっ? いえ、特には……」


「……少し、話でもするか?」


その時、彼女は足を止め、彼を真っ直ぐに見つめた。一瞬、心当たりがあるような表情を見せたが、彼女は再び頭を下げて呟いた。


「ご迷惑でしょうから……」


彼は思わず微かに微笑み、背を向けた。

「気にするな。ただの話し相手なら迷惑でも何でもない」


彼女はもう一度彼を見上げ、ゆっくりと視線を落とすと、二度頷いた。

※次回更新は5月1日 21:30予定です。

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