小さな一歩(3)
二人は寄り添うようにして、ゆっくりと歩いた。
リオナラはポンチョの下で金袋を両手で大切に抱えながら歩いていた。彼女の碧い瞳は、まるで供え物のように広げられた品々の間を、次から次へと好奇心いっぱいに飛び跳ねていた。
並んでいたのは主に一般市民向けのアクセサリーや子供向けの小物だった。この時間帯、腕利きの冒険者たちはダンジョンへ、汗を流す農夫たちは仕事場へ向かっており、広場にいる客層が入れ替わっていたからだ。
「わあ……」
リオナラは思わず吐息を漏らした。そこにはブレスレット、ネックレス、指輪、イヤリングなど、素材も形も大きさも様々なものが並んでいた。
「すごく、きれい」
「ありがとうございます、お嬢ちゃん」
商品を売っている髭の商人がリオナラに微笑みかけた。彼は洗濯された清潔な白いローブと同じ色の帽子を身につけていた。不思議なことに、商品が並べられた敷布は、彼自身の服よりもずっと上質なものだった。
「よかったら、試着してみていいですよ」
「い、いいの?」
男は頷いた。リオナラは金袋を膝の上に乗せてしゃがみ込み、宝石を眺めた。様々な金属が使われていたが、中でも銀や金、そしてガーネットやトルマリン、色とりどりの水晶があしらわれたものが一際目を引いた。
リオナラは銀のガーネットのブレスレットを手に取り、手首に嵌めてみた。品物自体は美しかったが、彼女にはあまりにも大きく、腕を下げればすぐに抜け落ちてしまいそうだった。
彼女は悲しそうな顔で商人を見上げた。
「も、もっと小さいのはない……?」
「申し訳ないが、お嬢ちゃん、これ以上小さいのは置いてないんだ」
男は申し訳なさそうに答えた。
「そんな……」
「ネックレスにすればいいんじゃないかしら」
プリシラは膝をつき、商人をちらりと見た。
「紐も売っているの?」
「紐ならありますよ……」
彼は隣の袋に手を伸ばし、編み込まれた麻の紐を取り出した。
「何か買っていただけるなら、紐はサービスしましょう」
リオナラの瞳が再び輝き出し、先程のブレスレットを手に取った。
「こ、これにする。いくら?」
「それは銀貨五枚だ。ペアで買ってくれるなら八枚でいいよ」
「ペア?」
「ああ、この二つは同じガーネットから作ったんだ」
彼は中心にそっくりな宝石が埋め込まれたもう一つのブレスレットを見せた。
「ほら」
彼はそれをリオナラの手渡し、彼女はしばらく二つの宝石を見つめていた。そして顔を上げると、精一杯の勇気を振り絞って言った。
「そ、それじゃあ、二つとももらうね」
「まいどあり」
男が紐を切り分けている間、リオナラは袋から銀貨八枚を取り出して手渡した。
「ありがとうございました、お嬢ちゃん。はい、紐とブレスレットだ」
品物を受け取ると、少女は立ち上がってお辞儀をした。
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
プリシラも礼を言って立ち上がると、二人は商人の元を離れ、宿へと向かい始めた。
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帰り道、リオナラは買ったばかりの宝石をいじりながら、どこか落ち着かない様子でそわそわしていた。その様子に気づいた騎士が声をかけた。
「どうかしたの?」
「えっ?」
リオナラはびくりとして、目を丸くして彼女を見た。
「あ、ううん、別に。ただ、その……」
彼女は視線を泳がせながら何度か瞬きをし、腕を差し出した。
「これ、プリスにあげたくて」
彼女はプリシラにブレスレットを差し出した。騎士は一瞬躊躇したが、そっと少女の手に自分の手を重ねた。
「私の分まで買わなくてよかったのに」
「う、ううん。……私が、したかったことだから」
プリシラは目を閉じ、小さく笑ってから贈り物を受け取った。
「ありがとう、リオ」
彼女は紐とブレスレットを受け取ると、それをネックレスに仕立てて首にかけ、チェインメイルの下に仕舞い込んだ。
「手首につけたいけれど、剣を抜く時に邪魔になるかもしれないから」
彼女はブレスレットがある場所の上に手を当て、静かに微笑んだ。満足そうなプリシラを見て、リオナラも笑顔になった。
「えへへ……お礼を言うのは、私の方だよ、プリス」
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プリシラに手伝ってもらってブレスレットをネックレスにした後、二人は宿の中に入った。広間は相変わらず静かで、隅の方でゲロルトがエールの半分入った木製のジョッキを片手に休んでいるだけだった。
「おお、おかえり」
彼はだらしない姿勢のまま声をかけた。
「ちょっとしたお出かけはどうだった?」
「ええ」
プリシラは辺りを見回しながら短く答えた。
「カーラはどこ?」
「ああ、夕食の買い出しに行ったぜ」
「そう……」
騎士がゲロルトの隣のテーブルに座ると、リオナラは男の方へ駆け寄り、ネックレスにした新しいブレスレットを自慢げに見せた。
「ゲロルト、見て!」
彼女は胸を張り、宝石を持ち上げた。
「これ、買ったの!」
「ほう? よくやったな、お嬢ちゃん。お母さんにお小遣いをもらったのか?」
その言葉に、プリシラは顔を赤くして視線を逸らした。だが、それは必ずしも良い気分ではなかった。リオナラの本当の年齢を知っているのは自分だけだという事実が、どこかほろ苦く胸に刺さった。
「私は母親じゃ……」
彼女は独り言のように呟いた。リオナラは不思議そうに首を傾げた。
「おこづかい? なあに、それ」
「んー……子供がお金の使い道を覚えるために、少しばかり硬貨を分けてやることだよ。昔、俺とカーラがアステラにいた頃は――」
「昔は子供たちの面倒を見ていたのよ」
ゲロルトの説明を遮るように、少し苛立った様子のカーラが口を挟んだ。彼女は両腕に大きな麻袋を抱えて店に入ってきた。
「ウラジーミル様が、子供たちに算術やお金の正しい使い方を教えていらしたわ」
「ウラジーミル様?」
リオナラが騎士を振り返ると、彼女は咳払いを一つして答えた。
「アステラの市長よ。東海岸の近くにある街で、歩いて数日の距離にあるわ」
「へえ……そうなんだ。その市長さんは、子供たちを助けてくれるの?」
「まあ、そう言えなくもないわね」
カーラは厨房に一番近いテーブルの上に袋を置いた。
「ゲロルト、これをパントリーに運ぶのを手伝って」
男は深く息を吐き、飲み物を飲み干すと立ち上がった。
「おうよ」
リオナラはゲロルトとカーラを見て、声を上げた。
「わ、私も手伝う!」
「あら?」
カーラは両手に大きなキャベツを二つずつ抱えたまま、驚いた表情で自分より半分の大きさの少女を振り返った。
「なんて頼もしい子かしら」
「えへへ」
満面の笑みを浮かべ、リオナラはゲロルトの後についていき、夫婦が大量の食材を厨房の奥へ運ぶのを手伝った。
※次回更新は3月30日 21:30予定です。




