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騎士の二人(4)

魔法剣士(スペルフェンサー)は迷うことなく立ち上がり、宿を出た。

 朝の街並みは穏やかで、行き交う人々もまだまばらだった。広場へと向かう道すがら、宿に食事をしに行く農夫や、中央広場の商業エリアへ荷物を運ぶ労働者たちの姿が見られた。


 中央広場に近づくにつれ、足音と喧騒が大きくなっていく。

 ギルドの前には再び冒険者たちが列を作り、煤と火薬、そして油の匂いが朝の空気に混じっていた。商人たちは燻製肉や乾燥肉(ペミカン)、ランタン、さらには採掘用のあらゆる道具を並べていた。


 辺りを見渡したが、兵舎がどこにあるのかは定かではなかった。


(貴族街の近くかしら……?)


 アリヴォールのような商業都市にとって、街を動かしている者たちの安全を確保することは最優先事項だろう。そう考えれば合点がいく。


「よし……」


 彼女が街の北側へ向かおうとしたその時、右側から聞き覚えのあるしわがれた声が響いた。


「よう、お嬢ちゃん!」


 振り返ると、そこにはゲロルトがいた。


「街の兵舎を探しているの。何か?」

「いいぞ、その意気だ! あの『ブラック・アサシン』と刃を交えて生き延びたんだからな。大したもんだ」


 その言葉に、彼女は驚いて眉を上げた。


「え? どうしてそれを知っているの?」

「あん? 街中の噂だぜ。街の触れ役(タウンプライヤー)までお前の手柄を言い触らしてるくらいだ」

「はぁ?!」


 彼女の驚きは、遠くから聞こえてくる鐘の音にかき消された。


「聞けい! 聞けい! 悪名高きブラック・アサシン、ついに捕らえられたり! 銅級冒険者プリシラ・アヴェリオン、アリヴォールに正義をもたらさん! 聞けい! 聞けい!」


 プリシラは、腹の底から顔にかけて猛烈な羞恥心がこみ上げてくるのを感じた。


      ---


 中央広場を抜けると、通りには衛兵の巡回が目立つようになった。


「失礼します。兵舎はどこにありますか?」


 プリシラは先頭を歩く衛兵の一人を呼び止めた。

 真ん中にいた若い衛兵は彼女を鼻で笑いながら眉を上げた。


「どこのどいつがそれを知りたいんだ?」

「銅級冒険者のプリシラ・アヴェリオンよ」


 その名を聞いた瞬間、衛兵はたじろぎ、他の二人も驚愕の表情を浮かべた。


「おお、失礼を。あんたのような英雄が兵舎に何の用だ?」

「報酬の受け取りよ」


 彼女は上着のポケットから預かり証(プロミソリー・ノート)を取り出し、彼らの前で軽く振ってみせた。

 衛兵は振り返り、塗装が剥げかけた淡い青色の壁の建物を指差した。


「あそこだ。隊長を訪ねな。中にいるはずだ」

「ありがとう」


 彼女は手紙をポケットに仕舞うと、彼らの横を通り過ぎて先を急いだ。背後で衛兵たちが小声で囁き合うのが聞こえた。


「本当にあいつが、あの男を仕留めたのか?」

「貧民街の狭い路地で、レイピア一本でか?」


      ---


 プリシラは既に兵舎の門の前に立っていた。


(強さに性別なんて関係ないわ)


 彼女は右の手のひらを見つめ、それを力強く握りしめた。


(私の手にある剣は、隊長の手にある時と同じように致命的な一撃を放てる)


 彼女は拳を緩め、鉄の門をくぐった。入り口には長柄斧槍(ハルバード)を持った二人の衛兵が立っていた。

 右側の衛兵が前に出て彼女を制止した。


「止まれ。何の用だ?」

「報酬を受け取りに来ました」


 衛兵は紙を確認し、彼女に返した。


「なるほど。入っていい。だが、武器はここに置いていってもらうぞ」

「武器を?」

「隊長に会うのに、武装したまま通すわけにはいかん。兵舎の決まりだ」

「……分かったわ」


 彼女はレイピアをベルトで巻き、衛兵に手渡した。


「感謝する。隊長の執務室は、入り口を入ってすぐ正面の最初のドアだ」


      ---


 彼女はドアを二度ノックした。


「入れ」


 中に入ると、そこは簡素なオフィスだった。リスは書類の影に座っており、彼女へと視線を向けた。


「おや、プリシラか。報酬を受け取りに来たんだな?」

「ええ。それと、いくつか質問があるの。父についてよ」


 その瞬間、彼のペンが止まった。


「……彼がどうした?」

「以前、父を知っているような口ぶりだったわね。二人は親しかったの?」

「いい友人だったよ」

「それなら……父がダンジョンへ行く計画を立てていたかどうか、知っているはずよね?」


 リスは万年筆を置き、椅子の背もたれに体を預けて指を組んだ。


「彼がダンジョンへ行くと言っていたのは確かだ。だが、それ以来、彼とは話をしていない」

「でも、何か聞いていない? 手がかりになるようなことは?」


 リスは少し首を傾け、小さく横に振った。


「あいつが言っていたのは、『涙』を探しているということだけだ。それが何を意味するのかは知らん」


 プリシラの瞳が鋭くなり、思索に耽るように視線を落とした。


「涙……。ありがとう、リス」

「礼には及ばんよ。ほら、これは先日の報酬だ」


 預かり証と金袋を交換する際、リスの握る力がわずかに強まった。


「プリシラ、これは父親の友人として言う。他人の首を突っ込みすぎるな。この街にはそれよりも遥かに危険な連中が掃いて捨てるほどいる」

「……肝に銘じておきます」


 彼女は部屋を出ようとしたが、ふと足を止めて振り返った。


「それで、あのブラック・アサシンはどうなったの?」

「近いうちに処分される。おそらく、処刑だろうな」

「そう……」


      ---


 建物の外に出ると、プリシラは武器を返された。


(『涙』……父様が以前、女王陛下に話していたわ。過去の遺物か何かのことだと。……なぜ父様は、強力な魔導遺物(アーティファクト)だと言われているそれを、たった一人で回収しに行こうとしたのかしら?)


 彼女は深呼吸をし、戻ることにした。

 広場に着くと、彼女は周囲の人々から浮いている奇妙な二人組に気づいた。


 全身を鋼鉄の全身板金鎧(プレートアーマー)で包んだ騎士――ラインハルトだった。彼は金髪の女性と共に、街の東地区へと歩いていく。


(ふむ……彼は『父様』の賞金首は追わないと言っていたわね……)


 彼女は、別の通りへと消えていく二人の背中を見つめた。


(この街……どうして父様はここへ来たのかしら……?)

※次回更新は3月24日 21:30予定です。

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