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騎士の二人(3)

 不敵な笑みを最後に残し、フィービーは扉を開けて静かに部屋を去った。閉まった扉の向こう、厨房へと消えていく彼女の足音がすぐに遠ざかる。


 その瞬間、まるで全世界の重荷が肩から下りたかのように、プリシラは長く、疲れ切った溜息をついた。リオナラが初めて見る彼女の姿だった。少女は心配そうに騎士を見つめた。


「プリス……大丈夫?」

「え、ええ……ただ……フィービー卿は、その、少しばかり一緒に仕事をするのが大変な同僚なものだから」


 プリシラは右手を左肩に回して揉みほぐしながら、緊張を解くように軽く首を回した。そんな彼女を初めて見たリオナラは、ふとした疑問を口にした。


「もし二人が戦ったら、どっちが勝つの?」

「ん?」プリシラは彼女を振り返り、困ったように笑った。「……私には勝ち目さえないわね」


 リオナラは目を見開き、のけぞった。


「本当に?! でもプリス、あんなに強いのに……」

「そうね。でもフィービー卿は、ハイエルフの暗殺術を叩き込まれているの。私はどちらかと言えば……一般的な騎士よ。魔法を使うこと以外、私の戦い方に特筆すべき点はないわ」


 納得がいかない様子で、リオナラは感嘆のあまり目を輝かせながら食い下がった。


「遠くから戦えば勝てるんじゃない? 彼女、短剣を二本持っているだけだったし」

「はは、それは彼女がそう思わせたいだけなのよ。彼女はいつもハンドクロスボウ(手持ちの弩)を携帯しているわ」

「ハンドクロスボウ? それ、なあに?」

「知らないの?」

「うん、わかんない」


 プリシラは頭をかきながら尋ねた。


「弓は見たことあるわね?」

「うん」

「人間の腕の代わりに、仕掛けを使って矢を放つ弓のことよ。そうね……フュズィ(小銃)のようなものだと思えばいいわ」

「『ドーン』って音がして、尖った鉄のつぶが飛んでいく、あれのこと?」

「ええ、それよ」

「ああー……なるほど直感的にわかったわ」


 プリシラは微笑んだ。だが心の奥底では、フィービーとの会話の重みがまだ残っていた。


(レオナール隊長……私が従騎士(エスクワイア)だった頃、とても親切にしてくれた。でも、フィービー卿の話ぶりは……どこか、奇妙だった……)


 だが、思考が曇り始める前に、彼女はそれらを一度忘れることにした。


「広間にこれを持って行って、朝食にしましょうか?」

「あ、うん」

「よし。私がトレイを持つから、ドアを開けてくれる?」

「わかったわ」


      ---


 二人はすぐに小部屋を出て、厨房を通って広間へと向かった。

 厨房では、素肌にエプロンをつけたゲロルトが、大きな燻製肉を包丁で切り分けているところだった。


「おお、魔法剣士(スペルフェンサー)のお嬢ちゃん。ルシーナがお前に会いたがってたぞ」

「ルシーナが?」

「ギルドの件だろう。広間で待ってる」


 広間へと続く扉をくぐると、そこには見慣れた若い女性の姿があった。

 短い銀髪は、朝食を求めて広間に集まり始めた農夫や労働者たちの群れの中でひときわ目立っていた。


「プリシラさん、リオナラさん。おはようございます」


 壁際のテーブルに座っていたルシーナが、穏やかな微笑みを浮かべて手を振った。今日は休みなのか、その装いは非常に簡素だ。


「おはようございます、ルシーナさん。ここで何を?」

「今日は仕事がお休みなんです。ここにいればお二人に会えるかと思ったんですけど、どうやら『光輝の日』だというのに、私より早起きみたいですね」


 新しい服を着たリオナラを間近で見て、ルシーナは目を細め、本能的に彼女の頭を撫でた。


「その新しい服、とっても似合ってるわ! 可愛いわね! これ、特注したんですか?!」

「い、いえ、そうではありません。知り合いが子供用の予備の服を持っていましてね。彼女がこれを気に入ったんです」

「はは、やっぱり。でも、なんていうか……小さな冒険者みたい。まさか、彼女を連れてダンジョンに入るつもりじゃありませんよね?」

「まさか。私は――」


 騎士が説明を始める前に、リオナラが前に踏み出し、顔を上げた。


「わ、私……目立たないから、この服がいいって言ったの……」


 ルシーナは優しく微笑み、再び彼女の頭を撫でた。リオナラは静かに微笑み、プリシラの隣に座った。


      ---


 プリシラは前の一口を飲み込むと、トレイから次の一片を手に取りながら話し始めた。


「それで、ルシーナさん。私に何か用件があったのでは?」

「ああ、そうでした。リス隊長から、これを渡すように言付かっていまして」


 彼女はポケットから一通の封筒を取り出した。中には預かり証(プロミソリー・ノート)が入っていた。


「報酬の預かり証です。お引き受けになった賞金首の報酬、まだ支払われていなかったでしょう? この手紙を兵舎かギルドに持って行けば、いつでも報酬と引き換えられます」

「ふむ……興味深いわね……。アルカディアには、こんなもの存在しないわ……」

「え?」

「いいえ、独り言です」


 プリシラは紙を二つに折り、上着の内ポケットに仕舞い込んだ。


 ルシーナが椅子から立ち上がって手を挙げると、カーラがテーブルに近づいてきた。


「おはよう、ルシーナ。いつものやつでいいんだね?」

「はい! お願いします」

「あいよ、すぐ持ってくる。ルシーナにいつものやつだ!」


 しばらくの間、三人は静かになった。

 プリシラは無意識に微笑んでいたが、隣でリオナラが咳き込み始めた音で思考は遮られた。


「大丈夫?」

「う、うん。ちょっと喉に詰まらせちゃって」

「これ、飲みなさい」

「あ、ありがとう、プリス」


 背後から騒がしい足音が近づいてくるのを感じ、プリシラは肩越しに振り返った。そして、目を見開いて驚愕した。

 ゲロルトが、自分たちのテーブルにあるものの二倍はあろうかという巨大なトレイを運んできたのだ。


「お待たせ!」


 男は、その凄まじい重量のトレイを叩きつけるようにテーブルに置いた。

 ルシーナの前に置かれたのは、もはや「饗宴」だった。


 一つの皿には六つの照り焼きチキン、別の皿には厚さのあるステーキが三枚、レタスとベーコンを添えた蒸しキャベツ。さらには大きなスープボウル、粥のボウル、二本の焼きトウモロコシ、そして五つのパンに、なみなみと注がれたビール入りのジョッキが三つ。


「なんてこっ……。こ……これ、全部一人で食べるのですか?」


 ルシーナはシャツの襟元にナプキンを差し込みながら、不思議そうに騎士を見上げた。


「ええ。休みの日のささやかな贅沢は、私がギルドで働く理由の一つですから」


 隣のテーブルから農夫が声をかけた。


「はっ! そいつはルシーナの朝メシだ。伝説の朝食だぜ」

「あいつ、半分は魔族じゃねえか」

「もう、レディを魔族だなんて失礼ですよ。休みの日に補充しなきゃいけないんです」


 リオナラは一生かかっても見ることのないような大量の料理を凝視していた。それに気づいたルシーナは、料理を少しずつ盛り付けた皿をリオナラの前に滑らせた。


「ほら、あなたももっと食べなさい」

「あ、いえ、私は……」


 プリシラは椅子の背もたれに体を預け、微かな微笑みをリオナラに向けた。


「リオ。食べなさい。残しちゃダメよ」


 リオナラの瞳に期待の星が宿った。


「ありがとうございます!」


 プリシラは微笑みながら立ち上がった。


「どこへ行くの?」

「兵舎よ。報酬を受け取りにね」

「リス隊長なら、執務室で『ブラック・アサシン』の書類整理をしているはずですよ」

「ありがとう」


 彼女は短くリオナラに向き直り、温かく微笑んだ。


「すぐに戻るわ」

「うん、気をつけてね、プリス」

※次回更新は3月22日 21:30予定です。

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