第18話『土に還るもの、芽吹くもの』
朝もやの中、提灯工房の焼け跡には、黒く煤けた木材と、灰にまみれた紙くずが風に舞っていた。
晃志は黙って、そのすべてを見つめていた。
「全部……焼けてしもうたばい」
木の骨組みも、紙貼り道具も、乾燥中の提灯も──全てが、音もなく消えた。
けれど、灰の中にひとつだけ残っていたものがある。
それは、この村で最初に灯した提灯。
竹の骨は焦げ、和紙は端が焼け焦げていたが、不思議と火を免れ、灯芯だけが無傷だった。
晃志はそれを手に取り、そっと胸に抱き寄せた。
「火で壊れるもんもある。でも……“灯り”は、消えんとばい」
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その日の昼、村の集会所には人々が集まっていた。
誰もが、昨夜の火事のことで頭がいっぱいだった。
「晃志さん、火の元は?」「見回りの見とらんかったと?」
「……いや、俺が寝とった間に……」
そのとき、年配の村人が静かに言った。
「やっぱり、あの商会の連中やろ。工房の近くの土地ば、前から狙っとったけん」
言葉は静かだが、怒りが滲んでいた。
火災の前日、鉱山開発を進めていた商会が「もっと掘るには、あの裏山の区画が要る」と言っていたのを、何人かが聞いていた。
「……証拠は、なかばってん」
晃志が低く口を開いた。
「でも、もし……あいつらが、村の技を潰そうとしたっちゃんなら──おれは、黙っとられんばい」
沈黙が落ちた。
エミリアがそっと言った。
「晃志さん……どうするの?」
彼は、手にした焦げた提灯を見た。そして、まっすぐ前を見据えた。
「守るだけじゃ足らん。壊されたら、また作ればよか。植えれば、いつか芽吹く」
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その午後、晃志は子どもたちと共に、荒れた川辺へと向かった。
鉱山開発で濁った水辺には、かつて育てたコウゾ代用の草も枯れ、紙漉き場の水路も塞がれていた。
「ここば、戻すばい」
晃志は笑いながら言った。手には、袋いっぱいの茶の苗と、異世界の和紙植物の若木。
「村の技ば守るには、畑も、山も、水も──全部いっしょに育てんと、意味がなかけん」
土を耕し、苗を植え、川の水を少しずつ引き直す。
子どもたちが泥だらけになりながら笑う姿に、村人たちは少しずつ手を貸し始めた。
「ねぇ、晃志さん。技を守るって、こういうことやったと?」
「そうたい。紙も、灯りも、茶も──全部、土と水から生まれるとばい。自然と一緒やけん、続くとよ」
その言葉は、焼けた村の空気の中に、新しい芽のように根を下ろしていった。




