表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八女提灯異世界譚 ~灯(あかり)が結ぶ、村の奇跡~  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/23

第17話『灯り、消えゆくとき』

──夜明け前、山の方角に赤い光が揺れていた。


「火事ばいっ!」


誰かの叫びに、晃志は寝巻きのまま飛び起きた。

冷たい朝の空気を裂くように、風がざわめく。谷を越えて見える赤は、まるで空を焦がすようだった。


 


「まさか……!」


 


坂を転がるように駆け下りる。火の色が、どんどん近づいてくる。川を渡った先──それは晃志の提灯工房だった。


 


「晃志さーん!あっちは危なかけん、行かんで!」


村人たちがバケツを抱えて集まり、火を囲むように水をかけていた。だが、すでに屋根は崩れ、炎は木の梁を食い尽くしていた。


 


バチン、と弾ける音がして、工房の奥に積んでいた竹が破裂した。


 


「あああ……!」


晃志は声を漏らしたまま、その場に立ち尽くすしかなかった。

ここは、村に来て、初めて灯りをともした場所だった。

火の扱いを知らなかった異世界の人々に、灯りの文化を伝えた始まりだった。


 


「なんで、こんな……」

誰かがつぶやいた。

「鉱山のあれと、関係あるんか……?」


 


だが、その問いに答える者はいない。火は語らない。ただ静かに、すべてを燃やしていった。


 


夜が明ける頃、ようやく火の勢いはおさまり、あたりには炭の山と黒い骨組みだけが残された。


 


すすけた空気の中、エミリアが手ぬぐいで顔をぬぐいながら、倒れた棚のそばで何かを見つけた。


 


「晃志さん……これ……」


 


彼女がそっと手渡してきたのは、焦げた木箱。その中にあったのは──かすかに赤く染まった、小さな提灯だった。


 


「……これは……」


晃志の手が震えた。

それは、この村で最初に作った提灯。

村の竹で骨を組み、見よう見まねで灯した“第一の灯り”。


 


火に巻かれたはずなのに、布の一部がわずかに焦げただけで、形は残っていた。


 


「おれがこの村に受けいれらようと灯した、あの晩の……」


 


言葉が詰まり、しばらく口がきけなかった。

だが、横に立ったエミリアが、そっと口を開いた。


 


「形が消えても……あの灯りは、わたしの中に残ってるよ。晃志さんが、ここで初めて見せてくれたあの光……忘れんよ」


 


晃志は、焦げた提灯を見つめながら、深く息をついた。


 


「火で壊れるもんも、ある。技も、形も、家も……全部、灰になるときもある」


 


それでも──と彼は顔を上げた。


 


「人の手があれば、また作れるとばい。灯りは、火やなくて、心から生まれるもんやけん」


 


村人たちは黙ってうなずいた。誰の顔にもすすがついていたが、その瞳には確かに、ひとつの灯りが映っていた。


 


あの一本の提灯。

それは村に来た証であり、技の種であり──未来への約束だった。


 


焼け跡にぽつんと残されたそれを、晃志はそっと手に取って言った。


 


「また、作ろう。いちからでも、なん度でも。灯りは……消えんとばい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ