第19話『灯りの守り手たち』
晃志の工房が燃えて数日。炭の匂いがまだ残る丘の上で、ランダ村は重大な知らせを受けた。
「……村を明け渡していただきたい。鉱山開発に必要な措置だと、王都より正式に通達がありました」
淡々とした商会の使者の言葉に、村人たちは言葉を失った。
「王都が、そんなことを……?」
若者のひとりが憤るが、使者は冷ややかに笑った。
「大祭で飾られた提灯の技は素晴らしかった。しかし文化と発展は両立できぬ。王の名のもとに開発は進む」
村の長老・セルトが口を開いた。
「その“王の名”とやらが、本当にすべてを代表しとるんかのう……?」
晃志は静かに立ち上がると、言った。
「村ば奪う理由に“進歩”ば使うんは、いかんばい。技術は自然と共にあってこそやけん」
商会の一団が去ったあと、村人たちは集まり、夜通し語り合った。燃えた工房。濁った川。失われゆく自然と灯り。だが、そのなかでも小さく、確かに揺れていたものがあった。
「守るんだ。……おれたちの手で」
それは、若者の一言から始まった。
「今ある技術で、あの人たちに見せたろうや。ここに“価値”があるってことを」
晃志は頷いた。
「壊されたもんは、また作ればよか。伝えれば、分かってもらえるかもしれん。……提灯も、和紙も、自然も、人の心も」
そうして、村はひとつの決断をした。
──提灯と和紙で、王都に嘆願書を届ける。
それは、かつて晃志が語った「灯りは想いを運ぶ」という言葉を、まさに形にするものだった。
「俺たちが書く! 和紙に、村のこと、自然のこと、全部書くっちゃん!」
子どもたちが真っ先に名乗りを上げる。
「それを、提灯に仕込んで……夜の道でも、消えんようにして運ぼう」
エミリアが提案し、村の職人たちが再び立ち上がる。焼けた工房の隅で見つけた、焦げ跡だけ残った提灯の骨組み。それを磨き、和紙を張り直し、新たな灯りをともす。
晃志は、一本の筆を手に取ると、和紙にゆっくりとした筆致でこう記した。
「技術は自然と共にあり、灯りは心を伝える。願わくば、この声が届きますように──」
夜が更けるころ、完成した提灯と和紙の束が、荷車に積まれる。送り手は、村の若者と子どもたち。道中の険しさを思えば、大人でもためらう旅だ。
「ほんとに行くの?」
エミリアが不安げに問いかけると、少年が胸を張った。
「うん。だって、おれたちが、“灯りの守り手”やけん!」
晃志は、その言葉に笑みを浮かべた。
「おまえらこそ、本物の職人や。おれたちの技、頼んだばい」
こうして、希望の灯りを掲げた小さな旅団が、王都を目指して歩き出した。
それは、ただの提灯ではない。心と自然、そして村の誇りを詰めた、光の使者だった。




