第14話『湯煙に、茶の香ただよう』
雪解けが進み、川のせせらぎが少しずつ勢いを増してきた頃。晃志はふと、村外れの川辺で地面から湯気が立ちのぼるのを見つけた。
「……これは、湯やなかと?」
手をかざせば、ほんのりと熱い。土を掘り返してみれば、岩の隙間から温かい水が湧き出している。晃志はしばらくその場にしゃがみ込み、手で湯をすくっては頬に当てる。
「芯まで温まるばい……」
村に戻った晃志は、すぐさま大工のマルオに声をかけた。「丸桶ば作らんね?でっかいやつば」。初めは不思議そうな顔をしていたマルオも、「そりゃ面白か」と笑い、木材の選定を始めた。
材料は川辺の樫と栗の木。乾燥させ、曲げ、鉄の輪で締めあげる。昔、八女で父と一緒に桶を作ったことを思い出しながら、晃志はノミを握った。
一週間後、丸々とした大桶が完成した。大人が三人入ってもまだ余裕がある。それを温泉のそばまで運び、湯を引くと、試しに火で温めた石を沈めた。白い湯気がもくもくと立ちのぼる。
だが、ここで晃志は思い出す。「これだけじゃ足らんとよ。香りがいる」。村の倉にあった茶葉の束を手に取り、軽く揉んで湯へと投げ入れた。
すると、ふわりと立ちのぼる茶の香り——
「これは……八女ん香りや」
数日後、「茶風呂ができたぞ!」と晃志が声を上げると、寒さに縮こまっていた村人たちが次々と集まってきた。老いた者も、子どもも、恐る恐る桶に足を入れ、顔をほころばせた。
「なんやこれ……体の芯まであったかくなるばい!」
「茶の香りが、鼻の奥まで染み渡るっちゃねぇ」
「こりゃ病気も吹っ飛ぶばい!」
エミリアも、そっと桶の縁に腰をかけ、湯をすくっては頬に当てる。
「ふふ、まるで魔法みたい……」
晃志は、湯気の向こうで笑い合う村人たちを見つめながら、ひとつ息をついた。
「風呂も、茶も——どっちも人ば癒す力があるっちゃんね」
その言葉に、マルオが笑う。「おまえさんの技もな」
こうして“緑茶風呂”は、ランダ村の名物となった。寒い日にはみんなで桶を囲み、茶の香りに包まれながら、手を伸ばし、心をほどいた。
湯煙のむこうに、故郷・八女の風景が重なる気がした晃志は、思わず空を仰ぎ、ぽつりと呟いた。
「ばあちゃん……今日もおいは、誰かば温めちょるばい」




