第13話『火ではなく、灯りを』
王都の大祭を飾る千の提灯は、たしかにランダ村から運ばれた――だが、そこから歯車は少しずつ狂い始めていた。
「もっと早く、もっと安く。なぜあの村でしか作れんのだ?」
城の工匠たちは、晃志の提灯を模し、同じ形を、同じ素材で、量産し始めた。が、完成した提灯は――火を灯すと、すぐに破れ、芯が歪み、炎が吹き消えてしまった。
「どうしてだ……!見た目は、同じはずなのに」
堪らず、王都の工匠長が、晃志を呼び寄せた。
「職人・晃志。これを見てくれ」
並べられたのは、王都の職人たちが作った“模倣品”の提灯。火を入れると、布がたるみ、竹が焦げ、灯りはすぐに消えた。
「形だけは真似た。素材も真似た。なのに……この灯りは、なぜ続かぬ?」
晃志は、黙って一つの提灯を手に取った。竹の編みが甘い。布の張りが足りない。芯の角度が僅かにズレている。――なにより、どこにも“気配”がない。
晃志はぽつりと呟いた。
「……形ば真似ても、心がなかと、光らんとよ」
「心、だと?」
晃志は小さく笑い、持ち込んでいた道具箱を開いた。竹を削り、糸を張り、布を縫う。時間をかけて、一つの提灯を、丁寧に仕上げていく。
その手元は、誰が見ても美しかった。
完成した提灯に、晃志がそっと火を灯すと――まるでそれは、呼吸するかのように、柔らかく灯り始めた。
「これは……」
「……生きとる」
工匠長が声を震わせた。
「この灯り……まるで、魂が宿っているようだ」
晃志は、職人たちの前で静かに言った。
「火じゃなかとよ。灯りや。人が人を想う、その心が、光ば生むとばい」
王都の職人の一人が、崩れ落ちるように膝をついた。
「俺は……ただ、売れる形を作ろうとした。人の顔も見ずに……」
「見てよか。おいの村には、火傷した指の子がいる。火を怖がっとったけど、一緒に作った提灯には、笑って火を灯してくれた。……それが、灯りたい」
静けさのなか、工匠長が深く頭を下げた。
「晃志殿……どうか、我らにも、その“心の技”を教えてはいただけぬか」
晃志は少し目を細めた後、ゆっくりと頷いた。
「よかばい。ただし――教えるっちゃなく、一緒に作るとよ。火ば扱う手に、想いが宿らんと、ほんまもんの灯りは生まれんけんね」
王都の職人たちは、まるで少年のように、真剣な眼差しでうなずいた。
その夜。王都の空に、晃志の提灯が百個、丁寧に灯された。
風に揺れる小さな光――だがそれは確かに、人と人とを繋ぐ、ほんとうの“灯り”だった。




