第12話『選ばれし技、王都へ』
それは、思いもよらぬ訪問だった。
雪が溶け、春の光が村に差し込むある朝、数騎の馬車がランダ村に現れた。王都の紋章を掲げたその一団の中、ひとりの品のある壮年の男が名乗った。
「王都職掌局より参上いたしました。あなたが“光の提灯”の職人、晃志殿ですね」
驚く村人たちの前で、男は直立したまま言った。
「王都の春の大祭にて、あなたの提灯を千個、城に飾りたいと陛下より正式な依頼が届いております」
場が凍りついた。
「せ、千個……」とエミリアが小声でつぶやく。
晃志はゆっくりと頷き、使者を迎え入れた。その晩、村の集会所には、かつてない数の村人が集まった。
「すごか話やないか!王都ばい!王都!」
「千個も売れたら、村の畑ぜんぶ修繕できるっちゃなか?」
若者たちは色めき立っていた。
だが、晃志は黙ったままだった。火の灯る囲炉裏のそば、少しだけ目を伏せて。
「嬉しかばってん、なんか怖かとよ。数が増えれば、心は薄れんやろか……」
その言葉に、空気が少し沈んだ。
「けど、晃志さんの技やけん、広がるべきですよ」
「売れたらええ。村もよか暮らしになるし」
対する声も上がった。やがて、全員の視線がエミリアへと向かう。
彼女は迷いなく、晃志に向き直った。
「選ぶのは、あなたです。……でも、その提灯はもう“あなただけのもの”じゃありません」
「?」
「私たちも一緒に作った。あなたが、教えてくれたことです。人の手で灯すあかりの尊さを。だから……これは私たちの灯りでもあるんです」
晃志はその言葉に、目を細めた。思えばこの数ヶ月、村の誰もが、提灯に触れ、火を入れ、言葉を交わしていた。
「……そうか。おいの手だけで作る技やなか。みんなの心が、光ば生んどったとやな」
彼は立ち上がった。そして、ぽつりと口にした。
「なら――一緒に、伝わる提灯ば、作ろうやないか」
その言葉に、村人たちの表情が一斉に和らいだ。拍手が、静かに、じんわりと、広がった。
数日後、村の工房には総出の手が集まり、晃志の指導のもと、千の提灯づくりが始まった。火を入れるたび、そこに宿る“ぬくもり”を確かめながら。
「この火が、王都にも届けばよかね」
「うん、うちらの暮らしの光ば、届けるっちゃ」
そして、最後の提灯に晃志が火を灯すその瞬間――
「……技は伝えるもの。けんど、心まで届けば、それはもう“文化”っちゅうもんになるとよ」
春風が工房の窓をそっと開き、あたたかな風が火を揺らした。王都へ向かうその灯りは、まるで誰かの記憶をなぞるように、優しく燃えていた。




