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夜空のハル  作者: 里村
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おわり

完結させるのって、難しい、ですね。

読んでくださって、ありがとうございました!


―ママがむかえにきたからいくね。パパまたね。


 友晴がくしゃくしゃにした紙を広げると、そんなことが、色とりどりのクレヨンで書いてあった。

 ハルは、一度成長した時、その成長に合わせて大人っぽくなっていった。考え方やしゃべり方やしぐさ、そして、筆跡も。にもかかわらず、その紙切れの文字は、幼児がやっと書いたようなそれだった。

「ハルは、文字が…カタカナまで、書けるようになったんだなぁ」

 手紙を見つめて、友晴が莉子の横でそんなことをこぼした。

 友晴のその言葉で、莉子は思った。ハルが、そうやって自分を納得させたように、友晴への言葉を幼い字で書くことで、上手く噛み合う事柄が、ハルと友晴と由喜さんにあるんだろう、と。

 ハルが由喜さんと会えたのかどうか。きっと、会えたと信じたい。どこまでも、疑い深い底の思想が、もやもやと莉子を取り囲もうとする。その考えにとらわれそうになる手前で、隣にいる男の気配と、気遣うように背中をゆっくりと滑り落ちた手の感触に、莉子は救われる。

「…ハル、さっき、笑ってたよ」

「そうか」

 莉子の言葉に、友晴はゆるく笑う。

 少しは友晴に届いただろうか?安堵や救いに似た、ほんの少しの暖かさが、伝わってくれれば良いと、莉子は思う。そして、そんな気持ちを抱く、余裕のある自分に少し笑う。さっきまで、あんなに動揺していたのに。この男の隣に身も心も投げだせるだけで、自分はこんな風に…。

 知っているような、いないような、そんな心地が、ある。

「ねぇ、無粋なことを聞くんだけれど…」

「何?莉子?」

 ほっとしてしまって、体に力が入らない。

 寄りかかった左側から伝わる友晴の気配に酔ってしまいそうな感じで。

 なんとか足を運べるまでに回復させて、部屋に戻るつもりでいたのが、友晴によって、底から引き上げられて。さながら、嵐の海から陸に救い上げられた亀か何か。逃れた嵐にほっとして、だけど、慣れない場所で身動きも取れず、側にある岩場によりかかっている。

 体は温まる。だけど、心もじわじわと動く。

 この気配が、いてもたってもいられない。

 だけど、もう。

 ここが良い。

 こんな風に、隣の人を欲しいと思うのは、きっと初めてのことで、今後もないと思う。ただ一人、この人だけだと、信じたい。

「…莉子?」

 見上げると友晴がこちらを見ていた。素直に嬉しくなって頬がゆるむ。その後で手をその頬へと伸ばした。

 いつもは、ここで過ごすのは数時間。一緒に食事をして体を重ねて、その後でさっさと帰ってしまう。

 でも、今日は。

「…泊まっても?」

 友晴が、頬にあった莉子の手を取って、取り囲むように腕を下した。

「罪悪感も、ハルも…由喜も、僕には、きっと手放せないけれど…それでも?」

 それに、莉子は小さくうなずく。

 心も預けて、そして、もらって。そういう営みで心が満たされて、それをきっぱりと切り替えて外へ向かう時の、せつなさや何か。

 まるで、気の合うセフレのような関係だなと、思っていた。

 約束も言葉も、お互い求めなかったから。なんとなく、明言してはいけないような気持ちもあった。それでも、友晴からは、少なくはない愛情めいたものを感じていた。それを甘受できない、莉子の事情や友晴の背景もあって。

 今日までは、そんなことが、頭に漂っていた。

 体の両側にある腕をなぞって、友晴の首の方へと、莉子は手を巡らせる。

「ここに存在しない人と競うほど、私は、自信過剰でもない…よ」

「莉子」

「生きてる人の中で、どうかって所で、考えたい」

「莉子」

 何度も繰り返して莉子を呼ぶ声が、耳をくすぐる。

 その回数が重なるごとに、見えないのにそこに確かに存在していた距離が、少しずつ、急速に、詰まって行くような、甘い響きで。

「だから、どうなの?」

 少し強く言うと、友晴が笑う。

「それは、もう」

「もう?」

 おでこが、こつんと音をたてた。

 まつ毛も触れ合うほどの距離。

 深い影がお互いに落ちる中で、その表情は明るい。

―それは、もう、とても…。

 耳元で、とても小さな音で聞こえた友晴のセリフに、むっとして莉子がつぶやく。

―男らしくないなぁ。

 拗ねる莉子に笑顔の友晴が重なって。


 くすくすと笑う二人の声が、しばらく聞こえた。

 テーブルの上の、ハルから手渡された手紙が、ふっと砂の塊になって風化してゆく。

 小さな笑い声は、途切れがちに続いている。

 気配をさっした莉子の向けた目線の先で、その残像がゆれて、ふわりと溶けた。

「あ」

 莉子の視線をなぞった友晴も、空気へ漂う最後の残像を見たのかもしれない。

「…ああ」

 友晴が莉子を見て、莉子も友晴を見た。

「これから、よろしくな」

「こちらこそ」

 友晴の腕の中に納まって、心地よさを存分に吸い込んで、味わうように感じる何かに、莉子は思う。

 これまでのこと、これからのこと。

 漂うように思った、色んな事が無駄にならなかったこと。

 ハル、またね。

 莉子、と耳元でまた聞こえた声は、願望か現実か、二つの声が重なった気がした。

 

 また。






ジャンルから迷いに迷った、思いつきで書き始めた、拙いもの。

ファンタジーなのか?文芸は目指してなかったんだけど、他のジャンルでもないような…???

何度も途中でジャンルを変えても、腑に落ちず。

未だに、ちゅうぶらりんな心地で、進めてしまいました。

そんな、未熟極まりない状況で、排出させていただいて、ありがとうございます。


本当に、読んでくださってありがとうございました♪

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