居候生活 ⑤
次の日僕ら三人は、ムーンバのパレードを見るため、昼過ぎにシティへと向かった。
「ここは何通りなの?」
「スワンストン通り。メインストリートの一つで…」
「ほら、あっち見てみな、何かすごい博物館みたいなのがあるだろ。あれ駅なんだぞ。その後ろに川が流れてる」
「こないだテニス見に行った時、川沿いを歩かなかったっけ?」
「そうだよ。あそこの手前を左に曲がると、国際テニスセンターだもん。公平、あんたあんまりここらへんの地理を把握してないのね、まだ」
「そのうちゆっくり散歩がてらシティ散策はしようと思ってるんだけど」
と、僕は頭をかいていた。いつもお兄ちゃんかお姉ちゃんの後を何も考えずついていくだけだからこんなことになっている。僕は少し反省していた。
今日はとても暑く、僕がここに来てから一番暑いんじゃないかと断言できそうなくらいな猛暑で、汗が滝のように流れていた。よくもまぁこんなに人が集まったものだ。ご苦労なことで、と自分もその中の一人だってことを忘れてる。
このムーンバのパレードっていうのは、けっこうもてはやされているらしく、テレビ中継もするようでカメラが何台もクレーンに載っていたりした。もちろん生中継、夕方にはニュースでも放送するとお兄ちゃんから聞かされると、カメラがこっちを向くたび緊張したりした。
かれこれ三十分はパレードを見ていた。一日のうちで一番暑い時間だったので、もうろうとしてきた。そんな僕の目の前を、笑顔を絶やさず暑苦しい衣装を纏い通り過ぎていく人々に、違う意味で拍手を送っていた。この暑い中ご苦労さん、と。
とてもこっている飾り付けや様々な仕掛けには驚かされることも。ある団体はダンスがメインだった。この日のために練習をしたりしてきたのだろうと思うと、この灼熱の太陽をどれだけ恨んでいるに違いないと、くだらないことを考えて苦笑いしている僕だった。
「夜になると、あっちの方でちょっとした遊園地がオープンするんだ」
と駅の方を指差し説明してくれているお兄ちゃんも疲れきっている。せっかくの連休もこの暑さではゆっくり昼寝もしてられないとでも言いたそうだ。とりあえず最後のグループが通り過ぎ、パレードを見届けてから、僕らは言葉少なに家路についた。
「ありあわせのものでいい?」
午後六時でもまだ日差しが強く、テレビのニュースではこの夏一番の暑さだと報道していた。お姉ちゃんがそう言いたくなる気持ちは十二分に分かるので、僕とお兄ちゃんに異論はなかった。有り合せと言っても、ちょっとした思考をこらしていたのはさすがお姉ちゃんで、僕の胃だけはこの暑い中活発に動いていた。
ディナーの後、少しの間横になっていると、日がだんだんと陰りだしてきた。時計を見ると九時近い。窓際まで行き、シティの方を見ていたら遊園地のことを思い出した。突然、衝動に駆られ行動するのは僕の悪い癖で、横になっている二人を尻目に、家を後にした。
単独行動は今回が初めてだ。しかも空は暗くなりかけている。ドキドキわくわく、とにかく落ち着いてシティまで、あそこで降りてあの道をまっすぐ行けばいいんだと、ぶつぶつ呟きながらトラムに乗り込んだのだ。
心配していたのとは裏腹に、目的地は分かりやすかった。なにしろ人の波が遊園地の音(人の叫び声だとか、それっぽい音楽)が聞こえる方向に動いていたため、それについて行ったからだ。夜はまた違う雰囲気があり、街路樹はライトアップされとても綺麗で僕の眼を飽きさせない。夜だけに人とすれ違う度にビクビクしていたけど、遊園地に近づくにつれ、そんな警戒心はどこかに置き忘れてきたみたいだ。それがいいんだか悪いんだかわからないけど、お祭り騒ぎが好きな僕は冷静ではなかった。
入口らしき物はなかったけど、ここからは広場という感じの区切りかたをしてあったので、僕の心は踊りに踊っている。でも、まったくと言っていいほど前が見えなかった。そんなに自分では背は低いとは思っていないが、さすが外国、外人は背が高い。おかげで人並みを歩くのに一苦労した。
遊園地はと言うと、どれも回るもの、メリーゴーランド系の乗り物ばかりで、僕を失望させた。なんせ回るものは苦手で、ジェットコースターも一回転するやつは言語道断、とにかく嫌なものだった。他にはちょっとしたゲームがあり、中でも一つ面白いものを見つけ、ずっと見ていた。それは的めがけ水鉄砲を打ち続けると前の人形が上へあがっていく。一番に頂上へつくと勝ちで、商品を貰えるのだ。いろんなぬいぐるみが置いてあったが、僕は一つだけ気になったぬいぐるみがあった。しましまの犬みたいなぬいぐるみで、あまりかわいくはない。僕は勝った人をしばらく見ていたが、誰もそれを要求したことがないくらいだから人気もないのだろう。
ずっと見ていた僕に、ゲーム進行係のおじさんは目をつけた。何を言っているのだかさっぱり分からず、いつもお姉ちゃんに頼っていたつけがまわってきたらしい。困った顔をしているとおじさんは、指を二本立て、
「トゥーダラー」
と言っているらしい。2ドルならと思い、ポケットからコインを取り出し、8番の的の前に立った。なんでもなりきるのが僕の良いところであり、悪いところで、さながら西部劇に出てくるガンマンになった気分で、スタートの合図を待った。
ダテにずーっと観てたわけじゃなく、コツもなんとなくだけどわかっていた僕は、無我夢中で的の真ん中めがけて水鉄砲を打ち続けた。歓声とともに顔をあげると一番は僕らしい。進行係の言っていることはわからなかったけど、躊躇なくずっと気になっていたしましまの犬みたいなぬいぐるみを指差した。すると進行係のおじさんがまた何やら騒ぎだし、そのあと周りで見ていた人も、拍手喝さいを僕に浴びせているようだった。ぎこちない英語で、
「サンキュー」
と手を揚げそれに答えると、よりいっそう歓声が大きくなり、とても気持ちが良かった。
何故みんなが必要以上に拍手喝さいを僕に送ってくれるのか分からないまま、ただそれに答えていた。何か僕の知らない祝福の言葉なのか、僕のヒアリングが悪いから知っている言葉だったとしても分からないのか、タンスマニア?タスマニアかそんなことを言っているようにしか聞こえない。
僕はただひたすら笑顔で拍手喝さいに答えていたのだった。
第二章 居候生活はこれで終わります。
第三章は、TASMANIA LOVE STORY。
沖田公平がタスマニアの旅でどんなラブストーリーを繰り広げるのか!?
ご期待ください。




