FARM STAY ①
沖田公平は、親友・柴山雅樹と再会した。
その後すぐにメルボルンの田舎町に住むちなみさん家を訪れることに。
ちょっとしたファームステイの様な数日間を過ごすことになる。
そんな田舎町で過ごした日々の中で、ある計画を練ろうとしていたのだ。
柴山雅樹とは僕が幼稚園に通っていた頃からの付き合いだ。
家も近所で、同年代の連中がいなかったこともあってか、いつも僕が幼稚園から帰ってくると、雅樹は家にやってくる。そして暗くなるまで遊んだものだ。雅樹は幼稚園に通っていなかったので、興味があるらしく、僕に根掘り葉掘り幼稚園のことを聞き、僕は僕で雅樹の大胆な発想や子供ならではの遊びの才能に驚き、それを楽しんでいた。それなりに需要と供給のバランスが初めから確立されていたのだと、今となっては感心する。
そんな中で、僕にとって忘れられない思い出があった。それは雅樹から持ち出された、あの当時にしては画期的なプロジェクトだ。
『なぁ、こうちゃん。おいらたちだけの秘密基地をあそこの裏山に作らないか?』
僕たちが住んでいる家の近くに大きな山があった。実際はそれほど大きくないが、子供の頃はとてつもなく大きな山だった。その山を大人は裏山と呼んでいた。何故だかは今でも謎のままだが、とにかく大人の真似をして僕たちもそう呼んでいた。
その裏山に基地を作る。それも二人だけの秘密基地。
テレビのヒーローものには必ずと言っていいほどの必需品である秘密基地を、実際僕らの手で作ろうという話を持ち出され、興奮しない子供がいたら教えて欲しい。僕は雅樹の計画を文句なしに受け入れた。
それから僕たちの悪戦苦闘の日々が始まったのだ。
この計画は僕たち二人だけの秘密。だからまず苦労したことと言えば、親に黙って基地を作るため、道具(シャベルやそのた諸々)をこっそり運び出す作業だ。僕たちよりも大きなシャベルはもちろん隠して運べず、持ち出すことはばれていたのかも知れないけれど、子供は子供なりに神経を使い、秘密を守っていた。少なくとも僕たちはそう思っている。
完成は思ったより早く、満足していた。ただ不満を言うならば、最初に考えていた基地と少し違ったことだ。一応、設計図(絵)を描き、それに従って作るつもりでいた。雅樹が考えていたことは、まず木の根元あたりの下に穴を掘ることだったらしく、
『どこでもいいじゃん』
と、歩き疲れている僕が泣き言を言っているにも関わらず無視していた。
『木登りすれば、遠くが見れるよ』
雅樹曰く、それが奴の理想だったらしい。だから山肌に太い木の根が飛び出ていて、そこから上を見上げると、雲をも突きさせるほどの大きな木がある場所を見つけた時には、
『ここだよ!ここ!』
と、興奮していた。
完成した僕たちの秘密基地は、頭隠して尻隠さずということわざがぴったりの広さだった。原因は木の根っこが邪魔をして、予定通りに穴掘りが出来なかったためだ。新しい場所を探すのも、なんとかして掘り続けることも大変なので、すぐ妥協した。でも僕たちはその小さい穴の秘密基地に満足していた。なんといってもヒミツという響きが、僕たちを興奮させたのだ。
その僕たちの秘密基地に花を飾るべく、それぞれに大切なものをここに置いておくことになった。そのことを決めてから、僕はウルトラマンの人形を持ってくることしか頭に浮かばず、これなら雅樹にもうらやましがられるだろうと思っていた。それと雅樹が何をもってくるのか知らないので、そっちの方の楽しみでしかたがなかった。
僕はウルトラマンの人形を秘密基地にもっていき、雅樹が来るのを待った。奴が来たのを気付くと、人形に息を吹きかけ、Tシャツでごしごし磨きながら雅樹が持ってきたものに興味を示した。
『マーくんは何を持ってきたの?』
誇らしげにもったいぶりながら、雅樹は服の中に隠している。
『こうちゃんは、エアーなんとかロッキーっていうやつ知ってるか?』
『なにかのヒーロー?』
『ちがうよ。エアーロッキーっていうのは、おっきぃーな、いわなんだって』
両手いっぱいに広げると秘密基地の壁や天井がボロボロと崩れた。
『そんなもんあるわけないよ』
落ちてきた砂をはらいながら僕は首をかしげた。
『だっておいら、その写真が宝物なんだもん』
そう言って小さな写真集を僕に見せてくれた。カブトムシの幼虫を図鑑でみていた僕は、
『なんだ、ようちゅうってやつだろ』
と、得意げに言った。幼虫みたいな形のものがいっぱい写っていたからだ。
『ばか!そんなでかいようちゅうがいるわけがないだろ。これはしゃしん。だから小さくみえるだけだよ』
『ふーん。やっぱそうか』
でもやっぱり大きいとは思えなかった。だって自分よりも小さな写真なのに、その中の岩を大きいなんて想像しろとは無理な話だ。実際、雅樹もどれほどの大きさかなんて知っているはずがないので、ただ知ったかぶりだったのだろう。いろいろ聞いたところで漠然と『とにかくすっげぇーおっきぃーんだ』と言うだけで、それ以上進展がない。
『ぜったいのぼるんだ。エアーロッキーに。こうちゃんもな』
『それってのぼれるのか?』
『あたりまえだよ。おいらたち、ひみつきちだってつくれたんだぞ!』
それからしばらくの間、雅樹の口癖は、
『ぜったいのぼるんだ。エアーロッキーに。こうちゃんもな』
そして僕はこう返事をしていた。
『のぼろうよ。ふたりで』
でも僕たちは、エアーロッキーが何処にあってどんなものなのか知る由もなかった。雅樹がそれをどこで手に入れたかも僕は知らない。そんなことはどうでもいいことだったから聞かなかったのだろう。
その後、僕たちがエアーロッキーとはオーストラリアにあるエアーズロックだということが分かったのは中学に入ってからだ。
そんな少年時代の思い出が雅樹をオーストラリアに行かせたのかなと、本人には確かめてはいないけどそんな気がする。僕も僕であの写真を見ていたので、もしオーストラリアに行くことがあればエアーズロックに登りたいと思っていたくらいだから、絶対に雅樹もそうだと思う。もう旅行の手続きは終わっているのであとは行くだけだ。
僕はこのエアーズロックの旅行を最大のメインイベントだと思っている。




