TASMANIA LOVE STORY ⑥
三泊四日のタスマニア旅行も、あと数時間を残すだけになった。
お昼の飛行機でメルボルンに戻るため、もうそんなに時間はない。だからこれといった観光が出来るわけでもないので、早々にチェックアウトし、荷物を肩に背負い、ホバートの港町を散歩することにした。
この街は坂が多い。というよりも斜面に建物が建っているような感じだ。ホテルからゆっくり坂道を下って行くと、はじめは建物の狭間に見える海も次第に広がっていき、潮風の匂いもハッキリとしてくる。この旅行の間、この街を歩く時には、空がぐずついているか、葵ちゃんが横に居たので彼女ばかり見ていたからか、こんなに透き通った空を見る事はなかった。だから改めてこの港町の情緒ある景色に見とれていた。それこそこんなものがあったかなどと、中世ヨーロッパを思わせる建物を下から見上げ、「すっごいな~」とか「よく崩れないな」を連発していた。まるで今日この街に着いたばかりの観光客のようにだ。
そんな僕にもいくらかこの旅行で知恵がついたらしく、この街の地図を買い、空港の方へと歩き進んでいた。
頭がいい。
別に空港まで歩こうとは思わないけど、どこかでタクシーを拾うつもりだったので、少しでも空港に近づいていたほうが徳だというせこいことを考えていたからだ。
しばらく歩いていると、大きな広場みたいなところにさしかかった。地図とガイドブックを照らし合わせてみると、それは戦没者の記念碑だということが分かった。こんな見晴らしがいいところに建っていて、さぞかし幸せだろうと思う。そこからまっすぐ海沿いに視線を移すと大きな橋が架かっていて、
「わぁー、すげぇーなー」
その一言で大きさを表すには十分だろう。そして驚いたことにそこから視線を左に、なんとなく街を見渡せるかなと思って移そうとした時、その途中で晴天の日じゃなかったら隠れていただろう禿げ山が僕の目の前といってもいいほどの大きさでまるでこの街を見守る神様のようにドンと腰をすえていた。いくら感嘆詞を並べても足りないくらいの凄さだった。大袈裟かもしれないけど、ここに来て初めて、オーストラリアの大自然を目の当たりにした。
そしてこの感激の余韻に浸りながら、タスマニアを後にすることになった。
いろんなことがあったけど、終わり良ければ全て良し。
素晴らしい旅だった。
メルボルン・タラマリン国際空港に着いたのはお昼を少し過ぎた頃。僕は国内線だったので日本から来た時とはまったく違う場所から出てきた。もちろん荷物を受け取る時はグルグル回る普通のやつだった。何もトラブルはないまま(そんなしょっちゅうあったら問題だけど)、あとはお兄ちゃんとお姉ちゃんが待つ、少し図々しいが我が家に帰るだけだ。そんな時、
「公平!」
懐かしい声が聞こえてきた。その方向に振りむくと、柴山雅樹が間抜けずらして立っていた。
「何だ、雅樹か」
「何だとは何だよ」
「お前こそ、何だとは何だよ」
「だから、お前が最初に何だって…」
二人して腹を抱えて笑ってしまった。
不思議と久しぶりだとは感じなく、昨日も会っていたようなそんな感覚だった。
「どうだったホバートは?」
「泊まったのはホテルだよ?」
「アパートじゃなくて、スーパーより大きい店だよ」
「それはデパート。じゃなくて、英語で砂漠って意味だろ。お前が聞きたいのは」
「違う違う、それはデザート」
「食事の最後に食うやつか」
「それもデザート」
「で、なんだっけ?」
「ばか!もういいよ」
「なんだよ、聞いといて…良かったよすごく。それで…」
「それで、なんだよ!」
僕は黙った。葵ちゃんのことを話そうかと思ったけど、やめにしといた。何回もこういうシチュエーションの時、雅樹にその気がなくても、相手がその気になったことが過去何度かあり、別に自信がない訳じゃあなかったけど、旅先のラブ・ロマンス、雅樹に邪魔はされたくなかったからだ。
雅樹はいっちょ前に車を持っていた。まぁそのおかげでただで家まで帰れるわけだけど、やつにはつくづく感心させられる。
車が見慣れた景色を走るようになっていた。久しぶりの我が家がもうすぐだ。今日は雅樹も夕食を一緒にとることになっているらしい。お姉ちゃんの優しい配慮だろう。再会の喜びなんてものは別にないまでも、二人の近況を語る前に、雅樹からある計画を持ち出された。
「おまえにも一役買って欲しいんだけど」
そんな感じでだ。
第3章 TASMANIA LOVE STORY はこれで終わりです。
第4章 FARM STAY 。
沖田公平が親友・柴山雅樹に再会してすぐに田舎で数日間を過ごします。
ここでも色々起こるし、ある計画も考えられます。いったい何が起こるのか!?
ご期待ください。




